第114話 また共に
(はぁ~~~~…………今後は先輩の驕りとはいえ、自重しないとな)
ナツキが変装用のマジックアイテムを持っていた為、やる用の宿から出る時のあれこれで特に悩む必要はなかった
それはそれでアストにとって有難いことではあるのだが、ノヴァの幹部であるナツキ
と一夜を共にしてしまった……男にとってはこの上なく最高の体験。
アストもあれよこれよと、ゆっくりと思い出していき…………感想としては悪くなかった。
ただ、もしバレたらという不安は当然ある。
(どう考えても……ヴァレアより口が軽そうなんだよな~~~)
バーでの会話を思い出す限り、あまりクランに所属している上での愚痴などはなかった。
機密事項をポロっと話す訳でもなかったたため、その辺りを考慮すればなんだかんだで口が固いのでは? と思えなくもないが、アストの記憶には……ヴァレアにあぁいった報酬のアイデアを伝えたという印象が非常に強い。
(……ポロっとどこかで零されて、ナツキさんやヴァレアのファンたちに囲まれてボコボコにされない内に王都から離れよう)
アストは国王、そして第五王子であるマティアスだけには王都から離れて別の街へ向かうことを伝えようかと思ったが……それはそれで騒がれる要因になりそうだと思い、出発前に王城へ向けて軽く頭を下げてから旅立った。
(? 最近、あの人を見ませんね)
ヴァレアは今日も今日とて仲の良いクランメンバーたちとギルドに丁度良い依頼を探しに来ていた……のだが、いつの間にか丁度良い内容の依頼書ではなく、ある人物を探していた。
「ヴァレア、この依頼なんてどう?」
「えっ、あぁ……そうね。討伐対象の強さ、報酬金……共に悪くないと思うわ」
「ぃよし! 皆もこれで良い?」
「構わないぞ」
「そうだね。その依頼を受けようか」
「んじゃ、受理しに行こっか!!」
元気一杯のハーフドワーフの冒険者が先頭になり、受付の列に並ぶ。
(……さっきのヴァレア、別の事に気を取られてたよな…………つか、誰かを探してた?)
(討伐対象の強さ、報酬金が悪くないっていう感想は咄嗟に口にしただけではないと思うけど…………誰かを、探してたよね)
二人の比較的若い男性冒険者は、クランノヴァの中でもヴァレアと仲が良く……パーティーを組んで活動することが多い。
故に、先程のヴァレアは丁度良い依頼探しに集中していなかったことを見抜いていた。
「そういえばヴァレア、さっき誰か探してた?」
「っ……バレてましたか」
「もう結構付き合いあるからね~~。でも別に怒ってはないよ。ただ、珍しいなって思ってさ。もしかしてぇ……気になる人でもできた?」
「「っ!!」」
ハーフドワーフの女性冒険者がヴァレアに投げかけた質問は、野郎二人が今も最も気になっている内容であり、その答えを知りたいような……逆に知りたくないような気持。
同僚がヴァレアにその質問を投げた瞬間、心がキュッと締め上げられた感覚になるも……野郎二人は口を挟むことはなく、大人しくヴァレアが答えを口にするのを待った。
「いえ、そういった意味での気になる人ではありません」
((ふぅーーーーーー))
ヴァレアの答えに、野郎二人は心の中で安堵の息を吐いた。
「ただ、これまで出会ってきた男性と比べて、普通ではない……不思議な雰囲気を持つ人でしたね」
「ミステリアスな人ってこと?」
「人間らしいところもありますが、そういったタイプの人です。それに、彼とはまた共に冒険してみたいと思っています」
「「っ!!!!????」」
また共に冒険してみたい。
それは女性から男性に送られる……といった性別など関係無しに、冒険者が冒険者に送る最大級の賛辞と言える。
「へぇ~~~。その彼は、そんなにヴァレアの心を惹く人なのね。でも、探しても見つからないって事は、もう王都にはいないの?」
「かもしれませんね。元々彼は旅の冒険者でしたから」
会話の中で、彼に関する名前は一切出てきてない。
しかし、ノヴァに所属する比較的若い冒険者たちの中では……ここ最近有名な冒険者であるため、名前を出さずとも解ってしまう。
(ふ、ふっふっふ。あの二人があんな顔してるのを見られるなんて最高ね。けど、ヴァレアがここまでこう……人を想う顔? をするなんて…………そんなに良い男、いや……漢だったのかしら)
ヴァレアが貴族令嬢というイメージの如く、同じ冒険者であっても平民に対してツンツンした態度を取るタイプではないことは周知の事実。
ただ、恋愛……色恋沙汰に関する想いが顔に出ることはまずない。
「今すぐは無理だろうけど、その彼が冒険者を続けてて、私たちも冒険者として活動を続けてれば、その内また一緒に冒険出来る筈だよ」
「ふふ、そうね。それじゃあ、再開した時に恥をかかない様に、今よりも更に強くならないとね」
最後の最後にまた珍しい笑みを浮かべたヴァレアを見て……ハーフドワーフの女性冒険者はテンションが上がり、野郎二人は依頼を受理してもらう前から瀕死状態に追い込まれた。
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