第104話 今回だけにするのは、勿体ない

細剣技スキル、悪鬼突貫


会得出来るスキルレベルは五と、文字通り一流の細剣士しか到達できない領域。

そして現在、ヴァレアが放つことが出来る最も高火力の技。


刃に突風を纏うことで、更に貫通力が強化された悪鬼を貫く突きが放たれた。


その一撃は……防御力に特化したモンスター、ゴーレムの上位種などが相手であっても完璧に貫けるほどの貫通力を有している。


「ッ!!!!!」


「なっ!?」


だが、烈風竜もまた遠距離からの接近という狩りスタイルだけに頼る駄竜ではない。


咄嗟に体を旋回させ、翼撃で悪鬼突貫の軌道を逸らせた。


しかし……その代償は大きく、片翼に明確な穴が生まれた。


「ナイスアタックだ、ヴァレア」


スキルで空を飛んでいるのではなく、翼を用いて飛んでいる。

当然だが、その翼に支障が生まれれば、傷は浅くともバランスが崩れてしまう。


「ステア……居合・断空」


その隙を見逃すアストではなく、烈風竜が放ったブレスと刀技、居合切りを混ぜ合わせた一撃を放つ。


烈風竜には……翼を貫かれ、バランスが崩れようともまだ武器は残されていた。


爪撃、尾撃、そしてブレス。

バランスが崩れたとはいえ、全く動けない訳ではない。


だが、どの攻撃で対応しようとも……放たれた斬撃を相殺できるイメージが湧かなかった。


「ッ、ァ……ァ」


それが……また大きな隙となり、居合・断空によって烈風竜の首が切断された。


「ふぅ~~~~、なんとかなったな」


「そう、ね」


「どうする。このまま解体を始めるか?」


「……えぇ、そうしましょう」


疲れはある。

それでも烈風竜との戦闘で温まった体はまだまだ動く。


二人はアドレナリンが溢れている間に解体を始めた。


「…………最後の攻撃、凄かったわね」


「そりゃどうも。ヴァレアも……まさか悪鬼突貫を放てるとは思っていなかった」


細剣を使うのであれば、決め技が突き系統の技であることは予想出来る。


だが、それでも細剣技スキルの中でも、それが放ててこそ一流と言われる技、悪鬼突貫を使用出来るとは思っていなかった。


「これでも、幼い頃からずっと握り続けてきたのよ。それでも……あなたが最後に放った斬撃刃は、本当に凄かったわ。あれは……あなたが始めた詠唱と、何か関係があるのかしら」


同業者に対し、必要以上に相手のスキル等に関して深く訊かないのが常識。


それはヴァレアも理解しているが、それでも……最後に放たれた斬撃刃は自分が刀を使おうと決めた師の一刀に近しい衝撃を感じた。


「まぁ、そんなところだ。伝えた通り、あれがタンクにもなれる技だ」


「そうね。あれがあったからこそ、私は烈風竜の背後に回ることが出来た。結局、私の一撃で仕留めることは出来なかったけど」


「そう悲観することはないだろう。あれは、あのタイミングで回避した烈風竜の反応速度が凄かった……それに、ヴァレアが放った悪鬼突貫は弾かれることなく、確実に烈風竜の翼を貫いた。それがなければ、俺が放った斬撃刃も上手く対処されていたかもしれない」


「…………ありがとう」


「事実は言っただけだ」


慰めの気持ちがゼロではない。

ただ、アストがヴァレアの悪鬼突貫を見て、寒気を感じたのもまた事実。


(あれだけの攻撃が放てるなら……他のBランクモンスターが相手であれば、ソロでも倒せるだろうな)


アストは改めてヴァレアの実力に感服し……自分が持つカクテルという特殊なスキルに感謝した。


既に身体能力に関しては限界を悟っている。

そんなアストにとって、カクテルというスキルは格上に対抗できる武器。

それがあるからこそ、他人と比べて悲観せず、これからも前を向いて生き続けることが出来る。



「「乾杯」」


最寄りの街へ戻った二人は、冒険者ギルドで烈風竜の討伐は密かに報告した。


密かに報告した理由としては……下手に騒がれたくないから。

二人とも意見が合致し、ギルドから報奨金が支払われたものの、二人は大勢の同業者たちに囲まれながら呑むのではなく、これまで通り酒場で呑んで食っていた。


「……なんと言うか、やはりアストは普通ではないわね」


「またその話か?」


「私が頼んだこととはいえ、命を懸ける必要はないでしょう」


接近する烈風竜を居合で対応する。

烈風竜のブレスをアルケミストで受け止める。


どれも一手間違えれば、予想が違えば死が迫っていたかもしれない。


「…………最初は、正直なところお前という人物には、あまり関わりたくなかった。名刀の買取に関しても……正直、迷ったものだ」


あまり関わりたくなかった。

そう言われて良い気がしないものの、ヴァレアは自身が貴族の令嬢であることは忘れておらず、ある考えを持つ冒険者たちから一定の距離を取られていることも解っている。


「ただ、こうして関わって、今日だけの縁にするのは勿体ないと思った」


「そ、そう、なのね」


「また何処かで会えた時、今回のことを思い出しながら、笑って酒を呑んで語り合いたい……そう、思えた」


旅をする冒険者にとって、別れは切っても切り離せない。

だが……それと同じほど、多くの出会いに巡り合える。


別れたからといって……二度と出会えないということはない。

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