第103話 平等に背負う

「……アスト」


「なんだ」


「どうして、そこまで本気になってくれるのかしら」


「…………?」


いきなりされた質問の意図が理解出来ず、思わず首を傾げるアスト。


「あなたが取ってくれた方法……確かに有効打になるとは思うけど、あなたへのリスクは高いでしょう」


「あぁ……そういう事か」


質問の意図を理解したアストは特に悩むことなく答えた。


「副業とは言っているが、冒険者としての仕事に誇り……と言うのは少し大袈裟だが、しっかりと仕事意識は持っている」


副業なんだし、真面目にやる必要はない、なんて考えはアストの中に一切ない。


「確かに今回は冒険者ギルドからの依頼受けた訳ではなく、ヴァレアからの個人的な依頼という形ではあるが、それでも適当にやる意味はない」


「………………やはり、あなたはあまり冒険者らしくないわね」


「何度も同じ事を言われて来たよ。けど、この感覚は決して俺が他人と違うからという訳ではないと思うけどな。だって、人からされて嫌なことは、基本的に他人にしようとは思わないだろ」


「……自分がされたら嫌だから、ということね」


「そういうこと」


解らなくはない。

アストの考えが解らなくはないが、それが実際に出来るか否かはまた別のことであるとヴァレアは理解しているため……やはり、アストは良い意味で冒険者らしくないと思った。


「「ッ!!!!!!!」」


次の瞬間、強烈な殺意が二人に向けられた。


アストは腰を落し、ヴァレアはアストの背に周り、待機。


(こ、こだッ!!!!!!!!!!!)


常人より優れた動体視力を有しているアストであっても、迫りくる標的、烈風竜の姿はなんとなくでしか把握出来なかった。


だが、間違いなく攻撃が飛来してくると感じた部分に向かって抜刀。


だた斬るのではなく、腰を捻り体全体で斬り落とすことに全集中。

あの名刀ではないとはいえ、ベルダーが自分の為に制作した高品質の刀であり……あっさりと破壊されれば、アストでも泣く。


「っ、成功だ」


小さく、しかしホッとした表情で口にした。


烈風竜が繰り出した攻撃内容は爪撃。

加速スピードも相まって、しくじれば刀だけではなくアストの腕まで持っていかれててもおかしくはなかった。


「ッ!! ィィイイイイイイアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


しかし、カウンターが成功したまでは良かったが、当然ながら烈風竜の怒りが爆発。


沸点が低いな~~~とバカにする余裕などなく、今度はヴァレアが仕掛ける。


「シッ!!!!!」


連続で放たれる刺突は多少の距離など関係無く、烈風竜が両翼を扇ごうとも、かき消されることなくその命に迫る。


(無駄ではない……でも、やはり距離が遠い)


雑に潰されないが、それでも明確なダメージを与えられている様には思えない。


「フッ!!!!!!」


であればと、アストは一度納刀し、再度全力で抜刀。


アストが意識せずとも、グリフォンの素材が使用されている刀は放つ攻撃に風属性を纏い、敵の命を脅かす。


(チっ! そう簡単に当ってくれないか。けど、避けてるって事は、それだけ俺たちの攻撃を脅威だと思ってる証拠!!!)


ひとまず、受けに周ってはいけない。

そう思ったアストは攻めの姿勢を崩さない……ようにしながらも、中々烈風竜が降りてこない状況に対し、嫌な予感を察知。


「幾千のマテリアル、銀の杓子で舞い踊り、波紋を広げる」


「っ、ハッ!!!!!!!!」


味方が何かしらの詠唱を始めた。

ヴァレアは深く突っ込むことはなく、ある程度自身の残りの魔力量を気にせず強烈な斬撃刃と刺突を連続で放つ。


「その輝きは星の数。今この瞬間にも、新たな星が生まれる」


「ッ!!!!!!!!!」


烈風竜は一人の人間に対し、得体の知れない恐ろしさを感じた。


故に、瞬時に魔力を集中させ、自分の中で一番高火力の攻撃である……ブレスを選択。


(好都合っ!!!???)


片腕を前にして風のブレスを受け止めた瞬間、これまでに感じた事のない衝撃がアストを襲う。


(ぐっっっっっ!!!! 普通に考え、れば。Bランクドラゴンの、ブレス……当然と言えば当然、か)


敵の攻撃を受け止め、自身の攻撃を混ぜ合わせることで、オリジナルの攻撃を生み出す技、アルケミスト。


非常に万能な技のように思えるが、そもそもアストが敵の攻撃を受け止められる、もしくはいなせるだけの力がなくてはならない。


現在、アストは直ぐに烈風竜のブレスを自分のものにすることが出来ず、数メートル以上後方に押されていた。


「破ッ!!!!!!!」


だが、烈風竜の敵は一人だけではない。


「っ!!!!!?????」


事前に聞いていた。

タンクの真似事の様なことが出来ると。


翼竜を相手に宙に跳ぶのは得策ではないと解っている。


ただ……自分だけリスクを背負わないという選択肢は、ヴァレアにとってあり得なかった。

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