第101話 ドワーフが認める物
(……まだ仕留められていないのはラッキーではあるが、ちょっと…………油断出来ないのは当たり前なんだが、かなり心配になってきたな)
まだ烈風竜を他の冒険者たちに取られていない。
それは烈風竜を狙っているアストとヴァレアにとっては非常に嬉しい情報。
しかし、耳にする話の内容は……どれも一方的にやられているものばかり。
烈風竜、ブリーゼルがBランクモンスターの中でも最上位の実力を持っている……ことは知らずとも、Bランクモンスターというザ・怪物であることはルーキーでも知っている内容。
そしてルーキーであればCランクモンスターですら勝ち目が基本的にゼロだというのに、Bランクモンスターに挑むなど……自殺行為という言葉すら生温い。
故に、挑むの者たちは大半がCランク冒険者やBランク冒険者、もしくは彼らと同等の戦闘力を持つ騎士たち。
「……初手が、悩むな」
「烈風竜のことね」
「あぁ、そうだ。耳にする話の内容的に、どうやら初手の対応で大きな差が生まれている。解ってはいたが、もう少し念入りに考えた方が良さそうだな」
狩りを得意とするモンスター。
そういったモンスターとの戦闘経験はある。
アストは言わずもがな、ヴァレアもこれまで多くのモンスターと戦ってきた。
狙われたことに気付き、カウンターを叩き込む技術力は持っている。
だが、それは二人だけが持つ特別な技術ではない。
「……左右に跳ぶ……だと、翼撃の餌食になりそうね」
「かと言って、後方に跳べば喰われてしまう」
「敢えて前に跳ぶのは?」
「…………脚で引き裂かれる可能性が高いかと」
モンスターがどこまで考えて動いているのかは分からない。
しかし、話を聞く限り、標的の烈風竜は何度も狩りというスタイルで冒険者たちを襲撃している。
「回避という手段を取るのであれば、斜め下に跳ぶ…………それが一番攻撃を上手く避けられる可能性が高い」
「そうなりそうね」
烈風竜について話し合いながら夕食を食べ終えた後……アストは先日と同じく、店を開いていた。
どう烈風竜を攻略するか。
そんな悩みを抱えたままではあるが、自分が悩みを抱えているからといって、店を開かなくても構わないだろうというのは、彼のプライドに反する。
「兄ちゃん。いや、店主。強い酒は置いてるか?」
「いらっしゃいませ…………すぐにでも酔いたい、というのがご要望でしょうか」
「あぁ、そうだな」
「…………畏まりました。では、メニュー表に書かれてあるこちらがお勧めかと」
アストは一目でミーティアに訪れたが客が、アルコールに強い耐性を持っていると見抜いた。
メニュー表に記しているカクテルでは、おそらく直ぐに酔ってもらうことは難しい。
冷静にそう判断したアストは……カクテル以外の酒を勧めた。
「多少のお値段はしますが」
「……構わない、一杯頼む」
アストが勧めた酒は、ネットスーパーで購入出来るものではなく、この世界の酒……火酒である。
呑むと、まるで喉を焼くような熱さを感じられる酒。
酒、もといアルコール大好きなドワーフたちが酒と認めるザ・酒。
それが火酒。
「ッ~~~~~~~!!! …………久しぶりに呑んだが、美味いな」
「……何か、ございましたか」
お通しを用意しながら問いかけた。
訪れた客は、完全に初対面の客。
以前、別の街で出会ったことがある同業者でもない。
ただ、そんな事関係無しに解るほど、男の表情は沈んでいた。
「店主は……面識のある奴が死んだ経験はあるか?」
「副業で冒険者をやっているので、何度か経験はあります」
「そうなのか………………どんな気持ちだった」
普段なら他の同業者に訊かない様なことを無意識に訊いてしまった。
無神経に思われる内容であり、普段の男であればその辺りに気付けていたが……今はその余裕が一切なかった。
「……冒険者として生きていれば、そういう事もあると覚悟はしていました。寧ろ、冒険者として活動していて天寿を全う出来る方が珍しいでしょう」
「そうだな」
「頭では、そう理解していました…………ですが、それと悲しさは別です。自分に何か出来ることがあったのでは、といった傲慢な考え方は出来ません。ただ……もっと、話しておけば良かったなと、思います」
静かに語るアストの言葉に、男は心の底から共感していた。
当然、死んでしまえば、もう話すことは出来ない。
自分が死んだあと、天国と呼ばれる場所で再び会える?
そんな保証……誰がどう証明出来る。
「それなりに強い友人がいた。Bランクモンスターとの戦闘経験もあった。その戦闘で……パーティー単位ではあるが、勝利を収めていた…………でも、そいつだけ、帰ってこなかったんだ」
そっと差し出された野菜スープを飲み……男は火酒の熱さとは全く違う温度……暖かさに触れ、ついに涙を堪え切れなくなった。
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