第100話 喜んではいけないが……
「バンデットジャッカルか」
咬合力……咬む力が強いハイエナ。
ランクはDとそこまで高くはないが、その特徴通り、咬まれるのは是非とも避けたい相手。
「半々で頼みますわ」
「了解」
数は六体とやや多く、数では圧倒的に負けている。
しかし、二人は一切慌てることなく己の得物を抜き、迫りくるバンデットジャッカルの急所に刃をぶち込む。
「ジャバっ!?」
「っ……」
「ジャ、ガァ……」
アストが振るうロングソードは一度も動きを止めることなく首を斬り落としていき、ヴァレアの細剣は容赦なくバンデットジャッカルたちの頭部を貫いていく。
「終わったようですね」
「そちらもな」
結果、二人は六体のバンデットジャッカルを二十秒と経たずに全滅させた。
「肉は食えないが、毛皮と牙や爪は使える。さっさと解体してしまおう」
「では、周囲の警戒を行っておきますわ」
「よろしく」
Dランクモンスターの素材となれば、一応それなりの値段で売却できるため、烈風竜の探索を優先する!!!! とは言わず、素直に周囲の警戒を始めた。
「随分と、一対多数の戦いに慣れている様ですね」
「行動スタイル的に、ソロで活動することが多いからな。もう慣れたものだ」
「……一応聞きますが、恐ろしいと思ったことは?」
「敵の位置を冷静に把握出来れば、そこまで恐ろしいとは思わない」
平然と答えるアストの言葉に、ヴァレアは現在一時的にパーティーを組んでる男が積み重ねてきた経験の重さを感じ取った。
(やはり、色々と普通ではありませんわね……だからこそ、頼もしいと感じる)
二人で烈風竜に挑む。
それがどれだけ困難なのか、勿論理解している。
だからこそ、良い意味で色々と普通ではないアストの存在は、この上なく頼もしいと感じていた。
「というか、それはヴァレアも同じじゃないのか?」
「以前、ダンジョン探索した際に、嫌というほど体験したわ。それもあって、それまで以上に一対多数の戦いに慣れたのよ」
「……もしかして、ソロでダンジョン探索したのか? それとも、モンスターパレードにでも遭遇したのか?」
一攫千金を狙える魔宮、ダンジョン。
そこでは理由は不明ではあるが、モンスターが何故か無限に生まれ、そして何故か宝箱という人の欲を引き付ける物も無限に生まれる……まさに魔宮と呼ぶに相応しい存在。
そんな魔宮の中で、時偶……いきなりモンスターが大量発生することがある。
その数は基本的に数十程度で収まることはなく、最低五十……百を越えるモンスターが一度に現れ、階層で活動しているモンスターに襲い掛かかる。
「浅い階層ならまだしも、それなりに深い階層を一人で探索する訳がないでしょう。本当に偶々モンスターパレードに遭遇してしまったのです……いえ、数はおおよそ三十半といったところだったので、正確にはモンスターパレードではないのかもしれませんが……とにかく、そういった事がありました」
「三十半、か。その時仲間は?」
「クランのメンバーと潜っていたので、私を含めて八人いました。とはいえ、二人が手負いの状態でしたので、即座に戦える面子は六人でしたね……本当に、狙いを定めた様な襲撃でした」
「まるで、ダンジョンが自分たちを殺しにきてるような感覚、だったか」
「えぇ、本当にその通りです。もしかして、あなたも同じような経験を?」
「そんなところだ」
アストもダンジョンという存在には、それなりに興味を持っていた。
そんな中、偶々寄った街にダンジョンがあり、そこで仲良くなった冒険者たちと組んで探索していたのだが……ヴァレアと同じく、メンバーの一人が負傷したタイミングで、十体以上のモンスターから襲撃を受けた。
「否定する人は当然いるだろうが、経験した者は皆同じ考えだと思う」
「気が合いますわね…………あなたの事ですから、どこかのパーティー、クランから誘いを受けたのではなくて?」
「確かに、そんな事もあった。ただ、俺がどういった冒険者なのかを知ってるから、大人しく引き下がってくれたよ、っと」
あれこれ話している間に、バンデットジャッカルの解体が終了。
肉や内臓を丁寧に解体する必要がなかったため、比較的早く終わった。
(……私は、この男を誘わずにいられるでしょうか)
現時点で、既に自分が在籍しているクランに加入しないか、と誘いたい気持ちがあった。
(なんとか、抑えませんとね)
意識を切り替えてその後も探索を続けるも、お目当てのモンスター、烈風竜と遭遇する事は出来ず……それらしい存在が他の同業者を襲撃する場面とも遭遇しなかった。
しかし、街に戻ってから共に夕食を食べていると……別のテーブルから、今日同業者である二人が烈風竜の襲撃によって死亡したという話が飛び込んできた。
(……可哀想ではあるが、少なくともヴァレアにとっては有難いニュースだな)
わざわざそれなりの距離を移動してきた時間が無駄にならずに済んだ。
それは二人にとって、やはり嬉しい情報だった。
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