第88話 どうやって
「見つけましたわ!!!」
「……?」
アストが朝食を食べようと、宿の食堂に降りてくると、一人の女性がアストを指さし、大きな声で見つけたと口にする。
(見た顔……って、もしかしてあの人は)
もしかしてという予想通り、近づいてくる女性はアストにとって同業者に当たる存在であり……先日、とある武器を懸けて勝負した女性、ヴァレア・エルハールトである。
「え、えっと、どうしましたか?」
「どうしたもこうも……ッ!!!!!!」
(怒ってる顔も美人だな~)
怒りのせいで美人が台無しとアストは思わず、それはそれである意味美しいと、暢気に捉えていた。
「あなた、本当に数日前にあの条件を達成しましたの!!!!」
ヴァレア自身、この問いに関して無理がある、理不尽であることは解っている。
昨日、ようやっと条件であるBランクモンスターの素材と樽一杯分の漆黒石をベルダーの店に持って行った。
アストと同じく、ただ単純に店で購入したのではなく、自分の力を経由して手に入れたという証明書を見せた。
掛かった時間を考えれば、ヴァレアもまた優秀な冒険者であることが窺える。
しかし、素材と鉱石を見せ、証明書も見せ終えた後で……実はアストの方が先に用意したと……既にあの刀を売却したと伝えられた。
刀があった場所を確認しておらず、ヴァレルアは本当に購入したかった刀が売られたことにショックを受け、その場で膝から崩れ落ちた。
ベルダーも鬼ではなく、素材は正規の値段に少し色を付けて買い取ろうと伝えたが、ヴァレアにもプライドがあったのか……それともやけくそになったのか。
その場で「結構です!!!!」と怒鳴り声に近い声で伝え、去って行った。
「はい、そうですね」
「っ!!! どうやって、達成しましたの!!!」
ヴァレアは王都のとあるクランに所属しており、貴族の令嬢ということもあって、そこら辺の冒険者よりも高い情報収集力がある。
その力を持ってすれば、アストが現在泊っている宿を突き止めるのは容易かった。
「どうやってと言われても……情報を集めて、Bランクモンスターを討伐して、漆黒石を採掘して…………まぁ、漆黒石に関しては運が絡んだ結果、纏めて手に入れることが出来ましたが」
マティアスの情報収集力を借りた件に関しては伏せ、漆黒石に関してはそれっぽく伝えた。
「び、Bランクモンスターはどうやって倒しましたの!!」
「正面から倒すのではなく、狩りに近い形で倒しましたね」
「ッ!!!!」
淡々と告げるアスト。
余裕溢れる様子に、握る拳の力が強まり……奥歯を強く噛みしめる。
(嘘は……言ってない。言ってるようには見えない。ベルダーさんも、嘘を言ってるようには、見えませんでしたわ)
ヴァレアの冒険者歴は、決して長くはない。
歴数で言えば、アストとそう変わらない。
だが、表情やポーカーフェイスを見破る……そういった事が重要な世界で生きてきた
年数は、アストが前世での経験年数を足しても、ヴァレアの方が上。
ベルダーが自分よりも目の前のアストを気に入っているという事はなんとなく気付いていてたが、それでも贔屓をしたいからという理由で嘘を付いてるようには見えなかった。
(けど……けど、いったいどうやって!!!!!!)
嘘はなかった。
だとしても、目の前の同業者がどうやって自分よりも早く条件を達成したのか、まるで想像がつかない。
「えっと……俺、まだ朝食食べてないんですけど、良かったら一緒に食べますか?」
「……そうですわね」
自分が相手の都合を無視して問答していた、他の宿泊客たちの視線が集まっている事に気付き……一旦落ち着く為にも、アストからの提案に乗った。
「………………」
(ん~~~~……やっぱり美人な事に変わりはないけど、物凄い視線がチクチクと刺さるな~)
ヴァレアはただアストと同じテーブルに座るだけではなく、しっかりと朝食を頼んでいた。
しかし、食べている間もアストの方をジーっと見続けており、見られる側としては非常に落ち着かない。
「……あなた、もうあの刀は使いましたの」
「いえ、まだ使っていません。ここ数日は本腰を入れて活動してないので」
「そう……」
実際に振るってはいないが、道具に対しては視る眼を持っているヴァレア。
自分が欲していた刀であれば、並みのモンスターが相手ではあっさりと終わってしまう光景が容易に眼に浮かぶ。
「では、あなたは刀をメインの武器として扱うのかしら」
「自分のメイン武器はロングソードですね。他の武器も多少は扱えますけど、一応メインはロングソードです」
「ッ!!!!!!」
刀を使えなくもない。
そう言いたいことは解る。
だが……それと同時に、ヴァレアはアストが刀という武器をメインとして扱う意志が明確にないことを感じ取った。
(もしかしなくても……地雷を踏んでしまったか)
ツンとしてるところも美しいな~~っと、圧倒的に気の抜けた思考状態であったアストは、ツンどこではなく剣山とも感じられる圧をぶつけられ、ようやく目が覚めた。
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