第42話 猛れ、暴牛
「グゥアアアァアアアアッ!!!!!」
(ッ! さっきの雷の斬撃刃を避けた時も、思ったが、この熊……本当に、素早いな)
事前に魔力回復のポーションを準備していた為、珍しくたった一撃にそれなりに消費した魔力は全回復。
魔力は勿論、体力にも余裕はあるものの、中々厳しい相手であることに変わりはない。
「シッ!!!!!」
(幸いなのは、前衛としてカイン様が付いて来てくれるところ、か)
カインほどの実力者であれば、強烈な一撃を叩き込む側に回って欲しい……という思いもあるが、共に前衛としてエイジグリズリーと戦えるのであれば、戦線を維持できる時間が延びる。
(それにしても、やっぱり! 思ってたおり……カイン様の実力、半端ない、な!!)
ソロでBランククラスに成長したエイジグリズリーを圧倒することは無理だが、それでもアストはカインの実力、今日初めて一緒に戦う前衛の動きに合わせられる柔軟性に驚いていた。
「ゼェェアアアアアアアアッ!!!!」
そしてアストが戦いに加わってから約一分後、一人の学生が旋風を纏ったバトルアックスを振り下ろした。
その一撃は地面をも数メートル切断してしまう一撃であったが、これをエイジグリズリーは寸でのところで回避。
毛皮を軽く切る事には成功したが、腕の切断には至らなかった。
(隙、ありッ!!!!!!)
心の中で吼えるアスト。
強力な一撃はなんとしても避けたい。
学生が放つ渾身の一撃であれば、エイジグリズリーは回避できる可能性が高いと踏み、最初からなんとか回避した隙を狙おうと考えていたが……なんと、体を全力で後方に回転させながら回避。
「なっ!?」
思わず驚きの声が零れるアスト。
だが、他の学生たちは驚きながらもその隙を見逃していなかった。
「はぁあああああアアアアッ!!!!」
次に放たれたのは閃光を纏う、突貫の一撃。
レイピアによる最速の突きは……頭部、もしくは心臓を貫けばそれだけで決着となる。
「ゴォオオオァアアアアアッ!!!!!」
「ッ!!!! きゃああああ!!!???」
(あのエイジグリズリー……魔力の質を変化させるの、上手過ぎないか?)
またもや学生が放った渾身の一撃が叩き込まれることはなく、その後再びアストとカインが激しく攻めながら隙を生み出し、最後の学生が渾身の一撃を叩き込むが、これも躱されてしまった。
「…………マスター、あの個体はおそらく、エイジグリズリー、でしょう」
「そうみたいですね、カイン様。実は、あの個体を狙ってここ数日、森を探索していました」
「っ!? そう、だったのですね」
まだ……一応軽口を叩く余裕ある二人。
しかし、カインと共に行動していた学生三人は、先程の渾身の一撃を放ったことで魔力に余裕がなくなり、更には自分の渾身の一撃をあっさり対処されたことに、心が折れかけていた。
「とはいえ、ここまで強いのはちょっと予想外でした……という訳でカイン様。私が合図を出したら、後方に下がってください。よろしくお願いします」
アストはカインの返事を聞く前に、この戦況を変える為の手札を切った。
「勇ましき雄牛よ、吼えろ」
(並行詠唱っ……しかも、先程と変わらない速度のまま……やはり、ただ者では、ありませんでしたか)
どういった手札を切ったのかは解らない。
それでも今のカインにとって、アストは信頼するに値する人物。
故に、彼の詠唱を邪魔されないよう、全力でサポートに努める。
「たとえその身が傷付こうとも、猛れ」
「ッ!!!!」
何かを察し、この戦いの最中に明確に焦りの色が浮かぶエイジグリズリー。
だが、彼にもアストとカインという強敵を完璧に倒せる一手がないのもまた事実だった。
「猛れ、猛れ、猛れ暴牛よ。荒野を突き進み、その背で示せ。ブレイブ・ブル」
(今だっ!!!)
これが合図なのだと即刻理解したカインはアストを信じ、全力で後方に飛んだ。
「っ、オオオオオオォオ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!!」
「ッ!?」
「「「「っ!!!!????」」」」
次の瞬間、冷静に……クールに戦っていた筈のアストがロングソードを納刀したかと思うと、天高く獣の様に雄叫びを上げた。
その光景に現在命懸けの戦いを行っているエイジグリズリーだけではなく、カインたち四人も驚きを隠せなかった。
「ガァアアアアアアアッ!!!!!」
しかし、エイジグリズリーには驚き続ける暇はない。
スキル、カクテルの技の一つであるブレイブ・ブルを使用したことにより、アストの全身体能力が向上。
人間、誰しもが秘めている内なる狂暴性が引き出され、代償として冷静さを失うものの……それだけの価値がある。
現にエイジグリズリーにの脚を刈り、右手を腹に当て……そのまま地面に叩きつけた。
「っ、ギっ!!!!!????」
人型ではないが、それでも生きていく上で肺が重要な生物であることに変わりはなく、人間と同じく背中から地面に叩きつけられるという攻撃は、かなり致命的であった。
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