第41話 狙うはその一体のみ
「さて、一日で見つかってくれると嬉しいんだけどな」
森に到着して、浅い場所で一晩過ごしたアストは慎重に……周囲の警戒を怠らないようにしながららも、早歩きで目的のモンスターを探す。
「ッ!!」
だが、最初に発見してしまったのはコボルトの上位種。
姿を確認したアストは直ぐに身を隠し、見つからないように……ゆっくりとその場から離れた。
(ふぅ~~。どうやら、ちゃんと効果は継続されてるみたいだな)
アストはスタミナ強化の指輪をしまし、今は匂い消臭の効果が付与された指輪タイプのマジックアイテムを装備していた。
コボルトの上位種の中でも、Dランクであれば問題無く葬れる。
Cランクの上位種であってもそこまで焦る必要はないほど、アストの戦闘力は高いのだが、あくまで今回の探索は狙っているモンスターの肉を手に入れる事。
それ以外の戦闘で魔力、スタミナを消費したくない。
それなりに金になるモンスターではあるが、今のアストは一ミリも興味がなく、避けられる戦闘は全て避けていく。
(チッ、中々見つからないな)
ネットスーパーで購入したサンドイッチを食べながら空腹を満たし……一度冷静になったアストは、今自分が森のどのあたりにいるのか気になり、適当な木を見つけて登る。
「……最奥はまだ先だが、予定より深いところまで来てしまったか?」
最奥ではないものの、現在アストが探索している場所は、過去にBランクモンスターが現れた例がそれなりにある。
(いや、確か単純な戦闘力に関しては、Bランクに迫っててもおかしくないんだったよな……出来れば普通の状態の方が…………って願うのは、一料理人として失格か? でも、冒険者としては間違ってない思考だよなぁ)
現在アストが欲しているモンスターは、基本的にCランクなのだが……戦えば戦う程、徐々にではあるが確実に強くなっていき……名前が変わらないにもかかわらず、Bランククラスの戦闘力を有する場合もある。
鑑定という相手の名前や所有スキルなどを視ることが出来る者たちからは、鑑定詐欺モンスターと呼ばれることもある。
そして過去にはAランククラスまで成長した個体が確認されており、幾人も犠牲になったが……討伐した者たちはそのモンスター肉を食べた瞬間、今まで自分たちが食べていた肉は腐っていたのでは……と錯覚するほどの美味さを体験した。
カクテル作りがメインではあるが、やはり一料理人としては気になってしまう味。
(……クソ、目的を切り替えた方が良いか?)
そろそろ探索をストップした方が良い時間であり、目が普通であるアストにとって、不利な環境へと変わってしまうほど、日が傾いていた。
まだ目的のモンスターを討伐することは全く諦めてはいないが、それでも万能で多才に思えるアストにも限度はある。
「しょうがない。早めに野営の準備を始めっ…………はぁ~~~。もう少し後か」
耳が悲鳴を聞き取った。
善人……と堂々と自分では言わないアストだが、同業者かもしれない者たちの悲鳴を聞いて、見ぬふりをする程……薄情ではなかった。
「ん? あの後ろ姿は……って、あの見た目!!!」
悲鳴が聞こえた地点付近で、見覚えのある後ろ姿と……自分が探していたであろうモンスターを発見。
(助ける、一択だな)
匂い消臭の指輪から、身体強化系の指輪を装着。
「下がれッ!!!!」
「「「「っ!?」」」」
全く知らない声が背後から聞こえた。
しかし後方から感じる魔力の大きさを信頼し、彼らは一斉に後方へ下がった。
「シッ!!!!!」
「っ!!!???」
放たれた攻撃は、特大の雷を纏った斬撃刃。
当れば……アストが狙っていたモンスターと言えど、重傷は避けられない。
だが、そのモンスターは巨体からは少々予想外の俊敏さで、雷の斬撃刃を回避した。
「おいおい、今のを躱すか」
「あ、あなたは……マスター!!!」
「どうやら、ご無事だったようですね、カイン様」
助っ人が学友の知り合い。
それを知った他の学生たちは一先ずほっと一安心するも、二人の互いの呼び方にも疑問を抱いた。
「それと、ここは店ではありません。気軽にアストとお呼びください!?」
助っ人が現れようとも、先程までカインたちが戦っていたモンスター……エイジグリズリーには関係無い。
ただ、今日狩る得物が一匹増えただけである。
(これは、完全にBランククラスに成長してるな。そっちの方が肉は美味しいらしいが……カイン様以外の学生が、全員動けるのが不幸中の幸いか)
いくらアストが歳不相応の実力を持っていても、怪我人を守りながらBランクのモンスターと戦うのは厳しい。
「カイン様。まだスタミナがある自分が、前に出て戦います。皆さまは、その隙を突いて強力な一撃を、叩き込んでください!!」
「っ、助かります!! お前たち、聞いたか!!!! 彼の言う通り、強烈な一撃を叩き込むことに集中するんだ!!!!」
リーダーであるカインの言葉に他三人は頷き、彼らにとって第二ラウンドが始まった。
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