第25話 どちらも嫌なマシンガン

「伝える事に、意味がある」


「ッ!!!!!!!」


詠唱……という存在を知っており、記憶しているシルバーゴーレムは残りの魔力量など気にせず、再び両腕から銀の鱗を放出。


しかしアストはこれまでの経験から、嫌な予感を察知した者は自身の強力な攻撃で先に叩き伏せようとする傾向にあると把握していた。


ギリギリでスライディングムーブでシルバーゴーレムに近づくことに成功。


「我を通せ」


詠唱が完了。

だが知恵を身に付けたシルバーゴーレムは瞬時に自身の……一番壊されてはならない場所を分厚くした。


(ありがとさん)


それはアストにとって、逆にこの場所に魔石がありますよと伝えているため、完全に逆効果。


「ストレート」


「っ!!!!!?????」


全身に魔力を纏い、身体強化などのスキルを発動しており……スピードを殺さずに放たれた掌底は分厚くなった部分に命中。


「っと………………ぃよし!!!!!!!」


スキル、カクテルの技の一つ、ストレートは自身が放った攻撃の威力を内部に通す、もしくは防御をすり抜けることが出来る。


(すり抜けに関しては、俺もいまいちどこまですり抜けられるのか解ってないけど……体技の発勁みたいな技を、こうまでスムーズに出せるのは、本当に有難い)


放たれた掌底の威力は分厚い銀を通り……魔石に命中。

あまり外見だけでは大ダメージを負ったかどうか確認出来ていないが、完全に機能が停止した。


「ふぅ~~~~~……んで、俺に何か用か?」


「「「「っ!?」」」」


戦闘の途中から、とある視線を感じていた。


「す、すいません」


(俺よりもまだ幼い……よな?)


パーティーの人数は四人と、バランスは良いがCランクのシルバーゴーレムと戦うには全体的な戦力が足りなかった。


「そ、その……お兄さんが一人で戦ってるのを見て、俺たち、加勢した方が良いと思ったんですけど……俺たちじゃ、足手纏いになると思って」


「助けを呼びに行こうと思ったんですけど、もしその間に……あ、あなたが死んだらと思うと、上手く動けなくて」


「そうか」


保身の為に嘘を付いている訳ではない。


これも前世の経験から身に付けた……絶対的な感知、把握力ではない。

ただ、それなりに人が口にした言葉が嘘か否か……ただの見栄なのか、その謙虚さは何かを隠しているのかなど……異世界でバーテンダーとして働き始めてから、更に言葉に隠された本人の考えなどがある程度解るようになっていた。


「気にしなくて良い。あいつは本当に相手が悪かったからな」


「あの、俺らまだモンスターにあんまり詳しくないんですけど、ゴーレムってあんな攻撃までしてくるんっすか」


(意欲があるのか、それとも単純な疑問なのか……)


面倒だと感じた強敵を倒せたことで気分が良いアストは特に意地悪することはなく、ルーキーの質問に答えてあげた。


「昔、冒険者の中でも知識が豊富な学者気質な奴に聞いた話だけど、ゴーレムの中には極稀に生物を食べる個体がいるらしい。今回は鱗を……連続で放ったりしてきたから、多分リザードマンやリザード、大蛇系のモンスターを食ったんだろうな」


「っ……だ、大蛇系のモンスターを取り込んでた場合、もしかして、その……毒まで、使えたりするんですか」


「そいつは…………どうなんだろうな。専門家じゃないから解らないが、可能性はゼロじゃなさそうだな」


ルーキーからの追加質問を聞き、アストの中には水銀という物質が思い浮かんでいた。


(水銀って、確か毒……なんだっけ? この世界にも水銀はあったような……??? でも、蛇系モンスターの毒を取り込んだなら、もっと凶悪な毒になってるか???)


毒のマシンガンなど、銀の鱗のマシンガンと比べるものでもないが、最悪の攻撃であることに変わりはない。


「まっ、とりあえずあいつはもう動かねぇ」


「み、見てました。もしかしてなんですけど、発勁を叩き込んだんですか?」


「そんなところだ。ゴーレム系はクソ堅いから、まともに攻めたくない。ところでお前ら……そこに散らばってる鱗、いるか?」


「「「「っ!!!!」」」」


先輩冒険者であるアストの言葉に、ルーキーたちの方が震える。

勿論怯えている訳ではなく、彼らは嬉しさゆえに震えた。


「いやっ……その、俺達は何かできた訳ではないですし」


「かもな。けど、俺はこのシルバーゴーレムの体を丸々ゲットできた。十分に儲けが出来たから、そこまで回収する必要はない。ラッキー、ぐらいに思っておけ」


「あ、ありがとうございます!!!!!!!」


「「「ありがとうございますっ!!!!」」」


形として、一度は引いた。

それでも先輩は勝手に取ってしまって構わないと好意を伝えてくれた。


これ以上同じやり取りを行うのは、寧ろ先輩冒険者に失礼だと解っているルーキーたちは……嬉しさが顔に出ないように噛み殺しながら銀の鱗を回収。


そして現在滞在している街に戻ったアストは直ぐにシルバーゴーレムとの遭遇を伝え……それを受けたギルド職員は何故? という疑問に頭を埋め尽くされる。


(後はお願いしま~~す)


被害が大きくなったかもしれないモンスターは倒した。

冒険者としてのアストが出来る事はそこまでであり、買取を終えてニコニコしながら速足で退出した。

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