第15話 泥にまみれた強さ
「ッ……だからって、こんなに、差が……」
身体能力はアストの方が高い。
だが、それでも大人と子供ほどの差がある訳ではない。
しかし若造たちは一度もまともに攻撃を当てられずにやられてしまった。
「それは、俺がお前たち以上に泥にまみれてきたからだ」
「あんたが、何度も負けてきたって、言うのかよ」
「そうだよ。子供の頃……いや、結局まともに戦り合えるようになったのは、最後の一年から二年ぐらいか? 俺の先生だった元騎士の人が相手だけどな」
村出身の平民であるため、中々希望が持てない……目標を見つけても死ぬ気で頑張るモードを続けるのは非常に難しい。
(ネットスーパーあったから、だよなぁ……いや、規模的にスーパーと言って良いレベルなのかって疑問を持つぐらい色々とあるし)
アストだけの特別なスキル、ネットスーパーではこの世界の金を使用することで、取引が出来る。
「……戦う者としての理想は、負けないことが一番だ。けど、負けても良い……ってメンタルをずっと持つのは良くないか。ただ、信用出来る相手になら何度も負けても何度でも挑んで泥にまみれたらどうだ? これまで何度も倒れてきた奴だからこそ、起き上がり方を良く知り、結果それが勝利を使う道に繋がる。そう、俺は思うぞ」
「………………あんた、幾つだよ」
「十八……いや、今年で十九になるか」
「冗談だろ」
「はっはっは!!!! そう言いたくなる気持ちは解る。でも、残念ながら事実だ。さて……これに懲りたら、他人なんて気にせず自分の事を考えて生きろよ。おっと、常識の範囲内でな」
若造たちにアドバイスを伝え、訓練場から去っていくアスト。
そこに二人の大人が駆け寄り、肩を組んで来た。
「おいおい、ちょっとカッコ良過ぎるんじゃねぇか、アスト?」
「スラディスの言う通りだな。貫禄、後ろ姿の偉大さが半端ではなかった」
二人は若造たちがアストにボコボコにされた後、彼らを慰めようと思っていたが……アストが百点満点、もしくはそれ以上のアドバイスを送った。
自分をボコボコにした人物からのアドバイスというのは、心に来て顔を背けたくなるかもしれないが、アストは怒鳴る様に伝えるのではなく、ましてや見下しながら吐き捨てたりはしなかった。
「先輩が良い店に連れて行ってやろう」
「良い店って…………俺としては嬉しいっすけど、夜にまた呑むんですか?」
スラディスの言う良い店がどんな店なのか、アストは直ぐに把握。
夜からが本番な区域、歓楽街にある綺麗なお姉さんたちがお酌してくれるお店である。
「安心しろ、アスト。ほれ」
スラディスの手には数本のポーションが握られていた。
「………分かりました。それでは、有難くご馳走になります」
それらのポーションは肉体の傷を癒す、体力を……魔力を回復させるといった類の物ではなく、酔いを醒ます為のポーション。
それが三本はあるようなので、アストは先輩たちの好意に甘えて奢られた。
翌日、スラディスとマックスがうっかり店を出た後にポーションを飲み忘れて二日酔い状態で現れるということはなく、全員集合時間前に門の前に集合し……盗賊団の討伐へと向かった。
「アストさん。アストさんは、どんな剣を使ってるんですか」
「斬れることはもちろん重要だが、俺は叩き斬れることが重要だと思ってるから、こいつは他の武器よりも頑丈さが優れてるんだ」
「あ、アストさんは魔法も上手く扱えると聞きましたが、本当ですか!?」
「一応それなりにな。昨日話した、俺の先生だった元騎士の人が、正確には魔法騎士? 的な人だったから、そこら辺も教えてもらったんだ。俺にそこら辺の才能があったのは奇跡だったけどな」
出発後、アストは先日ボコボコにした若造たち……プラス、一緒に商人の護衛依頼を受けたDランクの男女たちに囲まれ、色々と質問を受けていた。
アストはこの状況に狼狽え、困惑することなく質問に答えていた。
「アストさんでも、その……死にかけたこととかって、あるんですか」
「あるぞ。冒険者として活動してれば、それなりにある。安定してモンスターを殺して解体して、依頼を達成出来るようになっても、ふとした瞬間にイレギュラーが襲い掛かってくるからな……その度にふざけんなって心の中で叫んでる」
アストにはカクテルスキルのシェイクなど、切り札と呼べる技がある。
逆境を切り抜けられる手札はあるのだが、何も支払わずに使える技はシェイクのみである。
「そ、それじゃあドラゴンとかに会った、ことも?」
「Bランクのドラゴンならな。でも、その時は傍に同じくBランクの先輩たちがいたから、俺は後方メインで戦ってた。一人じゃなかったから、そこまで体を縛る様な恐怖は感じなかったな」
同世代が相手であっても、悩める相手には……口調はプライベートなままであっても、相談に乗る。もしくはついついアドバイスをしてしまう。
口調が決して乱れることもないため、初対面では心の底から嫉妬していた者であっても、それ以降も同じ熱量で妬み続けるルーキーは多くない。
(そこそこ心配だったが、本当に頼りになる新星だな)
スラディスは若造たちの変化に嬉しくなり、小さな笑みを零した。
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