テイマー転生 ー俺がテイムした女児たちがなぜか世界を滅ぼそうとする件について
止流うず
一章 テイムと聖女と吸血鬼
001 プロローグ その1
ふわふわの毛玉のような生物がころころと豪邸の庭を転がっていく。それを追いかけて俺は手を伸ばす。
「お、おぉぉぉ……」
ふわふわを指でつんつんと突くと、指がふわふわの中に沈み込む。
毛玉生物は嫌がるようにして体をふるふると震えさせると、俺の前からころころと転がって、去っていく。
それでも毛玉生物は小さいので、俺の小さな体でもちょっと走れば追いついた。
子供の手で
「ほらほら、怯えてるから。ほどほどにね」
そんなことをしていれば、毛玉生物が取り上げられた。
豪邸の庭に座り込んだ俺はぽかん、と見上げればにこにこと笑う老婆が俺を見下ろしていた。
「ばあさん。おれ、
俺が先程まで顔面を突っ込んでいた、ふくふくと震える毛玉は婆さんの腕に抱えられている。
俺の要求に老婆は難しそうな顔をする。
「うーん。セイメイくん。
「
老婆の腕の中でふかふかと体をふるふると震えさせている毛玉が魔物だというのか。
孤児院の職員から聞いた存在。『荒野』や『迷宮』から現れ、人を喰らい、都市を破壊するとされる魔物。それがこれ?
信じられない気持ちでふわふわの毛玉生物を見ていれば、老婆は困ったようにして俺に言う。
「ここで遊ぶ分には問題ないから、ね? 魔法は原則一人につき一つしか身に着けられないから、セイメイくんはテイムよりももっと人生で役に立つ魔法を身につけた方がいいわ」
でも、俺、これ欲しい……
そんなことを思いながら、そのあとも毛玉生物をふかふかして遊んだ俺は、近所の老婆の豪邸から孤児院へと帰るのだった。
◇◆◇◆◇
TIPS:ふわふわ毛玉
正式な個体名称は『三式綿毛ボム』。春先の草原などに
セイメイが老婆から触れさせてもらったのは幼体のうえ、爆破を禁じられた
◇◆◇◆◇
近所の婆さんの家でふわふわの毛玉で遊ばせてもらった俺は、孤児院へと帰ってきた。
「セイメイくん、どこに行ってたの?」
「近所の婆さんち! ふわふわ毛玉と遊んでた!」
孤児院の中に入れば、金髪碧眼の美幼女が声をかけてくる。
美幼女は今年俺と同じく五歳になったばかりのサーシャだ。
なぜか俺以外の子供には懐かず、俺に懐いている子でもある。
(こいつも人見知り治せばいいのにな)
「いいなぁ。次は連れてってね」
「おう! 次な!」
纏わりついてくるサーシャとそんな会話を交わしながら洗面所まで行くと、俺は錆が浮いている金属製の蛇口を捻って、手洗いをしてうがいを済ませた。ついでに歯も磨く。婆さんちでお菓子食べたからな。
「はい、タオル」
「ありがと」
サーシャから渡されたタオルで手や口を拭う。タオルには『迷宮管理局―日本支部―』と漢字で文字が入っていた。
さきほど婆さんにされた話を思い出す。
(将来、か。迷宮管理局って給料高いのかな)
あのねあのね、と今日会った出来事を拙い声で伝えてくるサーシャに適当に声を返しながら考える。
(就職には有利じゃないっぽいけど、テイム魔法、ほしいよな)
ふわふわの毛玉に囲まれて暮らしてみたかった。
あれぐらいなら俺でも捕まえられそうだし。聞けば婆さんも冒険者に依頼をして捕まえてきてもらったとかなんとからしいし。
「魔法かぁ」
「まほーがどうしたの?」
「魔法覚えたい」
「えー! 魔法ってお金かかるんだよ!」
びっくりしたようなサーシャに俺もうんうんと頷く。
「そうだよなー。安く買えないかなー」
魔法。魔法か。そうだよな魔法があるし、魔物も実際にいるんだよなー。
なんだか現実感が一気に蘇ってきて、俺は「はー」と息を吐いた。
――テイム魔法っていくらぐらいなんだろう。
小遣い貯めればいけるかな、なんて考えていてぼうっとしていた俺の腹に、サーシャが「無視しないでよぅ」と頭をぐりぐりとこすりつけてくるのだった。
◇◆◇◆◇
孤児院をこっそり抜け出し、街を歩きながら空き缶を拾っていく。
あと変なおっさんはお金以外にも
アイテムはともかく、どれだけ集めても空き缶の日当で100円を超えたことはないから、正直ぼったくられているような気もするが、何もしないよりはマシだろう。孤児院でたくさん手伝いをしたところでこれより金がもらえるわけでもないし。
「はい! 見つかったよ!」
「サンキュな。サーシャ」
空き缶を手渡ししてくるサーシャにお礼を言えばサーシャがえへへと笑って自分のほっぺたを俺のほっぺたにこすりつけてくる。
このサーシャとかいう美幼女。異常に俺に懐いているが、日本人っぽい子供ばかりの孤児院では、金髪碧眼で外国人っぽいサーシャはあまり友達がいないため、構ってやっている俺によく懐いてくれている――ような気がする。正直サーシャが他の連中と一緒にいる姿を見たことはない。サーシャを構いたがっている男子とかいるが、サーシャが避けているからだ。
俺が特別イケメンだとかそういうわけではない、と思う。
ただウェブ小説特有のなんか塩対応して嫌われてフェードアウトとかは考えていない。サーシャは美幼女なので懐かれるのは気分がいいし、成長すればすごい美人になるのは確定しているのだ。だから、これからもずっと友人として仲良くしていけば、大人になってもちょうど良い距離感で過ごしていけるだろうと俺は考えている。
現実とテンプレが一緒とかサイコパスかよ、と思わないでもないが、こうして魔物がいて、魔法があって、ダンジョンまで存在する謎日本に
◇◆◇◆◇
TIPS:空き缶拾い
レイドイベント『リサイクルモンスター襲来』で遊ぶことができたミニゲーム。
収集アイテムである『空き缶』を交換NPCに渡すことで手に入るポイントで装備品やアイテムなどと交換してもらえる。
ポイント交換でのみ手に入るユニーク装備などもあるが、限定ダンジョン最奥の宝箱などからアイテムを回収した方が成長には有利に働いたため、廃プレイヤーは数量限定アイテム以外見向きもしなかった。
数量限定アイテム――『インベントリ拡張+3』『スキルマスターの書×3』『覚醒の実×1』『エンゲージリング×1』
1000ポイント達成称号――『空き缶拾いマスター』:レアドロップ率3%上昇
◇◆◇◆◇
金を貯めだしてから二年。俺が七歳になって近所の小学校に通うようになると、美幼女だったサーシャが美少女となっていき、近所のクソガキどもに囃し立てられるようになる。
また今までサーシャと接したくても接することができなくて、仕方なく無視しているふりをして自尊心を保っていた孤児院のオスガキどもまで俺とサーシャをからかってくるようになったが、俺はすでに前世でこの程度の煽りは経験しているので全然平気である。
なぜ男児は女児と一緒にいるとからかってくるのだろうか。
「セイメイ! お前サーシャのことが好きなんだろ~~!」
「好きだよ! 悪ぃか! うるっせぇな!! へへ、羨ましいだろ!!」
煽ってくるクソガキに怒鳴り返してやれば、ふひッ、というサーシャの声が隣から聞こえてくる。
この好きっていうのは別に恋愛的な意味というより妹的というか、友人的な意味での好きなのだが……まぁなんでもいいか。
鈍感でもなんでもない俺はサーシャからの好意を自覚しているし、自分がそれなり以上にサーシャを好いていることも自覚しているが、ウェブ小説テンプレ的に幼なじみ寝取られは中学とか高校からが本番である。油断はしていない。
とはいえ、幼なじみ寝取られは未来のこと。小学生の現在は存分にサーシャをかわいがっても問題なかった。
なんて、相変わらずサイコパスじみた考えを展開しつつ、特別かっこよくも、頭がよくも、運動ができるわけでもないこの『セイメイ』という自分の肉体に見切りをつけておく。
(俺じゃあ、
もちろん前世知識を駆使して可能な限りの努力をして、現世なりの限界に挑戦してはいるものの、この肉体に天性の才能というものはない。成り上がり社長や総理大臣にはなれないだろうし、すごい技術者も無理だ。俺の肉体はあくまで平凡だ。平凡でしかない。
「せ、セイメイくん……あの、その、う、嬉しい。えへへ。ありがと」
照れたように微笑むサーシャは七歳からでも絶世の美少女ぶりを発揮していた。
俺がガードしていなければたぶんクソガキどもにセクハラされまくっていただろう美少女だ。
たぶん、サーシャの性格なら美少女でなかった方が生きやすかっただろうに。可哀想な奴である。
「おうおう、俺に感謝して崇め奉るようにな」
「あが? たて? う、うん? ありがとね?」
サーシャの手を引いて今日も空き缶集め兼散歩の旅に出かけていくことにした。
目標金額は遠すぎて、高校ぐらいにテイム魔法を買えればいいかななんて妥協してしまっている。
◇◆◇◆◇
TIPS:魔法の価格
魔法は魔法屋で購入できる。1万円で買えるような安いものもあれば、1000万円出しても買えないような高級なものまで存在する。
また、人間に刻印できる魔法は一つのみで、一度刻印すると二度と新しい魔法を刻印することはできなくなる。
テイム魔法の一般的な価格は100万円。
探索者や冒険者たちからは価値のない魔法とされているため生産数に乏しく、さほど値段が上がらない傾向にあるものの、高度な技術で作られた支配系統魔法の一種であることに違いはないため、一般的な魔法よりも価格が高くなっている。
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