第1話 プロローグ

 バチカン市国にあるサン・ピエトロ大聖堂に世界各地から大勢の人々が詰めかけていた。外を見るとこの歴史的瞬間を目の当たりにしようと、大勢の観客と対峙する様にハルバードを持ったスイス人傭兵が隊列を組み人を入れないように見張っている。


「ドゥーチェ、そろそろお時間です」


 呼びかけられ後ろを向くとローマ式敬礼をする正装を着たバルボ国防大臣と秘書のアンナが立っていた。


「わざわざ呼びに来なくても良かったのに...」  


「いえ、今日は一生に一度...いや世界に一度だけの特別な日ですので」


 そう今日は...再び地中海の覇者となったイタリアが帝国となる日。


「そうね、じゃあ行こうか」


 普段おろしている腰まで伸びている淡い緑色の髪を後ろにまとめ正装を鏡で確認したのちにバルボ達と一緒に聖ペテロの司教座に向かう途中、私は昔の事を思い出していた。この世界に転生したばかりの頃を…



 大学の歴史サークルに1人しかいなかった女の私は、サークルの仲間と中々馴染めずに過ごしていた。


 そんなある時、両親が商店街の福引きでイタリア旅行を当てたのだが、都合が合わず私たちは行けなくて勿体ないから一人で行って来いとイタリアに旅行する機会に恵まれた。


 その時の私は人生初の海外旅行に胸を踊らせていた。イタリア旅行でイタリア各地を巡っていた時にプレダッピヨにあるムッソリーニの墓地に訪れた。


 墓を見ながらムッソリーニの様な死に方はしたくないなと思い、プレダッピヨを巡った後に予約していたホテルに泊まった。


 その時旅行で疲れていたのか、深い眠りに落ちた。それが元いた世界の最後になるなんて...この時は思いもよらなかった。



 トントントンと響くノックされたドアの音で私は起きた。


「...やばい!そう言えばガイドさんが朝8時にホテル前に集合って言ってた!は〜い!今出ます!」


 ベットから起き上がった時、私は違和感を覚えた。


「ここは...........何処?」


 泊まっていた部屋とは、明らかに違う豪華な部屋に一瞬戸惑いつつも再び鳴り響くノックの音で考えるのをやめてベットからでたが、流石に寝間着姿で行くのはどうかと近くにかけてあった羽織を着てドアを開けた。


「おはようございます。ドゥーチェが寝坊なんて珍しいですね?」


 目の前には身長はやや私より高く、碧眼、金髪ロングヘアーに黒シャツを着たイタリア系美女がいた。


 ...ところで、彼女がやっているのはナチス式敬礼なのか...?いや、どちらかと言うとローマ式敬礼に近い気がする。身体が勝手に反応して返しはしたものの状況がつかめずにいた。


「誰...?」


「大丈夫ですか?ドゥーチェ...冗談はよしてくださいよ。貴女の秘書を務めているアンナですよ?忘れたんですか?」


 知らない...本当に誰?それよりもさっきから、私の事をドゥーチェって言っているけど、まさか私の事を言っているの?これってサークル仲間のラノベ好きが言っていた転生って奴では!?


 それにドゥーチェ呼ばれているのは、私の知っている中だと1人しかいない。第二次世界大戦時の時にイタリアの独裁者だったムッソリーニだ。


 もし私がムッソリーニに転生したとしたら今何年か調べねば…!


「ごめんね。ちなみに聞くけど、今は西暦何年何月何日?」


「今日は西暦1934年7月20日です」


「1934年...」


 1934年といえば、第二次エチオピア戦争の1年前か...そういえば、この5日後にオーストリア首相のエンゲルベルト・ドルフースが、オーストリア兵に変装して首相官邸に入ったオーストリア・ナチスの党員に暗殺されるハズなんだよなぁ...確かムッソリーニと家族ぐるみの交流もあったそうだし、とにかく情報を集めないとわからない。

 

「さっきからどうしたんですか?」


「いや、なんでもないよ。これから着替えるから少し待っていてくれない?」


「わかりました、終わったら教えて下さい」


 そうしてドアを閉めた私は、部屋にあった椅子にもたれかった。そうして椅子と対面する様に置かれていた化粧台の鏡を見て驚愕することになる。


「...誰?この美少女...」


 その鏡に写っていたのは、ヨーロッパ系特有の碧眼と前世のロングヘアーと違い男の様に短い淡い緑色の髪をしたイタリア系美少女だった。しばらく呆気にとられていると、前世の自分を思い返していた。


「おかしい...なんで寄りにも寄って、ムッソリーニに転生とか...これって、まさかだけど私がムッソリーニの墓地の前で『ムッソリーニの様な死に方はしたくないな』って思ったから!?でもなんで、ムッソリーニが美少女なのよ...しかも前世の私より胸大きいしさぁ...」


そう言って自分の胸を触る。前世ではAカップ絶壁だったのにたわわなモノが付いている...確実にDカップはあるし、前世の自分よりも圧倒的に可愛い。


 そう今の自分に惚れ惚れしていたのもつかの間、私はある事を思い出した。


「待って...そういえば、ムッソリーニの最後って、確か......」


 銃殺された後に民衆から遺体を損傷させられ、愛人のクララや幹部と共にガソリンスタンドから逆さ吊りにされて見せ物にされた...そんな死に方なんて、絶対に嫌だ!


 鏡で見ても分かるように顔から血が引いていく...正直歴史上の人物しかも美少女に生まれ変わるのは良いとしても、最後に殺されるなんて絶対に嫌!そんなの回避しなきゃダメ!その為には史実でのムッソリーニの失敗を成功に変えて、部下達からの信頼を集めないと!


 それに第二次世界大戦まで後5年しかない...それまでに列強最弱と言われたイタリアを列強でも侮れないくらい強国にして、第二次世界大戦でイタリアを勝利に導いてやるんだから!


 その為にイタリアの国力を上げないと、今のイタリアがどんな状態なのかを知らないと何も対策出来ない。早めに対策しないと私の命が危ない。


 そう考えていると、時計が鳴ったことで一旦考えが止まり、秘書のアンナが待っているのを思い出した。私は急いで髪を整えクローゼットに史実のムッソリーニが着ていた軍服の様な服に着替え、歴史の教科書で見るムッソリーニが被っていた帽子を被り、ドアを開けた。


 私に気付いたのか、先ほどと同じようにローマ式敬礼で出迎えた。


「改めてドゥーチェ、おはようございます。本日の予定ですが…」


 そうして、今日の予定を話すアンナの話を聞きながら、史実のムッソリーニの様にならないと心に誓い。そして、第二の祖国となったイタリアの指導者として、第二次世界大戦でイタリアを勝利に導くと心に決め、アンナと共に廊下を歩くのだった。


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[1人版]イタリア王国軍記〜美少女ムッソリーニに転生したのでイタリアを改革しイタリア軍にやる気を出させイタリアを勝利に導く〜を

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参考文献

ウィキペディア

朝日新聞デジタル ムッソリーニ最期の地 コモ湖畔の小村を訪ねて

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[1人版]イタリア王国軍記〜美少女ムッソリーニに転生したのでイタリアを改革しイタリア軍にやる気をださせイタリアを勝利に導く〜 鹿島 皐月 @hekagenomomizi5

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