第120話 兄弟の話し合い

「幸い今は他の騎士達は出払っているから聞き耳を立てられる心配もないだろう」



 最後に廊下に人がいない事を確認して部屋の鍵をかけた。

 宿屋に戻り、三人だけで前世の話をするためだ。



「座ってくれ」



 俺が泊っている部屋は商会主などが泊まる広めの部屋なので、室内には商談用なのかテーブルとソファが置いてある。

 俺が促すとアランとジェスは各自一人掛けのソファに座った。



 ちなみに他の者は二段ベッドが二つ置いてあるだけの簡素な部屋だ。

 だからこそサラモナの中での自由を許しているんだが。



「早速だが……ジェス、お前がその姿になったのは俺の記憶に引っ張られてその姿になったとジャンヌが言っていた。俺の記憶を見たのか?」



「ううん。えっとね、お母さんが『主殿の記憶に嵌まる・・・姿があると、同じになる』って言ってたよ。だから僕が人化した時にこの国じゃない人の姿だったから、ジュスタンの大切な人なのかも~って」



「そうか……。ジェス、ここにいるアランと俺はこの世界に生まれる前の記憶がある。それを前世と言うが、その前世でアランは俺の弟だったんだ」



「? でもアランはジュスタンより大きく見えるよ?」



 ジェスは不思議そうにコテリと首を傾げた。



「そうだな。だけど前世ではアランは大和という名前の七歳の子供だったんだ。馬車よりも早く走る物とぶつかって二人共死んで、俺が前世を思い出したのはジェスと会うひと月ほど前かな。アランはジェスの姿を見た時みたいだけど……、きっとジェスの姿が前世の俺達の兄弟と同じ姿をしているせいだと思う」



「ジュスタンとアランの兄弟?」



「ああ、最初にアランが言っていただろ? ジェスに陽向ひなた兄ちゃんって。ジェスはその陽向の姿をしているからな、ジェスと同じ十歳だったせいだと思うぞ」



「ああ、だから陽向兄ちゃんの姿をしているのか。陽向兄ちゃんが一番大切だったのかって、少しだけヤキモチ焼きそうになったのが恥ずかしいぜ」



「ははっ、弟達はみんな同じくらい可愛いと思っていたさ。生意気な次男だってな」



「……なんだかジュスタンがいつもと違う」



 話している俺をジッと見て様子をうかがうジェス。



「それはたぶん前世の兄貴に戻ってるからだと思うぞ。見た目は全然違うけど、あの頃のお兄ちゃんみたいだ」



 アランが俺を見て懐かしそうに微笑んだ。

 その微笑みが幼い子供ではなく、これまで苦労を重ねた大人のそれである事に大和が……アランが生きてきた年月を感じさせた。



「まぁ……、普段は前世を思い出す前の俺と変わらないように意識してるんだよ。じゃなきゃ自分より年上の部下に命令口調で話せないし。今はこの世界に生まれてからの記憶もしっかりしているけど、思い出したばかりの頃は変な感じがしていたしなぁ」



「わかるぜ、今もこれまでの人格と前世の人格がまだらに混ざってる感じがするしよ」



「その内綺麗に混ざって違和感はなくなるから安心していいぞ、アランの歳で大和に引っ張られるのは困るだろうし、ククッ」



 今は笑えるが、最初はどうしようかと思ったもんな。

 俺達に初めて会って号泣した時の事を思い出したのだろう、アランの顔が赤く染まった。



「そ、それより聞きたい事があったんだ。思い出した記憶の中に父親の姿がなかったんだが、どうしてだ?」



「それは……大和が五歳の時に交通事故でな……」



「だったらよ、その後普通に生活できてたのはおかしくねぇか? 母親が働いていたのは覚えちゃいるが、女一人の給金なんて知れているだろう?」



「そりゃあ……、母さんが働いてくれていたのもあるが、父さんの保険金や、交通事故の相手からの慰謝料や遺族年金とか色々あったおかげでそう苦労せず生活できていたんだよ」



「保険金……遺族年金……ってなんだ? それがあれば今回死んだやつらの家族が生活していけるって事だよな!?」



 どうやら今回の討伐作戦で死亡した冒険者家族の今後を心配しているらしい。

 小学校一年生だと保険の仕組みとか詳しくないもんな。

 遺族年金に関しては正確に話せるか怪しいのですっ飛ばし、保険の仕組みを簡単に説明した。



「って事はギルドにとりまとめを頼んだ方がいいよな、ギルマスに頼んでやってくれるか怪しいけどよ……」



「けどなぁ、危険職だと保険に入れなかったりするんだが、冒険者ってのは完全に危険職じゃないか? 無傷な者より怪我をする者の方が多いと破綻するぞ? それに保険金を払えるような余裕が冒険者達にあるのかも怪しいと思うんだよなぁ」



 レーサーなんかもレースでの怪我には保険で対応してもらえないらしいし。

 冒険者の性質上、保険のシステムを作ったらいつ怪我をしても大丈夫と油断しそうだしな。

 その事も含めて伝えると頭を抱えて唸り出した。



「そうだなぁ、もしやるとしても、冒険者の仕事をしている時の死亡に限定するとか、色々条件を限定するという手もあるんじゃないか? ギルド職員の業務が増えるし、どこで死亡してももらえるのは登録している町だけとか考える事は山積みだから簡単にはいかないとは思うけどさ」



「いやいや、条件を限定してでもやる価値はあると思ってるぜ! フラレスに戻ったらギルマスと話さないとな! ありがとう兄貴!」



 話が一段落した時、部屋のドアがノックされた。



『ジュスタン団長、オレール隊のマルセル、報告に来たぜ!』



 どうやら思ったより早く聖女が聖国から戻って来るようだ。

 気持ちを直輝からジュスタンに切り替え、マルセルを部屋に招き入れた。

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