第116話 討伐開始
翌朝、冒険者ギルドの前に勢揃いしたCランク以上の冒険者と、第三騎士団の俺達。
昨日ギルド長室で話し合った内容を、ギルマスが全員に伝えた。
冒険者の中にはアランが俺に対して従順な事が気に入らないのか、あからさまに不満顔をしている者もいたが、町を守るという大きな目的のために渋々大人しくしているようだった。
ジェスは万が一Cランク冒険者達が門を守りきれなかった時、助けてやって欲しいと頼んでお留守番だ。
いざという時は本来の大きさに戻って、魔力を解放すれば魔物は一目散に逃げるだろう。
討伐隊は順番に町の外に向かい、等間隔で森の奥へと進んで大物が出たら口笛で近くの仲間を呼び、協力して仕留めるという手筈になっている。
第三騎士団も小隊ごとに分かれて森へと入って行く。
「兄貴の強さは噂で聞いてるけど、気を付けて」
「ああ、アランもな。こっちが早く終わったら手助けに行くから頑張るんだぞ」
「わかった」
報告によると森の中の窪み……つまりはダンジョン跡地周辺に強い魔物が多いと報告されていた。
そのため主戦力となる俺とアランは中心地を左右から挟むように進んで行く。
十分もすると複数の場所から戦闘音が聞こえ始めた。
「おお、始まってるな。こっちにも早く出ねぇかな」
「そんな事言ってると、いきなり変異種が出て来て真っ先にシモンがやられちゃうんじゃないの?」
「アルノー、シモンは相手にするな。十一時の方向に気配がするから気を抜くなよ」
感じ取った魔物の気配を伝えると、部下達の気配が希薄になる。
魔物より先に気配を察知した場合、奇襲をかけるために反射的に自分達の気配を消すのだ。
まだ百メートル近く距離があったのに気付いた理由は、そいつを見てわかった。
ハンドサインで二人を刃鹿の向こう側へと移動させる。
奈良にいる鹿にヘラジカの角が付いたような姿のそいつは、刃になっている角さえ何とかすればそこまで脅威ではない。
問題はその角がヘタな金属より固く、これまで何本もの剣があいつの餌食になっている。
刃鹿の向こうにマリウスとがアルノーが到着する頃、ガスパールとシモンも左右に分かれて俺から距離を取った。
弱い魔物と違い、多少の気配がしたところで気にしないのが救いだな。
アイコンタクトを取り、真っ先にシモンが低い姿勢で刃鹿の横から斬りかかった。
咄嗟に飛び退いて避ける刃鹿だったが、太ももに浅く傷が入る。
飛び退いた先にいたガスパールが斬りかかると、角を振り回して身を守った。
ガキンと金属音が響くと同時に、角がガスパールの方へ向いた瞬間、がら空きになった首にシモンが追撃するが、俊敏性が高い刃鹿は角を振り回し牽制する。
「うわっ、危ねぇ!」
触れただけで皮膚を切り裂き、振り回した角に当たれば腕の一本くらい簡単に落ちてしまう凶悪さに、シモンといえど慎重にならざるを得ない。
刃鹿の後方にはすでにマリウスとアルノーが待機して退路を断っている。
囲まれ、四人に気を取られて隙が見えた瞬間、剣に魔力を流し、身体強化して飛び出し剣を犠牲にする覚悟で角を薙ぎ払う。
次の瞬間、キィンと澄んだ音と共に刃鹿の頭から二本の角が離れた。
ジェスの鱗から出来た剣は格段にこれまでの剣とは切れ味が上がっているとわかっていたが、まさかここまでとは思っていなかった。
脅威である角がなくなれば、刃鹿もただの狂暴な鹿だ。
逃げ出す前にガスパールが首を、シモンが脇腹から心臓を突き刺し、すぐに剣を抜いて二人は距離を取った。
勢いよく血が噴き出し、失血で意識が朦朧とするのかふらつきながら数歩進んで重い音を立てて倒れる。
動かなくなったところで誰からともなく息を吐いた。
「ジュスタン団長、その剣凄いですね! ジェスの鱗の剣!」
刃鹿に対応していたガスパールとシモンと違い、離れた場所でしっかり状況を見ていたマリウスが目を輝かせて剣を見た。
刃を確認したが、刃こぼれひとつしていない。
「ああ、切れ味といい、耐久性といい最高だ。ジェスと従魔契約しているおかげで魔力の通りがこれまでと段違いだしな。間違いなくボスコの最高傑作だろう」
「けどさぁ、ジェスの鱗でこれだろ? 二百年以上生きてるジャンヌの鱗だったらかなり凄いよな?」
シモンが手を切らないように慎重に刃鹿の角の切り口を確認しながら、支給されている
「しかもドワーフ製でしょ? そりゃあ凄いだろうねぇ。ジャンヌとドワーフ達に認められるように僕も頑張らなきゃ!」
「自分も正騎士になる頃には認められるよう頑張ります!」
アルノーとマリウスが言い出すと、シモンとガスパールも一緒になってやる気を漲らせている。
そうして魔物を討伐しながら森の奥へと進み、昼休憩が終わると来たルートから少しずれて町へと引き返す。
このまま真っ直ぐ進むと、ちょうどダンジョン跡の窪みの上を通る事になる。
やはり窪みに近いほど強い魔物が多い気がした。実際折り返し地点では、途中で遭遇した魔物より弱いものが多い。
ダンジョン跡の窪みの緩やかな下り坂にさしかかると、微かに戦闘音と救援を求める合図の口笛が聞こえてきた。
聞こえてきた場所は窪みの中心地より向こう側、つまりはアラン達が救援を求めるような戦闘をしているという事だ。
アランが命の危機だと思った瞬間、心臓が嫌な音を立てた気がした。
「救援の合図だ! 俺は先に行く! お前達もできるだけ早く来い!」
「えっ!? あっ、団長!」
戸惑うアルノーの声を背に、身体強化で音の中心地に走り出した。
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