第111話 別行動

「それじゃあ頼んだぞ。ジャンヌも俺と離れている間は、オレールが俺の代わりだと思って助けてやってくれ」



「あいわかった」



「任せてください。団長……は心配しなくても大丈夫でしょうけど、今回はフラレスの冒険者達と合同作戦なんでしょう? 部下達が喧嘩しないように目を光らせておいてくださいね」



「ああ、じゃあな。……第三騎士団討伐班、出発!!」



 聖国に入る手前の都市で俺達は支援要請のあったフラレスへと向かった。

 フラレスはとある伯爵領の中にある町の名前だが、中堅の冒険者が稼ぐのにちょうどいい魔物が出ると有名なせいで、伯爵領から独立しているかのような認識を持たれている町だ。



 実際フラレスから領都に連絡をして対策をしていたら間に合わないような案件が時々あるせいで、独断する事を許されているらしい。

 今回はそれこそ中堅冒険者ですら手を焼くほどに魔物が増えているらしく、スタンピードを警戒して俺達が呼ばれたのだ。



「なぁ団長、フラレスって冒険者が幅きかせてるらしいじゃねぇか、ちょっとくらいわからせてもいいよな?」



 真っ先にこういう事を言うのは貧民街スラム育ちのカシアスだ。

 なめられたら終わり、力こそ正義の考えが沁みついている。



「わからせるにしても手段というものを考えないとダメだぞ。それより隊列を乱すな、冒険者の前にお前がわからせられたいか?」



 エリオット隊のカシアスはジュスタン隊の二隊後方のはずだ、ここにいるという事は前に出てきたという事なので前を向いたまま静かに答えると、近くに聞こえていたひづめの音がひとつ減った。



「わからせるってなぁに?」



 王家から支給された馬車はジャンヌと聖女が乗っていったので、俺の前に座っているジェスが真上を見上げるように聞いてきた。



「わからせるっていうのは……状況をしっかり教えてやるという事だな。さっきのカシアスは隊列を乱して前に出て来ただろう? それは隊律違反をした事になるから、次から違反しないようにしっかりと叩きこんでやるんだ」



「なるほど~」



 ジェスが隊律違反の意味をわかっているか怪しいが、納得したように頷いている。

 後ろでジュスタン隊の部下達がヒソヒソ話しているが、俺は嘘は言ってないぞ。

 ジェスは馬車の中でジャンヌに魔力の使い方を色々教わったらしく、道中魔物と遭遇する事なく移動できた。



 神殿関係者と別行動になり一行の人数が減った分、道中の食事や宿は町や村で済ませられたが、満場一致で外で済ませるという事になった。

 アルノー曰く、馬に飲ませる水場があるなら絶対外、だそうだ。



 調理係の従騎士スクワイア達ですらそう言うのなら、俺も反対する理由は無い。

 食材を買い足しているから、ある程度は各地にお金を落としてありがたがられているしな。



 数日後、フラレスに到着すると、町の門から物々しい雰囲気が漂っていた。

 領都ではないため、門番は騎士ではなく平民の兵士で、見ればわかるだろうにわざわざ俺達が何者かと尋ねてきた。



「止まれ! 何者だ!!」



「領主からも連絡が来ているだろう、王都から来た第三騎士団だ」



「証明できるものは!?」



 絶対聞かなくてもわかってるよな? しかもビビっているのか、無駄に声が大きい。



「団長、早速わからせようか?」



 後ろからシモンが剣の柄を掴む音がした。

 それを軽く手を挙げて制する。



「やめろ、俺達に怯えて声がでかくなってるだけじゃないか。虚勢を張らないと自分を保てない者を虐めるんじゃない」



「…………ッ!!」



 静かだがよく通る俺の声が部下や騒いでいる兵士の耳に届くと、部下から忍び笑いが漏れた。

 当然言われた方の兵士は顔を真っ赤にしている。

 態度が悪かったからわざと嫌味を言ったんだがな。



「ほら、これが王命・・の書状だ。不敬罪にならないように扱いには気を付けろ」



 親切に忠告してやると、兵士は震えながら書状を受け取り中身を確認した。



「た、確かに確認しました。…………ここは王家や領主様より冒険者ギルドや高位冒険者の権力が強い町です、できれば穏便にお願いします。その……現在魔物騒ぎで宿屋がほぼ満室なんですが、大量の魔物が運び込まれる時に使われる広場が冒険者ギルドの隣にありまして、そこで野営をしていただくという事になりますが……」



 どうやらさっきの態度は、高位冒険者だか冒険者ギルドから圧力をかけられた結果のようだ。

 こちらが動じず、王命の書状を確認した事で己の立場をようやく理解できたのだろう、急に腰が低くなった。



「水場とテントを張れる場所さえあるのならいい。案内してくれ」



「はい、こちらです」



 冒険者ギルドは門から近いらしく、数分で広場に到着した。

 全員のテントを張るには広さは十分で、馬用の水入れも準備されているから問題はなさそうだ。



「ご苦労、……冒険者から何か言われたら俺に相談しろ、俺は第三騎士団団長のジュスタン・ド・ヴァンディエール伯爵だ」



「あ、ありがとうございます……! あの、俺……私はディエゴといいます……あっ! 今こちらにアランというこの辺りの冒険者に対して冒険者ギルドのギルドマスターより幅をきかせている冒険者が向かって来てます! 根は悪い奴じゃありませんが、気に入らないと力尽くで解決しようとするのでお気を付けて……、では」



 ディエゴと名乗った兵士は、そのアランという冒険者が来る方向とは逆方向へと走って行った。

 見事な小物ムーヴだな。



「各自テントを張って野営の準備をしろ!」



 アランという皮の胸当てをした髭面の男がこちらに向かって来ているのはわかっているが、声をかけてくるまで待ってやる義理はない。

 指示を出すと、全員馬を繋いでテントの準備を始める。



「ここの責任者はどいつだっ!?」



 広場に到着したアランという冒険者が大声を出すと、部下達が一斉に殺気立った。

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