第41話 乳兄弟
翌朝、予定を繰り上げて朝食前に出発する事にした。
原因は夕食の時に色々……、色々大変だったからだ。
まず最初に味付けの変化で皆が驚き、料理長が呼び出され、俺が発案して他領にも広まっていると大袈裟に言ってしまい、結局一から説明させられた。
ジュリア義姉上からは、ドヤ顔がおさまらないアルベール兄上とまとめて微笑ましいモノを見る目を向けられ。
シリル兄上からは父上からの話を聞いたのか、それとも料理の味付けに関して点数を稼いだと思われたのか、妙に鋭い視線を向けられていた。
両親は貴族特有のポーカーフェイスだが、いつもと違う状況にソワソワしているようで、俺も落ち着いて食事ができなかったしな。
支度を済ませて愛馬のエレノアを厩番から受け取り、途中で窓から俺を見つけたアレクセイとアンジェルに手を振る。
きっと出かけるだけと思っているんだろうなぁ、懐いてくれて別れるのが名残惜しいが仕方ない。
朝食の前に侯爵家の騎士達と朝の鍛錬をする父上と兄上達に声をかけるために訓練場へと向かうと、懐かしい顔ぶれが揃っていた。
普通にしていても息が白い中、鍛錬している騎士達からはモワモワと湯気が出ている。
タレーラン辺境伯領ほどではないが、ヴァンディエール侯爵領も大きな森があるため、鍛錬は欠かさない。
第三騎士団と変わらないほどの規模の騎士団だったりする。
俺はそこで
いや、ちゃんと騎士として仕事はしていたが、魔物に対してオーバーキルだったり、周囲に対する態度が悪かったのだ。
主君である侯爵の息子という立場もあって、周りが遠慮していたから増長したというのもある。
つまりはほとんどの者は俺を歓迎していない。
命を助けたり、妙にウマが合った一部だけが嬉しそうな顔をしていた。
「父上、鍛錬中失礼します。俺はこのまま王都へ帰りますので、ご挨拶に来ました」
「問題無い、今終わったところだ。解散!」
本当にちょうど終わったところらしく、父上はすぐに騎士団を訓練場から解散させた。
「それにしても……フッ、帰る……か。第三騎士団はすっかりお前の居場所になったようだな。お前なら大丈夫だろうが、気を付けて行くように」
「はい」
愛馬に
「俺に挨拶もなしで行くなんて、薄情じゃないか?」
「リュカ……。時間に余裕があれば話したかったんだけどな、王都を出る前にゴタゴタがあって二日ほど無駄にしたんだ。…………やっぱり王都に行く気はないか? お前が来てくれたら心強いんだが」
現れたのは俺の乳母だったマエルの息子、つまりは俺の乳兄弟だった。
ひと月先に生まれ、七歳になったら俺が乳母に甘やかされている間も騎士を目指して色々仕込まれていた。
本来なら騎士爵の親族に預けられるところを、母親である乳母が領主に仕えているからと特別に一緒に暮していた幼馴染み。
当時は実の母親に愛されているリュカを妬ましく思い、リュカも自分が大変な思いをしている間に母親を独り占めしていた俺を妬ましく思っていたのだが、ある日お互い感情を爆発させてしまう。
十歳の時に本気の殴り合いをし、お互いを妬ましく思っていた事をぶちまけ合った。
その日は二人ともボロボロになって乳母から大目玉を喰らい、乳母は罰を受ける覚悟で父上に申告しようとしたが、俺が止めた。
これは二人の問題だからと。
実際は乳母を巡ってお互いヤキモチを焼いたせいだと知られるのが恥ずかしかったからだが。
その日から俺とリュカは親友になった、殴り合って友情が芽生えるなんて、まるで昭和のヤンキー漫画のような展開だと自分でも思う。
俺が王都に行く事が決まった日、一緒に行かないかとリュカを誘った。
しかし母親である乳母を置いていけないと断られた、すでに乳母として役目を終えた母親に楽をさせるためでもあったから、無理強いはできず俺も諦めたのだ。
今ならマエルを連れて王都に来れば、家くらい用意してやれる。
そのつもりで言ったのだが、リュカは首を横に振った。
「いや、母さんがヴァンディエール領を出たくないって言うからな」
「マエルならそう言うか……」
「それにさ、今年に入って中隊長になったんだぜ? 出世しただろ?」
「お前の実力なら当然の結果だな。まぁいい、気が向いたらいつでも第三騎士団を訪ねて来い、お前ならすぐあいつらに馴染むだろう。第二でも歓迎されるだろうが、来るなら
「ああ、王都に行くとしたら、真っ先にお前の所にいくよ、……ジュスタン」
コツンと拳をぶつけ合い、別れの言葉を言わずに出発した。
子供の頃から打ち合っていたため、魔力を持っている分俺の方が有利だったが、純粋な剣技だけならほぼ同等だと言える。
今空いているもうひとつの副団長の座は、リュカのために空けていると言っても過言ではない。
オレールはもう三十八歳だったか……、そろそろ駆け回るのは控えて戦略や管理側に集中してもらってもいい頃だしな。
見込みがあるのはアルノ―とガスパールだが、まだまだ上に立つほどの器量はない。
どちらにしても、もうしばらくはオレールに踏ん張ってもらうしかないな。
それはともかく、王都に到着する頃には神殿や王太子の関係者への調べは進んでいるだろうか。
それより気になるのは、
初雪がチラつき始めた中、愛馬と共に王都へと急いだ。
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