第32話 こっち側

 俺が連行されたのは、第三騎士団の隣の敷地にある第二騎士団の拠点。

 第三騎士団と違って宿舎や訓練場だけでなく、王都の罪人を収容する施設がある。



 そのせいで第三騎士団の方が王城に近い位置にあるのだが、第二騎士団からしたらそれも気に入らないらしい。

 貴族の屋敷も王城に近い方が価値が高いからな。

 その拠点の入り口に到着した時、俺から一つ提案をした。



「なぁ、俺の馬を第三騎士団に置いてきていいか? それかアルマン、お前が連れて行ってくれ。お前なら下手な扱いをしないと信じられるからな」



「え……っ!?」



 いきなり俺に指名されて驚く第二騎士団の従騎士スクワイア、合同演習をしている時に馬の扱いが丁寧だった事をジュスタンは覚えていた。



「チッ、まぁいい。アルマン、第三騎士団に馬を連れて行け、ついでにヴァンディエールが捕らえられた事も第三の奴らに教えてやれ」



「は、はい……」



 俺は愛馬エレノアから降りると、鼻面を撫でた。



「すぐに帰るからおりこうさんで待っているんだぞ。厩舎まではアルマンの言う事を聞いてやれ。それじゃあ、頼んだぞアルマン」



 わかったと言わんばかりにブルルと返事をするエレノアの手綱を、アルマンに渡した。



「わかりました、お預かりします」



 アルマンはペコリと頭を下げると、自分の愛馬に騎乗したままエレノアの手綱を持ち、第三騎士団へと向かった。

 俺はというと、いわゆる取調室へと連行され、尋問を受ける。



「昨日王太子の婚約者とその侍女が明らかにおかしい状態で王城へ帰還した、そして貴殿とその二人が一緒にいるところを目撃した者がいる。そして……、これだ!」



 ガン、と机に叩きつけるように出されたのは、あの時暴漢に投げた短剣ダガーだった。



「確かに俺の物だが、どうして俺が犯人扱いされる事になるんだ?」



 とりあえずこの短剣ダガーがここにあるという事は、そいつが黒幕、または黒幕と繋がっているという事だ。



「しらばっくれるな! 貴殿がこれを使って助けに入った者に怪我をさせたのだろう! それともどこかでなくした物だとでも言い張るつもりか!?」



 この態度、どうやらコンスタンは本当の事を知らされていないようだ。



「助けに入った者ねぇ……。その手柄泥棒はどこのどいつだ?」



「何? 手柄泥棒だと!?」



 俺は腕を組んでふんぞり返り、椅子の背もたれに寄りかかった。



「調査不足だな。この短剣ダガーを準備した奴は俺の事が大嫌いだというのはよくわかった。しかし頭はよくないようだな、詰めが甘すぎる」



「な……っ、不敬だぞ!」



 真っ直ぐ過ぎるこのコンスタンの性格は、以前のジュスタンはバカにして嫌っていた。

 しかし、今の俺はこの熱血っぷり、嫌いじゃない。

 だが少々横暴な態度はいただけないな。俺は思いっきり残念なモノを見る目を向けてやった。



「ふん、不敬……という事は、大方王太子が持って来たんじゃないのか? いや……、王太子も誰かから受け取ったはず、恐らく……神殿関係者だな。あの時ディアーヌ嬢を拉致しようとしたのが神殿関係者だったか、それとも実行犯が治癒魔法を求めて神殿に行った時に手に入れたかはわからないが」



「どういうことだ?」



「俺の言っている事が理解できないという事は、ディアーヌ嬢と侍女から話を聞いてないという証拠だ。違うか?」



「それは……。しかしっ、王太子は証拠は揃っているから明日にでも裁判を開くとおっしゃっていたぞ!」



「あ~あ~、そんなに恥をかきたいのかねぇ。いいぜ、裁判に付き合ってやっても。その代わりディアーヌ嬢か侍女のアナベラのどちらか、または二人を証人として呼んでくれよ、当事者なんだから」



「わかった……、伝えておこう」



 俺としても裁判だろうが何だろうが、早々に決着がつくのなら大歓迎だ。

 しかも今回も王太子に一泡吹かせられるんなら余計にな。

 小説で読んでいた時は普通にいい奴だと思っていたのに、実際は自分が正義だと思い込んでる迷惑熱血野郎だ。



 そして一晩牢屋で過ごせと言われたが、連れて行かれた地下牢で危うく悲鳴を上げそうだった。

 …………めちゃくちゃ汚くてくさいのだ。



 トイレは魔導具だから臭わないはずだろ!?

 て事はもしかしてコレ囚人達の臭いなのか!?



「なぁ、俺犯人じゃないし、後でお前達が謝る事が減るように客室に泊める気ないか?」



「何を言っているんだ」



「デスヨネー」



 コンスタンにめちゃくちゃ呆れた目を向けられてしまった。



「おいおい、第三騎士団の団長様じゃねぇか! あんたはいつかこっち側へ来ると思ってたぜ!」



「ひゃははは! 本当に本人だぞ! 何やったんだ~? とうとう王太子の女をヤっちまったのか~?」



 地下牢に来た俺を見つけて、囚人達がゲラゲラと下品な笑い声を上げている。



「静かにしろ!」



 牢番の騎士が怒鳴るが、舐められているのか一向に静かにならない。



「甘いな。とりあえず……『清浄クリーン』」



 俺が足を踏み入れられるように、魔力の半分を使って地下牢全体を綺麗にしてやった。

 当然地下牢にいた囚人も綺麗になっている。



「…………ふぅ、人間って驚くと言葉を失って静かになるよな。ははっ」



 そう話しかけたコンスタンも、囚人と同じく言葉を失っていた。

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