第16話 予想外
訓練場で合流した部下達と俺は、普段なら馬で東の森へ向かうところだが、今回は魔物達に見つかりにくいように森まで馬車で向かう事にした。
「あくまで予測ではあるが、状況から東の森の遺跡にスタンピードを起こす原因の邪神の欠片という魔石があるはずだ。スタンピードが起こった瞬間から魔素があふれ出しているのが見えるらしい。もしもそれを見つけたら、何よりも優先して破壊しろ。それまではただの石ころにしか見えないのが難点だが、被害を最小限にするためには今回の作戦が絶対となる」
移動中に今回の作戦を詳しく話す。
万が一にでもあの頭の固いクレマンに妨害されたらたまったものじゃないから、行き先も森としか辺境伯達に伝えていないので部下達も初めて聞くのだ。
三方を森に囲まれる形をしているタレーラン辺境伯領は、その森の中心が東にあるため、スタンピードが起こった場合は三方向から魔物が押し寄せる状態となってしまう。
小説でもタレーラン辺境伯領は壊滅状態になっていたからな。
馬車を降りると単独行動している魔物は全て斬り伏せながら、遺跡へと向かった。
集団で来られたら体力の消耗を考えて回避するが、遭遇したのが数体であれば、少しでも数を減らすに越した事はない。
森に入って一時間ほどすると遺跡が見えてきた。
小さなパルテノン神殿のような造りで、地下に礼拝堂跡がある。
「今も魔物が引き寄せられているはずだ。気取られないように注意しろ」
声をひそめて言うと、部下達は無言で頷いた。
幸い遺跡の地下への入り口は小さい上にわかりにくくなっているためか、魔物が中に入って来る事は滅多にない。
しかし、今回はしっかり甲冑を装備しているせいで、どうしても音が鳴ってしまう。
風が吹いて葉擦れの音がしている間に移動したりと、極力気配を殺して遺跡へと入り込んだ。
「はぁ~……。本当にうようよ魔物がいたなぁ。あれが邪神の欠片とやらに引き寄せられて来た魔物か」
「本当だよ、殲滅しろって言われたらできなくもないけど、もっと数が増えるとなると厳しいよね」
遺跡の地下に入り、魔導具の灯りで照らされた室内で軽口を叩くシモンとアルノ―。
エリオット隊は少々緊張しているようで、いつもより格段に口数が少なくなっている。
俺の隊は普段から無茶な俺の行動に付き合わせているから、こういう時でも緊張はしていないようだ。
ヘタしたら数日ここで過ごす事になるから、今から緊張していたら神経がもたないだろうに。
「早ければ今日か明日にでもスタンピードが始まるだろうが、それまでは警戒はしても身体は楽にしておけ。でないといざという時動けないようでは困るからな。鎧も今は軽装備でかまわん」
そう言うと、各々兜を脱いだり籠手を外し始める。
「けど見た目がただの石ころだったら、遺跡だからその辺にゴロゴロしてて区別つくのか? だってよ、もしかしたらこの石がそうかもしれないって事……だろッ!」
カシアスが祭壇の周りに落ちていた手のひらほどの石を、鞘の先端を叩きつけて割った。
その瞬間、強烈な風が吹き抜けて辺りの空気が変わるの感じた。
「え? あれ? 何だ今の……」
「カシアス……、お前まさか……」
「何々!? オレ別に変な事してないよな!?」
絶対今割ったのが邪神の欠片だっただろ!
本人は何が起こったのかわかっておらず、鞘と割った石と辺りをキョロキョロと見回している。
「アルノーとガスパールは外の様子を見てこい。恐らく魔物が減っているはずだ。かといって完全にいないわけじゃないだろうから、気を付けろ」
「はーい。確かに外の気配がさっきと違うもんね。行こ、ガスパール」
「ああ」
二人が遺跡の外に向かうと、俺はカシアスの足元の石をハンカチに包んで
「団長、その石どうするんだ?」
割れた石を丁寧に扱う俺に対し、カシアスが首を傾げた。
「恐らくこれが邪神の欠片だったのだろう。運がいいというか、引きが強いというか……。神殿で高位神官に調べてもらわないと俺達には判別がつかないから一応持って行かないとな。だがまぁ……よくやった」
「うわっ! いたたたた! 撫でるならもっと優しくしてくれよ!」
俺より少しだけ高い位置にある頭をグリグリと乱暴に撫でると、どうやら痛かったらしくカシアスの頭が下がった。
別に身長が負けてるからって、縮めようとしたわけではない。
「団長~! 外の魔物いなくなってる! 全くってわけじゃないけど、さっきまでに比べたら全然いないよ! ねっ、ガスパール」
「ああ、心なしか呼吸がしやすくなった気すらする」
「という事は確定だな」
戻って来たアルノーとガスパールの報告で、憶測が確定に変わった。
部下達は素直にスタンピードがなくなったと喜んでいるが、俺としては内心複雑だったりする。
だって考えてもみてくれ、スタンピードが起こると言い張って出発したというのに、もう起こりませんって報告に行くんだぞ!?
だから絶対高位神官にこの石が邪神の欠片だと証言してもらわないと、俺の立場がない。
絶対そうだとわかってはいるが、俺を嫌っている奴が調べた場合、邪神の欠片だったとしても違うと言い張るという事も考えられるのだ。
そうなったら自作自演した痛い奴になってしまう!
「団長、オレ腹減った~」
カシアスの言葉にみんなが期待した目で俺を見た、俺が預かってるお弁当を食べたいのだろう。
「そういえばもう昼の時間が過ぎていたな。外に出て食べよう」
スタンピードがなくなったとわかり、すっかりピクニック気分でいる部下達と地上へと向かった。
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