5・下水道の化け物

 王国の地下にある、大きくて迷路の様に入り組んだ下水道。

 その下水道の中でヒトリ、パロマ、フロイツの3人は体長30cmほどある巨大ネズミ達と戦闘に入っていた。


「――はっ!」


 パロマが巨大ネズミに向かって掌打を放つ。


『キュアッ!!』


 掌打を食らった巨大ネズミが吹き飛ばされる。


『シャー!!』


 その隙を狙い、横から別の巨大ネズミが口を開けてパロマに襲い掛かった。


「――甘いですわ!」


『ギャンッ!』


 パロマは右足で襲って来た巨大ネズミを蹴り上げた。

 そしてすぐさま足を降ろし、構え直して下水道の先の暗闇を睨みつける。

 暗闇の先には、白く光る小さな点が何十個もあった。


「……ふぅ……一体何匹ますの? もう20匹は叩きのめしましたわよ?」


 パロマの体技は、幼い頃よりフロイツから護身術として教わっていた。

 実戦で使うのは今回が初めてだが、そうは見えないほどの立ち回りを見せている。


「巨大ネズミの繁殖能力はすさまじいものですからな。あとパロマお嬢様、打つ手の軸が曲がっています。もっとまっすぐに打つ事を意識するように」


 フロイツは巨大ネズミ達を拳で殴り飛ばしながら、淡々とパロマに話し掛けついでにダメ出しも入れる。


「こんな時まで説教は止めて下さいま……せい!」


『ヂュツ!!』


 パロマは文句を言いつつ、飛び掛かって来た巨大ネズミを手刀打ちで打ち落とす。


「はっはっは、その調子ですぞ……それにしても……」


 フロイツは違和感を感じつつ、背後で戦っているヒトリの方を見る。

 ヒトリもまた違和感を感じているような表情で巨大ネズミ達をナイフで倒していた。


「この状況、おかしいですか?」


「えっ!?」


 フロイツの問い掛けに、ヒトリが一瞬ビクリと体を震わせた。


「あっ……えっと……は、はい……いつもと違います……」


「やはりそうですか」


「え? 何がですの!? 2人だけで納得していないで教えてくださいま……しっ!」


「巨大ネズミというものは群れで行動します。そして、それぞれの群れで縄張りをつくります」


「それがどうかしました……のっ!」


「縄張り意識が強い為、群れが集まる事はまずありません……が、少なくともここには3~4つの群れが集まっている様です」


「はあ!? そんなに!?」


「あっ………そ、それにここまで獰猛でもないんです」


「どういう訳ですの? さっぱりわかりません……わっ!」


「何かしらの事情があり、住処を追われてここまで逃げて来た……と考えられます」


「その事情っていうのはなんです……のっ!」


「それはわかりません。ですが、これは確認した方がいいかもしれませんな」


「あっ……で、ですね……」


「……」


 必死に戦うパロマをよそに、ヒトリとフロイツは巨大ネズミを対処しつつ現状の分析をする。

 それを見てパロマは何とも言えない気分になるのだった。


「で、でも……こう数が多いと……」


「なら、わたくしに任せてくださいまし!」


 パロマは自分の眼鏡に手をかけた。


「お嬢様、眼をお使いに?」


「ええ! この眼に頼るのは少々不本意ですが、こういう時にこそ役に立ちますわ! 2人とも、絶対にわたくしの前に立たないで下さいまし!」


 動きを止めたパロマに、巨大ネズミ達が一斉に襲い掛かった。


『シャー!』

『チュチュ!』

『フー!』


 パロマが眼鏡をはずし、金色の瞳で巨大ネズミたちを睨みつけた。


「石化しなさい!」


『ギャ――』

『チュ――』

『ピギ――』


 次々と巨大ネズミ達の身体が石化していく。


「……す、すごい……これがメデューサの眼の力……ですか……」


 その光景にヒトリは呆気にとられる。


「ええ、本気を出せば一刻で国を亡ぼすほどの力です」




 数分後、巨大ネズミ達はパロマの眼によってすべて石化してしまった。

 パロマは辺りの様子を見た後、眼鏡をかける。


「とりあえず、これで全てみたいですわね。先に進んでみましょうか」


「そうですね、ですが何があるのかわかりませんので私が先行します。ヒトリ殿は、最後尾をお願いできますか?」


「あっ……はい、わかりましたぁ」


 3人は下水道の奥へと進んだ。

 道中、残っていた巨大ネズミや虫型モンスターが襲ってくるも、これといった収穫は得られなかった。


「……何もありませんわね」


 パロマが残念そうにぼやいた。


「パロマお嬢様、油断大敵ですよ」


「わ、わかっていますわよ。わたくしは常に……ん?」


 パロマが鉄で出来た扉の前で立ち止まり、しゃがみこんだ。


「如何されましたか?」


「この扉の前だけ妙に足跡が多くありませんか?」


 フロイツもしゃがみ、扉の床を確認する。


「確かに……しかもまだ真新しい……」


 フロイツは立ち上がり、扉のノブに手を伸ばした。


「……鍵は開いていますな。ヒトリ殿、今日は我々以外に人が入る予定は?」


「あっ……えと……お、王国側が巨大ネズミの駆除が済むまで、下水道への立ち入りを禁止しています……なのでボク達以外は誰もいない……はずです」


「となれば、ここが当たりかもしれませんな。行ってみましょう」


 フロイツはゆっくりと扉を開けた。

 扉の先も同じ作りの下水道が続いていたが……。


「うっ!」


 臭いに慣れて来ていたパロマだったがまた鼻を抑える。

 汚水とはまた違う悪臭が流れ込んできたためだ。


「……これはまた、ひどい腐敗臭ですな」


「あっ……こ、こんな臭いは下水道では初めてです……」


「……」


 マンホールを開けた時と同様に平然としている2人に、パロマは若干引いてしまうのだった。




 腐敗臭が酷い下水道をフロイツ、パロマ、ヒトリの順番で進む。

 そして曲がり角に差し掛かった時、フロイツは足を止めた。


「? フロイツ、どうし……」


「しっ! 静かに……曲がった先に何かがいます」


 フロイツの言葉で、その場に緊張が走る。

 3人は恐る恐る曲がりを覗き込んだ。


「なっ――むぐっ!」


 叫びそうになったパロマの口を、フロイツがサッと塞ぐ。


「お静かに」


 パロマは首を縦に振り、そのままの格好で曲がり角を少し離れた。


「――ぷはっ! あ、あれは何ですの!?」


 パロマは小さな声で2人に質問をする。


「さあ、私にはわかりません」


「あっ……ボ、ボクも初めて見ました……」


 3人が見たモノ。

 それは中型サイズの緑色のドラゴン……の様に見えるが、決してドラゴンではない。

 何故ならば、ドラゴンの首元からは狼の獣人と思わしき上半身が生えていたからだ。

 さらに獣人の右腕は大蛇の頭、左腕は大蛇の尻尾になっている。


 まさに異形と言える化け物が、王国の地下にある下水道の中を徘徊していたのだ。

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