第45話


 5階層は地獄絵図と化していた。


 貴族の子供は捕らえられ平民の子供は脅され見せしめに1人ずつ殺されていた。


 頭の中でなんでなんでなんでなんで?とループする。



「おいっ!ケビンしっかりしろ!」


 ネロから焦った様な怒声が飛ぶが


「うわぁ。あぁカマリ?カマリ?カマリ?ごめんごめんごめん」


 俺は無駄だと分かりながらカマリに治癒魔法をかける。


「グハハ!何だぁ知り合いが死ぬのははじめてか?じゃあ仲良く死ね」


 そんな汚い言葉を投げかけられた時には既に目の前に刃が迫っていた。


「あ、死にゅたくにゃい」


 そんな時だった


「うぉぉぉぉぉ!2人も死なせるかよぉぉぉ」


 ネロが魔法を纏って俺の目の前に立つ。


「ケビン!しっかりしろ。お前が俺達のリーダー何だぞ?おいっ!くそ貴族早く立ち直れ!」


 その言葉に目の前の男の顔が酷く歪んだ。


「おー坊主ありがてぇ情報だなぁそりゃあ。

 金貰う前に殺しちまう所だったぜギャハハ」


 俺はその言葉とその態度に完全に前世の両親や兄弟達の凶行の記憶がフラッシュバックしていた。

 体が勝手に震えてしまう……もう俺はアイツでは無くケビンなのに。


 勝ち取ったのに、全てを奪ったのに。声が掠れる。


「な、なんで?何で?子供を狙って殺した?」


最早、ただをこねる様な物言いしか出来なかった。


「はぁ?金と欲を満たす為だ。依頼を受けたんでな。魔物素材を身に付けるアホやダンジョンを渡さないゴミを片せってな?」


 そこで周りを見て気付いてしまった。

 回復役達が全員敵側に回っていると。


「メラス皇国の善神教」


 そして俺達が狙われた理由も……何故なら知識部は俺とネロ以外殺されていたから。


「ぐぇっ……」


「ね、ネロ!!」


 そんな時にネロが男に吹き飛ばされた。


「ケビン!お前だけでも逃げろっ!」


 ごめん足動かないんだよ……


「動けよっ!頼むから最後の友達位護らせてくれよ!」


そんなネロの心の叫びが木霊するがそこに割って入るは恐怖を感じる男の声だった。


「あぁ? お前も貴族だけど抹殺対象かよ。そっちの坊主は少し強ぇからお前から死ねビビりのクソガキ」


 ヒュンという刃の音と共に再び自分の命の危機に視界がゆっくりになり遂には走馬灯が見える。


「うぁ……あぁぁぁ」


「ケ、ケビィィンゥゥゥゥ」


 ネロの悲痛な声が耳に残った時だった。

 ブツッという音と共に俺の視界は暗転した。

 遠くで獣の様な咆哮が聞こえた気がした。



 ◇


 ネロ視点


「ケ、ケビィィンゥゥゥゥ」


 俺はカマリも護れずケビンも護れないのかと悔しくて悔しくて


「ちきしょぉぉぉぉ「グワァァァァァ」は?」


 叫んだと共にギュインという金属と金属がぶつかる不愉快な音が俺の前から聞こえた。

 そして明らかにおかしい獣の様な咆哮。


 視線を上げるとそこには魔力が可視化出来る程恐ろしい状態のケビンが居た。


「グギャァァ」


 腕をダランと垂らして可視化出来る魔力を腕と手に纏い男に襲いかかる。


「何だ!?コイツ?」


 物凄いスピードで壁を伝いながら走り男を攻撃するケビンの横に敵の仲間の若い男が槍を持って攻撃しようとしていた。


「バカっ!そいつに手を出すな!」


 敵の相手取っていた男が叫ぶが遅かった。


「リーダー大丈夫っすよ?あれ?」


 その言葉が若い男の最期の言葉になった。

 ケビンは手に魔力を纏った状態から更に魔力を伸ばし一瞬にて首を跳ね飛ばしたのだ。


「うわぁぁ化け物、クソがっ!よくもガッ!?」


仲間がやられたと他の連中も加勢しようとしたが……

ケビンは容赦なく敵意を見せた全員に襲いかかろうとした。


「来るなぁぁ」


「チッ逃げろお前ら、正気保ってねぇコイツ!」


 リーダーと呼ばれた男が3人殺された所で間に入り剣戟を重ねる。


「きゃぁぁぁぁ」


 ネロは咄嗟にケビンが男と戦ってる最中に呆然としてる生徒を蝿でも払うように殺そうとしたのを止める。


「ケビン!!戻ってこい!」


「ウガァァァァァ」


 俺の声が一切、聞こえてない様子に俺は『シールド』の魔法を使い男の方に弾き飛ばした。


「チッくそが!仲間割れしとけよクソガキ!」


 男もケビンが手当り次第周りに暴虐を振りまくとは思っても見なかった事で戸惑っていた。


 そして捕まえた貴族の子息令嬢達を殺されたら金が取れないと必死に守っていた。


「何なんだコイツは!?どんどん野生じみて行くじゃねぇか!?撤退だ」


 そう言うとリーダーと呼ばれた男は袋を担ぎ出ていってしまった。


 俺はその思い切りの良い行動にポカンとしてしまったがすぐに頭を振り

 暴走したケビンを視界に入れる、俺も魔法と剣をどちらも扱うからこそ分かる。


 5階層のボス部屋の空間を埋め尽くす程のケビンの魔力が荒れ狂っているのが。

 自然と汗が頬を伝う……一滴の雫が顎から落ちる瞬間に

 一瞬、膨れ上がった魔力を見逃さず剣でケビンを止める。


「ケビン!!お前に誰も殺させねぇぞ!戻ってこい!」


 そう、俺は友を護る為に宣言したのであった。

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