第6話
商業ギルドへ入ると少しザワついた。
そりゃそうだよねー、領主様がいきなり来るとか有り得んもんね。
何か大きなことが起きたか起きるのでは? と聞き耳を立てている感じがよく分かる。
しかし、流石は商人達だ。ザワついたのは一瞬でこちらに興味があるとチラチラと視線を送るに留めた猛者ばかりだった。
一瞬のザワつきに気付き、こちらに近付いて来て凄く綺麗なお辞儀をしたお爺さんが声をかけてきた。
「これはこれは領主様どのような経緯で商業ギルドへ?」
「おぉ、助かったいつもは前触れを出してギルドマスターへと繋ぐのだが
今回は息子が保証契約の審査をしたいということでな。いきなり来てしまったのだ」
俺は前触れの辺りで父上にジト目を向けていた。
普段、貴族のなんちゃらかんちゃらとうるさい人がそういえばそういうの全部すっ飛ばして居たからだ。
その話を聞いたギルドマスターと言われたお爺さんの目はギランと光り俺を見定める様に見てくる。
イヤンそんなに見つめないで!とおチャラけていると父上にゲンコツを落とされた。
「ふふふっ、いや失礼。とりあえず秘匿性の高い事案と察しましたので
個室に向かいましょう。ご案内致します」
カウンターのあるフロントを抜けると大小様々な個室があり
その廊下の入口でギルドマスターが止まった。
「まだお互い自己紹介が出来ていませんがご子息様。どのタイプのお部屋を希望致しますか?」
あ、確かに。
俺の名前を知らなければギルドマスターの名前も知らんわ。
「えーっと盗聴対策がなされている部屋で入れる人数は4~5人の部屋で。
こちらの入る人は父上と私だけで」
その言葉を聞き父上はハビスに目をやるとハビスは一礼し去っていった。
「誰にも聞かれたくないのですか?」
俺はその言葉に頷く。
「では少し奥の暗の間に行きましょう。審査官は私とサブギルドマスターにしましょう」
そういうとギルドマスターは手に持っていた音を鳴らす為の
芯が無いハンドベルに魔力を流し振ると音が鳴る。
するとすぐに若い……いや何歳かわからんエルフの女の人が来た。
「これは……!伯爵様。お久しぶりです。
中々面白い話が聞けそうですね!」
悪い笑顔を見せる美女。
んー美女はどんな姿も中々絵になるな。
なんて思いつつも、4人で暗の間に入ると扉に魔力を流し
部屋全体の壁に魔力が張られたことに俺は驚いた。
「ふむ、ご子息様は魔力感知が得意ですなぁ。あ、これは失礼。
私は商業ギルドマスターのセバスチャンと申します」
せ、セバスチャンだとぉぉぉぉ!
何故執事をやってない!(前世の悪い偏見)
「これは若輩者に大変丁寧なご挨拶痛み入ります。
私はクロス伯爵家次男のケビン・クロスです。
今回はお忙しい中、時間を割いて頂き感謝の極みでございます」
父上からジト目で睨まれるが知らんわっ!
「ケビン……お前そんなまともな挨拶出来たのだな?」
「父上? 俺は貴族になりたくないのですよ?
放蕩息子やアホ子息を目指しているのですから。
それ以外の場所では取り繕う必要がありますか?」
そういうと父上は頭を抱えてしまった。
「凄い偏った考えなのですね? もし私達がケビン様を支持すると言ったらどうするのですか?
あ、私は商業ギルドサブギルドマスターのアレンサリーナです」
お茶を出しながらそんなことを言うエルフのお姉さん。
「え? ギルドは国とは対等な関係かつ不干渉組織でしょう?
干渉してきたら本部にガンガン嫌がらせの抗議文送りますよ?」
「腹芸も上手いと、いやはやこれで貴族や政治に興味が無いとは悲しき現実ですな伯爵様」
「あぁ頭が痛い案件なのだ。しかし妻の実家という後ろ盾をしっかり理解した
上での行動だからこそケビンには頭が上がらんのだ。
こいつが当主を目指すと言っていたら更に領内で何かしら起きていてもおかしくなかったからな。
ケビン。例の物と使い方を教えてくれ」
あ、確かにそうだな。
俺は袋の中からそろばんもどきを出した。
商業ギルド側はそれを手に取り見ている。
「ふむ、面白い形ですな? これの使い方を教えて貰えますかな?」
「これは計算機です」
「「「は?」」」
「いやだから計算機です。1~4の数字はこの下の段の石を上に上げて数えて5になったら
上の段の石を上げて下の段の石を全部下ろすのです。
9の次になったら右の1列全て石を下ろして右から2列目の下の段の石を1つ上げます。
1番右の列の上の段の石が上がり下の段が3つ上がっていて右から2列目の下の段が2つ石が上がっていれば?」
「2……28です」
恐る恐ると言った具合にギルドマスターセバスチャンが答える。
「正解です。これを作った理由は簡単です。
計算のスキルを必要とはしないが日常で計算をしなきゃいけない人。
つまり貴族や代官向けの商品でしかもこれがあれば」
ここでアレンサリーナさんに言葉を取られた。
「商人の子供で優秀だけど計算スキルが取れずに商人になれなかった子も商人になれる?」
「まぁ、あくまで補助ですけどね?
父上にも使えるはずですよ? 税収の計算全て計算スキルを使える人に任せて一切確認してませんよね?
その中でちょろまかしや計算出来ないし適当でもバレないだろう
と思って偽装してる奴も、もし居れば炙り出せますよ?
この道具は知識の探求と魔法の神エスト様より既存に無い道具で実に興味深いと言われた道具です」
目を見開き三者三様の驚き方をしている。
商業ギルドマスターは神が興味を示したということを
サブギルドマスターは商業の世界や数字を扱う世界で人材不足の革命が起きるということをら
父上は神エストからそんな話が出ている事を本当に文字だけで伝えきれるのか?
という疑問点が浮かび上がったことに
皆ほぼ同時にお茶を飲む。
「す、素晴らしいですね。何故こんなに桁が多いのですか?」
その答えは用意してたぜっ!
「銅貨1枚と数える地域にはあまり必要の無い道具ですね?
しかし銅貨1枚を100カルと表記している店では?
高価な品が売れた時に10万カルと計算するのでは?
流石に白金貨やミスリル貨を扱うのは国だけでしょうから商人と個人領主向けの商品なのです
まぁ一応9億カルまでは扱えますけどね?」
お金の表記は基本的に硬貨の種類何枚と表記される場合と
銅貨1枚 =100カル
大銅貨1枚=1000カル
銀貨1枚 =10,000カル
大銀貨1枚=50,000カル
金貨1枚 =100,000カル
大金貨1枚=500,000カル
白金貨1枚=10,000,000カル
ミスリル貨=100,000,000カル
計算出来ない人が多い為に基本的には硬貨の枚数表記が庶民の中では多いのだ。
先程からギルドマスターは実際にそろばんもどきを使い
どこからともなくサブギルドマスターが持ってきた書類の計算をして次にスキルを使い計算してる。
「あ、合ってる。ケビン様!確かにスキルに比べて時間はかかりますがあっていますね!」
「最低2回は計算をしてみて同じ答えになれば計算は合ってるということになりますね。
しかもこの道具の最大限の利点は」
俺は袋の中から紙を取り出し適当に数字を6桁を2行書き出す。
「この様に計算途中の答えを書き写して、この2つの桁を右から足して行くと更に簡単に計算出来ます。
時間がかかるから大変では無く、分けて最後に足すことで最も楽な計算方法になります」
更に俺は次に羊皮紙を取り出し
「この道具の設計図です。私にはこれを作る技術はありません。
しかしアイディアは出せます。1つか2つの鍛治屋に生産して貰えば多少の仕事の振り分けが出来るはずです。
しかもこの道具はあくまで補助と言いました。
子供は最初指を使い数を数えますね?」
商業ギルド側は2人とも頷く。
「む? ケビンは指を使ったか?」
父上……要らないチャチャはやめてよね。
「父上!話の腰を折らないの!」
「うぐ、すまん。」
「これを最初から使えば? そのうちスキルが使える様になるかもしれないし
ならなくてもそれなりの早さで計算できますよ?
最初にこの道具を使った人が書類で計算をして最後の確認をスキルで計算をするといった方法をすれば
今の商人スキルを持った店主だけに負担が行くのも減るのでは?」
そこで商業ギルドマスター・サブマスター両名立ち上がり。
「審査は合格です。鍛冶師の精査と販売方法はこちらでなるべく早く決めましょう。値段はどうしますか?」
俺は悩む、実は大した労力も使ってない道具に値段をつけろと言われてもなぁ……
「銀貨1枚でどうですか?今こういう物を作るのは鍛冶師ですが彼らは鉄を扱うのが本業の筈です。
なので鉄で作れば耐久度も上がり刻印も打ちやすいのでは?」
「ふむ、確かにこの木製だと子供に持たせるには少し耐久が弱いかもしれませんなぁ」
俺は頷き
「貴族にこの道具が伝われば、どうせ少し特殊な材料で作れといった注文が入ります。
商人やるなら銀貨1枚位出せないならそもそも商人に向いてないですし」
そこでアレンサリーナさんが食い付いてきた。
「商人に向いて無いとは?」
え? そこ?
「え? だって子供を継がせる又は他の大手商店で修行できる様に教育するのに
そこに金が出せないならそれまでの商人人生で手元又は目先のお金しか見えてないので災害やちょっとした状況の変化で潰れますよ?
ここは貴族の子息令嬢も同じ考えで子供に教育を施してますからね?」
父上……貴族系の話になると首を傾げるのはやめてくださいよ……
そんな父上の様子に呆れながらも場の話は進む。
「そ、そういう事ですか……1つ気になったのですが
本当に5歳ですか?先日、伯爵様のご子息は2人共洗礼式に行ったという話しを聞いたのですが?」
やっべぇー誰にも聞かれないから調子に乗ったわ!
「アレンサリーナ殿も先程聞いた通り知識の探求の神に魅入られただけあって
知識の深堀し過ぎでな。好奇心のみで動いてるおるのだ」
横で父上がため息をつく
「あぁ……そういう事ですか。
確かに領地経営をなさる伯爵様や商業を営む私達には理解出来る考え方ですが。
先を長く見ない人には奇行に映るのでしょうな」
ギルドマスターのセバスチャンも中々辛辣!
「そうなのだ、他の人間は数日から数ヶ月先を見ているが
こやつは数年先を見据えて動いているのだ。
はぁ。頭が痛い」
「考え方の違いはどうしても変えるのは難しいですな。さて、ケビン様。
利益割合はどの様に致しましょうか?」
ふむ、制作販売アイデア料の割合か。
「普通はどの様な方式でやっているのですか?」
「普通は販売利益から材料費を先払いで商業ギルドから払い。
残った販売利益を保証契約者側に5~7割が普通ですね。
その半分を商業ギルドと鍛冶師に分ける形です」
えぇー高くね?酷いな……
「それで、職人は食えるんですか?」
「それでも仕事があるのだからやりたいという方もいらっしゃいますね。
数が多くなれば塵も積もればホコリの山になるという格言もあります。
ホコリは2つの意味があり、気高い誇りの気持ちと薄利でも積み上がれば利益は莫大になるという意味です」
俺は悩み、そして決めた。
「父上? 職人への保護をもう少ししないと市井のバランスが壊れますよ?
まぁ私は知りませんけどね?
えーっと決めました。対等割合で行きましょう!」
アレンサリーナさんが少し驚いた様な表情をして
「対等割合とは? 割り切れない場合は?」
「割り切れない場合は販売時にトラブルがあった場合に商業ギルドで貯めていて何かあった場合に払いましょう。
なので3:3:3:1で1は貯めておいて、もし商品を運ぶ時に魔物や盗賊に襲われ、怪我をした時に多少の補償金にしませんか?
甘いと言われればそうですが、これをもし中堅辺りの専属商売人を決めて行えば
怪我をした時に初めて補償の話をして払えば
その後、喜ばれる上に誠実に仕事をするのでは?」
商業ギルドマスターセバスチャンは黒い笑顔を見せる。
「最初は伝えず、選定のふるいを行い。
真面目に仕事をして怪我をした時に初めて補償を行えば
顔も知らないケビン様と商業ギルドと職人達への信頼を得れるという事ですね?」
俺もニヤッと笑い頷く。
「私は楽に利益を得られ。商業ギルドは信頼を出来る商人との架け橋を繋げられ。
折り合いの悪い職人と商人を対等に扱う為の糸口を作れる。最高じゃないですかね?」
「はい!魔法術式契約書完成!私とギルドマスターそしてケビン様の名前を書いて魔力を流せば完了です!」
俺は契約書を確認し1つ気になったのは
「あ!見栄えばっかり気にする貴族への販売時は職人側の労力が掛かるので
私の分の割合を1割減らして職人への手当にしてください。
金額が莫大になれば私の取り分も普通の計算機の利益より貰えますからね?」
アレンサリーナさんが頷く。
「通常品を欲した貴族にはその通りの値段で特注なら値段設定は商業ギルドで決めるので大丈夫ですか?」
俺は頷き
「材料費と加工費の正当な値段が分からないので商業ギルドで決めてください。
それと報告義務も付けてください。月に1回でも報告してください。
不正報告した場合は?どうなるのですかね?」
「魔法術式契約でその分野・項目を書いておけば大丈夫です。
今回は商業ギルドという組織で不正報告をしないと書きます。
そうすれば神が不正と判定した時点で私やアレンサリーナが関わって無くても胸に強い痛みが走り苦しむ事になります。
商人や鍛冶師には別の魔法術式契約書を使い情報漏洩も阻止します」
うへぇ……やべぇなこの契約書。
多分命すら奪える様な奴だな。
契約内容を知らない関係無い奴がヘマをやったら組織のトップがそのヘマが分かるとかやべぇな。
「俺はそれなら安心できますね!」
そういうとアレンサリーナさんが指先に魔力を込めて文字を書いていく。
目を凝らしてそれを見ていると何か安心出来る様な澄んだ魔力の色だった。
「はい。これで追加完了です。
私は既に名前を書きました」
次いでセバスチャンが名前を書いて再度俺が中身を確認して名前を書き。
3人で契約書を触り魔力を流すと一際契約書が光り魔力ががっちり契約書を包んでいる。
「この契約書は3人同時か主になっているケビン様と私かギルドマスターの2人が揃って無いと契約を破棄出来ません」
おぉ、それなら安心だな。
「今日はありがとうございました有意義な話を聞けました」
と立ち上がって帰ろうとしたら慌ててアレンサリーナさんが道具を持って待ったをかけた。
「お待ちください!ケビン様!商業ギルドの口座を作って頂けないと
お金の振込ができないのでこちらに魔力を流してください!」
俺は言われた通りに魔力を流すと
「はい!確認出来ました!こちらをどうぞ」
穴の開いた金属の板のタグを渡された。
「これはギルド口座のタグです!商売するならこのタグを使って更に商人登録が可能です!
冒険者ギルドはまた違うタグを使ってますが基本的に冒険者は
冒険者ギルド用のタグとギルド口座のタグを両方付けていますよ!」
それを聞いて納得した。
前に技術を教えて貰った冒険者もタグを2つ付けていて何だろうな? と思っていたが謎が解けた。
俺はタグを受け取り商業ギルドを出たのであった。
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