変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

赤井 水

プロローグ


「いい加減にしろ!お前は貴族としての誇りは無いのか!?」


 金髪の髪を逆立て顔は見目麗しく、体は服の上からでも分かる鍛錬の賜物とも呼べる肉体を持つ男性が男の子を怒鳴り散らす。


 怒られている男の子は5歳位の男の子が2人。

 金髪の1人はポカンと口を開けうるうると目に涙を溜めて今にも泣き出しそうな顔をしている。


 もう1人の銀髪の男の子は男性の顔を見ないようにそっぽを向いて口笛を吹いてなんの事やらと

 飄々としていて金髪の男性に堂々と言い放つ。


「いーやっ!勉強はします、鍛錬もします。

 だがしかし!! パーティー用の礼儀? 言葉使い? ダンス? 無理です!嫌っ!」


金髪の男性は額に青筋を立てて居てまたすぐに怒鳴りそうな所を隣に居た銀髪の女性が男の子に声をかけ遮られる。


「ア、アレク? カインは関係無いのに可哀想です。ケビンは諦めましょう。

 ケビン!貴方には貴族がどれだけ他者よりも優遇されているか分かりますか?」


 女性は厳しい目でしかし、優しい声色で諭す様に自分と同じ髪色の子供を見やる。


「はい、母上。それは理解しています。

 なので私は領民を守る事には命を賭ける所存でございます。

 しかし、私にとってパーティーやダンスといった物は異物にしか感じられないのです。

 今は戦争はありませんので内政に力を入れる時期になります。


 なので次男の私はパーティーに必要はありません」


 アレクと呼ばれたアレクサンダー・クロス伯爵とサリア夫人は

 ケビンのハッキリとした物言いに少したじろいでしまう。


「うぬ、いや、しかしだな? この国でも5歳の貴族の子供のお披露目は大事なのだ。

 それはケビンも理解しているだろう?」


 ケビンは首を縦に振る。

 パァっと顔を明るくしたサリアはケビンの次の言葉で再び顔を暗くしてしまう。


「なので、私は阿呆を演じます。

 対外的に表に出せない変人奇人としてカインが優秀なクロス家の嫡男と大々的発表した方が良いと思うのです。


 同い年の子供の居る跡取り騒動など無駄な労力でしかありません。

 なので、表のカイン現場の私ではダメですか?」


 その言葉を聞き2人は諦めた。

 そもそもここまでケビンがいやいやと言うには理由があった。

 ダンスが戦いとは違う遅さに精神的にイライラしているのと

 そもそも探究心が強すぎて無駄を省きたい性格なのであった。


 アレクはため息をはき。


「わかった。表向きにはケビンは病弱として後に頭は良いが奇行が目立つ事にしよう。

 しかしだ、8歳からの帝都の学園には行ってもらわねば困るぞ?」


 そこでケビンは少し悩む素振りを見せる。


「私はそこでどちらを演じればよろしいのですか?」


 2人は首を傾げる。


「ぬ? どういう意味だ?」


「奇行が目立とうが学問がカインより優秀では

 母上と義母上の実家が争いに発展してしまうのでは?」


 2人はその言葉で更に悩む羽目になってしまった。


「そ、それは後3年もあるからその時の噂や評判で決めよう。

 パーティーは欠席しても【洗礼式】には参加してもらわねばならぬぞ?」


 ケビンは目を輝かせ、コクコクと首を縦に振る。


「当たり前ですよ!魔法ですよ? 魔法。ふふふどんな魔法が使えるかなぁ~」


 ルンルンとスキップをするケビンを見て両親2人は更に頭を抱えてしまうのであった。


 心の中は『そんなステップ踏めるなら踊れるだろう?』だ。


 そんなことは知らないとケビンは両親に頭を下げて断りを入れて部屋を出て自室に戻ってしまった。


 2人はため息をはき、カインへと目を向けこう告げる。


「カイン。クロス家当主はどうやらお前がなるしかない様だ。

 ケビンは全く興味が無いらしい。

 天才・鬼才のしていることや考えていることを秀才・凡人が

 見ても奇行に見えるとはこのことなのだろうなぁ」


 アレクは疲れた様にそう言うとサリアは同意する。


「貴族の仕事を皆、我慢していることをバッサリと"無駄"と

 言えるのは子供だからとは言えないのでしょうか?

 本当に私から産まれたのかしら? と言いたくなる位ハキハキと

 物事を告げるあの子は誰に似たのかしらふふふ?」


 サリアはそう微笑みアレクを見るがアレクは苦笑いをしつつ。


『微笑み方はサリアそっくりだけどハキハキとした意見は

 俺の性格だろうがあの腹黒さだけはどこから来たかさっぱりだな』


 なんて心の中で自問自答してしまうのであった。


 ◇


 ケビンは鼻歌を歌いながら自室に戻っていると執事のサブが手に箱を持ちながらこちらにやってくる。


「ケビン様、木工商に頼んでいた物が届きました」


 俺はわぁーいと喜びながらサブに私室までこれを運んでもらう。


 サブから受け取った箱には木で出来た長方形の枠に縦に等間隔に木の棒が建ててある。

 まだ完成してはいない為上の板は固定されてない。

 そしてもう1枚穴が空いている板も入っている。


「ケビン様、こちら説明書きです。それとこの石の粒は何でしょうか?」


「まぁまぁ見てて見てて!」


 俺は木の棒に穴の空いた石を4つ入れて行く。

 全ての木の棒に4つずつ入ってる事を確認して穴の空いた板を上にはめ込む。

 この時に説明書きにあった横の枠にボッチを入れるのも忘れない。


 そうする事である程度の所までで板は止まりまたその上に石を1つずつ棒に入れていく。


 それが終わると木の枠を完全に閉じた。


 指で石を弾き上下に振るとシャカシャカ音が鳴る。


「ほう、新しい楽器ですかな?」


 サブがそんなトンチンカンな事を言うのでズッコケた。


「違うわっ!とある道具だよー!」


 そう、そろばんだ。

 ここでわかる人にはわかるだろ?

 俺は何の因果かわからんがある日いきなり転生した。

 記憶と意識・精神の定着のズレがキッチリ歯車の如く嵌ったのはついこの間になる。


 ケビンは前世の日本での知識を持っているがそれも虫食い状態の為

 それが他の人や周りの人達から見れば奇行に見えた。


 前世で見た転生物のライトノベル小説でよくある

 計算は暗算や紙に筆算でって……無理やろがぁぁぁ!


 地頭良いの自慢してんのか? コラァ!

 どこの世界に書類見ただけで計算間違ってるってわかる人間居るんじゃいって訳でな?


 正直、俺も15×15までの掛け算と飛んで20×20位の数字までの簡単な計算しか出来ない。


 そこで俺は考えた。

 電卓? 無理だろ、あれって日本では当たり前の様にあったが

 外国では未だにレジスターすら怪しい国があるんだから日本はエグいと思う。


 そこでそろばんは知らないがそろばん風の計算機ならつくれるのでは?と思ったわけだ。


 石を4つはそのまま上の段の数は5とすると1つの列で0~9までの

 数字が数えられれば計算成り立つよね?って考えたのだ。

 そもそも一応9桁までの計算出来る様にしたのだが……俺には必要なかったかも。

 ま、いっか!


「ケビン様? これが道具なのですか? どの様に使うのですか?」


 サブはマジマジとそろばんもどきを見てくる。


「え? 秘密!サブに伝えたら父上や母上に報告するでしょ?

 俺の株が上がらない様にする為に色々と

 手回ししてるのに要らんことを増やされても困るぞ?


 これは俺が後に楽する為の道具だ」


 サブはあからさまに嘘泣きを始める。


「おぉ、ケビン様に私めは信用されていない様です。なんと悲しきことか!」


 いやいや、貴方サリア母上の家系の回しもんでしょ?

 知ってるんだよねー……だからこそ多少は使うが

 最初の人脈又は素材までの用意位までで止める。


 これでもし、そろばんもどきが市井に出回ったらコイツは処分する予定だからな。

 まぁ、理解出来てないからまだ流れてはいないけどな。


 俺は貴族転生したことを喜んだが最初だけだった。

 学問歴史魔法は面白かったが……マナー講習、ダンスレッスンに

 服装・服飾選び、お風呂等……柵がやたら多過ぎて面倒臭い。


 そして周りの大人達の陰謀や暗雲立ち込める環境に

 数日で音を上げたのが先程のダンスレッスンだった。

 ワンチャン平民の方が職業選択の自由がある気がするのだ。


 前世でも放浪癖の酷い性格も相まってこの環境が

 恵まれていると分かってもうんざりしていたのだった。

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