社畜さん、異世界を行き来してスローライフ
@koketsutarou2
第1話私異世界にきちゃった
私、森谷しずくは23歳。
社会人一年目。
グルメ系の旅情報を扱う雑誌の編集員をしている。
今日も終電には乗れず、会社で残業中の自慢の社畜ライフを送っていた。
いや、自慢になっていないか……。
ああ、お腹空いた。
それよりたくさん寝たい。
というか、仕事辞めたい……。
はあ……なにか癒しが欲しい。
そんなことをぼーっと考えながら、パソコンのキーボードを打っていた。
ああ、まずいわね。
眠気が限界だわ。
うとうとと、睡魔に襲われ視界が閉じられるのであった。
おやすみ……なさい。
――――
……え、ここはどこ?
私は、気が付くと見慣れぬ街にいたのでした……。
ああそうか。
これはきっと夢ね。
そうに違いない。
でも、いやに現実感のある世界ね……。
町中を行き来する人々。
活気に満ちた雰囲気。
西洋風のオシャレな街並み。
そしてなによりも、どこからか漂う鼻腔をくすぐるこの良い匂い!
これが本当に夢ですって?
いやいや、夢に決まってるでしょ。
まさかここが現実なわけ……。
そう思っていた矢先のこと――。
私の肩が、街中を走っていた若い男性にぶつかったのだった。
いたっ!?
「ああ、悪いね。君怪我はないかい?」
「え、ええ。私は大丈夫です」
「そうかい、なら良かった」
あれ?
痛みがある。
それに妙にリアリティのある感じのものだ……。
まさかここって本当に現実なの……かしら?
まずは色々と確認してみましょう。
「あの一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ん? なんだい? なんでも聞いてくれて構わないよ」
「あのー、ここは一体どこなんでしょうか?」
「ああ、もしかして君旅の人かい?」
「え、ええ。そうなんです」
「じゃあ、さっくりと説明するね。ここはアズール王国の港町でスロールタウンってところなんだ。まあ、みての通りかなり発展してる街といえるだろうね」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「いえいえ。他になにか聞きたいことはないかい?」
「いえ、今のところ特にはありません」
と、言ったところで突然お腹がグーと大きく鳴ったのでした……。
恥ずかしい。
「あはは、そういうことならうちの店にくると良いよ。今買い出しが終わって店に帰るところだったんだ」
え、え?
ウソ!
お食事ですって!
「行きます! ぜひ行かせてください!」
私たちは挨拶もそこそこにそのお店へと向かったのでした。
そういえば私、お金持っていないのだけれど……。
まあ、なんとかなるでしょう。
――――
お食事処「ベルンのご馳走屋」にきた。
「どうぞ召し上がれ」
さきほど出会ったこの店の店主である、ベルンさんが料理を出してくれた。
「わあー、おいしそう!」
運ばれてきた料理は、
キノコがたっぷりとのっかり、ベーコンまで使われている。
さらにはバターの良い香りまで漂っていた。
その名も、キノコとベーコンのバターヌードル、というものらしい。
要はパスタのことね。
「それじゃ、いっただっきまーす!」
まずはチュルリっと一口。
こ、これは……。
「ん~、美味しい!」
「あはは、それは良かった。嬉しいなー、うちの店自慢の料理なんだよ。ってあれ?」
そのベルンさんの話よりも、料理を食べ進めることに夢中になってしまっている私。
「この香ばしい香りのキノコと、肉厚でジューシーな味わいのベーコンが口の中で合わさり絶妙なハーモニーを奏でているわー。ああ、それにバターの風味と塩味がほどよくマッチしていて、空腹のお腹にはいくらでも食べられる美味しさだわー!」
料理を味わいながら独り言のように呟く。
そしてあっという間に食べ終わる。
そんな私に触発されたかのように、
「なあ、わしにもあの嬢ちゃんのと同じのを一つ頼む!」とか、
「ずるいわ私にも一つ頂けないかしら」だとか。
その場にいたお客さんが、私の食べているものと同じものを頼み始めたのでした。
気付けば店中で注文が殺到し、店員の人たちが、忙しそうに動き回っていたのだった。
「ああはい、ただ今! それじゃごゆっくりしていってね」
ベルンさんがそう言い残し、忙しそうに厨房の方へと走っていった。
……。
なんだか悪い事しちゃったかな。
いやそれよりも、やっぱり……。
ここって現実の世界みたいね。
信じ難いけれども。
だって、夢の中でこんなに自由に動くことなんて、出来るはずないもの。
そもそも仮に夢だしたら、それが夢である自覚なんてあるわけないわ。
ってことは私、本当に異世界に来てしまったのー!?
でも、どうして?
こうなったのには何か理由があるのかしら。
というか、異世界にきたってことはもしかすると私……。
死んじゃったのー!?
よくある、死んでから異世界にきちゃうみたいな。
いやいや、そんなまさか。
だって私まだ二十代だし。
検査とかで引っ掛かることも人生で一度もない。
まさに健康体そのものよ。
だから、そんなまさか……。
死んだとかじゃない……よね?
そう悶々と思考を巡らせていた矢先、私のテーブルの上に、紅茶らしきものが置かれた。
「どうぞ、店主からのサービスです!」
と、明るく若い女性の声。
どうやらこの店の店員さんらしい。
とても可愛らしい人ね。
「え、そんな申し訳ないですよ」
「いえいえ、これはうちの店主からのささやかなお礼でもあるんですよ」
「お礼?」
「はい! お客様がすごく美味しそうに食べてくれたおかげで、それが他のお客様にも良い宣伝になったって。おかげで今日はすごく繁盛したー、って。さっきは凄く喜んでいたんですよ。なのでこれはその感謝の印です」
どうやら私は、無自覚に食リポしてたみたい。
その食リポ効果のおけげでお店が繁盛したということでしょう。
「あはは、そうだったんですね。それは良かったです。じゃあお言葉に甘えて」
「それとこれは、ここだけの秘密ですが、今日の分のお代は結構ですとの店主からの伝言です」
店員さんが小さくそう呟いた。
「アハハ……。なにからなにまですみません」
もしかして、私がお金を持っていないことを見透かされていたのかもしれないわね。
「それではごゆるりとお過ごしくださいね」
店員さんはそう言い終わると仕事に戻っていった。
私は早速いただいた紅茶を飲んでみた。
「ん、美味しい! さっき食べたもので口の中が脂っぽくなっていたけど、これを飲んだら口の中を爽やかな香りがスーと抜けていってさっぱりするわー。それにのど越しが良くて凄く飲みやすい!」
と、また無自覚に一人でまた食リポしてしまっていた。
すると、
「あら、私にも一つ頂こうかしら」とか、
「あ、アタシにも一つ!」と、
お客さんたちがまた一様に、私と同じものを注文し始めた。
そんな……。
私の食リポもとい、独り言にこんな効果があるなんてね。
紅茶を飲みながら店内を見回してみる。
あ、あのおじいさん、さっき私が食べたものと同じパスタを食べてるわ。
おじいさんが「おおーこりゃ確かに絶品じゃ!」だって。
あのご婦人も「まあ、本当に美味しいわ!」って言ってる。
うんうん、そうでしょそうでしょ。
なんてたってここのお店のパスタは超絶品なんだから!
なんて、常連のお客のようなことを思う。
さてさて、お腹も膨れたことだし、ちょっと眠くなってきたわね。
いつぶりかな。
こんなゆったりのんびりと過ごすのは。
ああ、もうだめ限界……。
「ごゆっくり」っていってたし、お言葉に甘えてここでちょっと寝させて貰いましょう。
首がこくりこくりと動く。
おやすみ……なさい。
――――
あれ……ここは?
……いつもの見慣れたオフィス。
「あれ、やっぱり夢だったのかな? ……ってヤバっ!? もうこんな時間!」
もうとっくに出社時間は過ぎている。
のだけど……。
「あ、そうか今日は土曜日だったわ」
普通にお休みの日である。
なら一旦、今日のところはもう家に帰りましょう。
シャワーにも浴びたいし。
たっぷり休むぞー。
でも、結局あれは一体なんだったのかしら?
家路へと向かう最中、モヤモヤとした気分のまま、考えを巡らせたのでした……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます