プロローグ
「ということは……つまり」
博士の言葉を聞いたシャノンはリゼルカを見て言う。
「僕と契りを交わせば、リゼルカの失われた魔力は戻る……?」
「有体に言えば、そういうことです。まぁ、人道的にだいぶ問題があるのと、女性好きのシャノン様が悪用するのではないかと……黙っておりましたが……」
「人聞きわっる……」
「ですが、リゼルカ様がそこまでおっしゃるならば……この男なら喜んで協力してくれるかと」
「だから人聞き悪いっての……」
「で、ですが……そんな馬鹿なことが本当に?」
にわかには信じ難く、リゼルカは訝しむ。
「リゼルカ様、シャノン様の手を握ってみてください」
「え? 手ですか?」
「握手です。お嫌ですか?」
黙って硬直しているリゼルカを前に、シャノンが溜息をひとつ吐く。
「この人潔癖だし、無理なんじゃない?」
しらっとした顔で言うシャノンをきっと睨みつけ、目の前に行って手をぎゅっと握る。
シャノンは小さく目を見開いてリゼルカを見たが、すぐに博士を向いて言う。
「で? これで何がわかんの?」
その質問に答えたのは博士ではなく、リゼルカだった。
「……わかります」
「えっ?」
シャノンの手を取った瞬間、体の奥深くに不思議な感覚があった。
火種のようにほんの小さなそれは、お腹の奥のほうでちりちりと遠く燻っている。
遠く、小さすぎて掴めないそれはもどかしくも懐かしい。今のリゼルカが焦がれてやまない、自らの魔力の気配だった。もう永久に戻らないかもしれないと思っていたその気配は、リゼルカの心を高揚させた。しかし、同時に重たい気持ちにも気づく。
あっけにとられた顔をしているシャノンの手をぱっと振りほどいて言う。
「博士の言っていることは……本当だと思います」
彼と契りを交わせば、失われた魔力は戻るだろう。
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