第6話

 今日は彼女を私の家に招いています。彼女が『お願い!紗奈たんの好きなお菓子買ってくから!』と懇願されたので仕方なくです。

 といってもなにもやることはないし、私と彼女はゲームの趣味も漫画の趣味も違うので本当になにもすることがないんですよね。当の彼女は私のアウェイ感を他所にずーっと喋り続けています。


「あの、もう6時ですし帰ったほうが良いのではないですか?」

「えーっ!やだやだ帰りたくないー!」


 彼女は駄々っ子かなにかですかね。必死に私の普段使っている枕に顔をスリスリと擦っています。


「はぁはぁ…これが紗奈たんが普段使っている枕……」

「ちょっと!それはあまりにも変態的ですよ!」


 彼女を剥がし終える頃には私の体力はほとんどなくなっていました。息を切らす私に対して彼女は何事もなかったかのように不貞腐れています。


「最近の紗奈ちゃんさー、ちょっと冷たくない?最初のオドオドしてた初々しい紗奈ちゃんはどこにいっちゃったのかなぁ?」

「はぁ…それはあなたが破廉恥なことばかりしてくるからですよ?それに私にならどんなことされても嬉しいくらいに私のことを好きなんですよね?」

「うっ……それは、そうだけどぉ…」


 私に完全に言い負かされて勢いの良かった喋りもすっかり収まりました。小さくなった彼女に呆れつつもこのままじゃ埒が明かないので仕方なく、本当に仕方なくハグをします。


「さ、紗奈たん…!愛してる!」

「わわっ!」


 興奮した彼女に抱き返されるとともに押し倒されてしまいました。強く抱きしめられ、スリスリと頬ずりしてきます。昔いとこが飼ってたゴールデンレトリバーを思い出しますね。


「んぅ…ちょっと、苦しいんですけど…」

「はぁはぁ…紗奈ちゃん…紗奈ちゃん…」

「あ、あの?」


 しばらくは耐えていたのですが私と彼女は体格もかなり違うため少しきつくなってしました。なのでそろそろ離してもらおうと声をかけますがなんだか様子が変です。

 いつも変ではあるのですが、私の呼びかけにまったく反応を示しません。それどころかこちらを気にせず、私の薄めの胸に顔を押し当て興奮した様子で私の名前を呼んでいます。


「ちょ、ちょっと…落ち着いてくださいよ!」


 少し心苦しくはありますが彼女を思い切り押して離そうと試みます。しかし彼女は運動神経もよく体幹も強いので中々離してくれません。


「あ、あはっ!やっぱりさ、前から思ってたんだけどちゃんと覚悟決めないとなって…さ」

「?な、何言ってるのか全く分からないんですけど…」


 さっきからこの人は何を言っているのでしょう?なんだか目も血走っていて少し怖いんですが…。


「あ、あのね…紗奈ちゃん…」

「は、はい」

「私、紗奈ちゃんのことが………」


 何かを言いかけたところで言葉が詰まり、言い淀んでいる様子です。そこまできたらスッと言って欲しいんですけど…。


 チュッ



 突如私の唇に何か柔らかいものが当たりました。一瞬すぎたため何が起きたのかを理解するのに時間がかかってしまいましたが、彼女の表情を見て全てを察します。


「〜〜〜〜っ!」


 彼女の赤い顔につられて私も身体全体が熱くなっていくのを感じます。


「ご、ごめん!紗奈ちゃん!」


 そういうと彼女は私の返事を待たずに去っていきました。玄関から大きな音が聞こえ、帰ったのだと理解しました。


 ………わ、私…ファーストキスだったんですけど?!?!?!

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