第14話 監視部屋

 薄暗い部屋の中でタブレット画面を眺めている。赤ワインの入ったグラスを傾けて口に含む。大きめのパーカーを着た女は生脚なまあしをクロスして、指をスライドしている。

 そこには『理想アイドル解体新書』の文字がある。執筆者はYuta、日付は一年半前を記している。そこからは更新されていない。このPDFデータは非公開だが、全ページをスクラップブックにダウンロードしているこの女性だけが見ることができる。そう、執筆者のユウタ以外は水本絵梨香だけが閲覧えつらん可能の情報だ。

 中学時代のユウタが理想的なアイドル像をすべて書き記したファイルだ。ビジュアルは3Dソフトでアバターのように再現されて、性格や趣味などの項目、ファンに対する対応まで事細かく文書作成ソフトで記載してある。さらにストーリーもエディタによって、地下アイドルから全国アイドルにのぼり詰めるプロセスが細かく描かれている。

「ねえ、ユウタ」

 部屋の壁には隠し撮りしたユウタの写真が天井に至るまで、隅々すみずみまで張り巡らされている。

「私はあなたの理想になれているのかな」

 見上げると複数のモニターに様々なアングルの映像がリアルタイムで流れている。その一つに部屋の中で机に向かっているユウタの姿がある。

「聞いてんの? ねえ!」

 パリンと大きな音がした。グラスを床に叩き割ったのだ。跳ね返ったガラスの小さな破片が彼女の太ももに刺さり、そこから血が流れていく。涙を浮かべている。

「ごめんね、ユウタ」

 昼間の光景を彼女は思い出していた。彼に対して冷たく接したことは心残りだった。

「本当はあなたと話したかった」

 ――心を通わせたかった。

「自然な会話すらできないなんて」

 あふれた涙がこぼれていく。

「でもああするしかないでしょ、あそこは」

 今日はいつになく情緒不安定だ。

 見つめる先は画面上に羅列られつされた項目の一つ。

「ファンの対応=塩対応」の文字が浮かび上がっている。

 不意に豹変してユウタの写真をカッターで次々に切り裂いた。

「あんたが悪いのよ、あんたが!」

「砂糖対応にしてくれたらキスまでしてあげたのに!」

 太ももから引き抜いたガラス片をかざす。透過して映る画面の中の3Dモデルは水本絵梨香そっくりだ。

「全てはあなたの理想のアイドルになるため。……わかってくれるよね」

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