第20話 決着

 華耶がまとっている羽衣が私達三人を輪のようになって取り巻いている。

「行くよ!」

「「うん!」」

 華耶の合図に私達が答えると羽衣が淡く光り、私達三人は華耶を中心にお互いの手と羽衣を握りながら浮かび上がった。

 キュウビの頭より高く浮かんだが、天井まではまだかなりありそうだ。


 私は鏡を取り出して、鏡面きょうめんをキュウビに向けた。

 すると、鏡が光って暗い広間に光の線が浮かび上がり、真っ直ぐにキュウビの額を射した。


「なんだ、あれは……?」

 戦闘が始まってからは玉座を降りて広間の端に避難していた裏切り従者が言った。


 キュウビの額の光が当たった箇所は黒銀色が薄れて白っぽくなり、少しずつその範囲を広げていった。


「ん、どういうことだ?」

 そう言うライコウは闘うのをめている。

けだものが……消えていきますね」

 ツナも闘うのを止めて様子を見ている。


(よし、今だ!)

 私は鏡を前に突き出しながら、

「孤々乃、手を伸ばして!」 

 と、叫んだ。

「「孤々乃!」」

 華耶と和叶も声を合わせて孤々乃の名を呼んだ。


 少し間をおいて、白くなったキュウビの額の毛が波立つように動くと、孤々乃を吸収した時に現れた縦の裂け目が開き始めた。

 そして、開いた裂け目の間から手が、孤々乃の手が現れた。


「よし、孤々乃!もう少しだよ!」

 そう言いながら私は華耶を見た。

 華耶はうなずいて、キュウビの額へ向かって飛んだ。

 そうしているうちに、裂け目から孤々乃が顔を出し、

「みんな……!」

 と弱々しいながらも精一杯に私達を呼んだ。

「あと少し……!」

 華耶が私と握っていた手を放して伸ばしながら、ほぼ上半身まで脱出できた孤々乃に向かっていく。


「おい、キュウビ!気をつけろ!」

 裏切り従者が怒鳴りつけた。

 その声に反応したのか、キュウビは奇声を発しながら、私達を食いちぎろうとでもするかのように、私達に向かって大きく口を開いた。


「くっ……!」

 すんでのところで華耶が羽衣をコントロールして、キュウビのあぎとを逃れた。

 ホッとしたのもつかの間、今度はキュウビが私達に噛みつこうと、大きく口を開いて迫ってきた。

「あ……!」

 私は、まさかキュウビがすぐに追い打ちをかけてくるとは思っていなかった。

 華耶も同じだったようで、咄嗟とぅさの対応ができなかった。


 キュウビから逃げるように後ろ向きに飛んでいる私達の足の、すぐそこまでキュウビの口が迫っている。

(食い付かれちゃう……!)

 そう思った時、


 ガクッ!


 とキュウビの動きが止まった、というよりは、何かに止められたと言うほうが合っているかもしれない。


「どりゃあぁああーーーー!」

 下を見ると、キンちゃんがキュウビの前脚をガッチリ抑えて怒声を放っていた。

「キンちゃんに続け!」

「「「おう!」」」

 ライコウの号令にツナ、サダ、タケの三人が応えた。

「キンちゃん、僕たちが脚を押さえるから、顎を頼む!」

「おうよ!」

 そう応えるとキンちゃんは、キュウビの下顎に手をかけて、


 グイッ!


 と下に引っ張って押さえた。

 これでキュウビは四本の脚と顎を押さえられ、ほぼ身動きができない状態になった。


「桃ちゃん、今だぁーー!」

 ライコウが叫んだ。


 私はライコウにうなずきながら言った。

「華耶行こう!」

「うん!」

「華耶は孤々乃を引っ張り上げて!和叶、私達は飛び降りて攻撃するよ!」

「わかった!」

「よし、行くよぉーー!」

 華耶はそう言いながらキュウビの額に向かって降下した。


「孤々乃ぉーー手を伸ばしてーー!」

 華耶が叫びながら接近する。

「華耶……!」

 ほぼ腰まで外に出ている孤々乃が手を伸ばす。

 私と和叶は華耶の手を離し、キュウビの左右に飛び降りた。

 華耶が孤々乃に向かって手を伸ばす。


 バシッ!


 二人の手ががっしりと握り合わされた。

 私と和叶は、上昇する華耶が孤々乃をキュウビの額から救い出すのを横目に見ながら、キュウビの横に飛び降りた。

 着地してすぐに上を見ると、華耶が孤々乃を左腕でしっかりと抱きかかえて、右手でVサインをしている。


「「やったぁああーーーー!」」

 私と和叶は飛び跳ねて喜んだ。

「お見事っっ!」

 ライコウもキュウビの脚を抱き押さえながら叫び、四天王も口々に喝采を送った。


「な、な……なんてことをーーーー!」

 裏切り従者は頭をかきむしりながら悔しがった。


 私と和叶は着地したところから数歩下がって、キュウビとの間に距離を取った。


「こうなったら仕方ない、皆殺しにしてしまえ、キュウビ!」

 と、裏切り従者が半ばヤケクソとも思えるような裏返った声で言った。


『キィイイイイーーーー!』


 キュウビは甲高い鳴き声を発して、全身の毛を逆立てた。

「うわっ!」

 脚を掴んでいたライコウ達が、逆立つキュウビの毛に弾き飛ばされ、

「うわぁああああーーーー!」

 キュウビの顎を掴んでいたキンちゃんも、キュウビが首を振り回したおかげで吹き飛ばされてしまった。


 私と華耶はキュウビの正面に並んで構えた。


(ここは、私達が)

 そう思いながら和叶を見ると彼女も頷いている。

「イワナガ様、ここは私達に任せてもらえませんか?」 

「お願いします!」

 私と和叶が懇願した。

「弱まったとはいえ、まだまだ強力だぞ、ヤツは」

 イワナガ様が心配そうに言った。


「孤々乃を、私達の大切な友達を、あんなに恐ろしい目に合わせたキュウビをこの手で倒したいんです!」

 私が言うと、

「きっと倒します、私達の手で!」

 和叶も力強く言った。

「そうか、わかった……でも、危ないと思ったらすぐに退くこと、いいな?」

「「はい!」」


「たかが小娘が生意気なことを……やってしまえ、キュウビ!」

『キィイイイイーーーー!』

 既になりふり構わなくなっている裏切り従者がキュウビに命令した。

 キュウビの体から暗黒のもやが立ち込め、何本ものむちのように私と和叶に襲いかかってきた。


 さっきは恐ろしくて足がすくんでしまった暗黒の靄の攻撃だったが、

「この気持ち悪い靄のせいで、孤々乃は……!」

「あんなに怖い目に合わされたんだ……!」

 と、私と和叶は口に出して言った。

 すると、どんどん怒りが増していった。

 そして、

「「許さない!」」

 と、二人の声が合ったのを合図に、私達は襲い来る暗黒の靄をぶった斬っていった。


 速さでまさる和叶が私より先に出た。

 和叶は正面から攻撃すると見せかけて、素早く左に進路を変え、左前後の脚を斬った。

 一歩遅れて私は右に展開し右前後の脚を斬った。


『ギィイイイイーーーー!』

 キュウビが悲鳴を上げる。

「私は尻尾をやる!」

 和叶が言いながら、キュウビの後ろに回った。

「うん!」

 私は正面に回りキュウビと対峙した。


「やぁああああーーーー!」

 掛け声とともに和叶がキュウビの尻尾を斬りつけた!

『ギギィアアアアーーーー!』

 キュウビは広間の天井に向かって苦悶の叫びを上げた。

 上を向いたせいで、キュウビは胸と腹を私に曝すこととなった。


(あれは……!)

 キュウビの黒い胸の中心に鈍く光っているところが見えた。

(あれが急所……!?)

 そう思った時、既に私は飛び出していた。

 そして、鬼斬おにきり太刀たちさきを、キュウビの胸の白点に狙い定めた。


「これで決まりっ!」


 私が繰り出した鬼斬の太刀の一撃がキュウビの胸の急所を貫いた。


 カッッ!


 貫かれた急所が黒銀色の光を放った。


『キギギ………』


 キュウビの断末魔の叫びはすぐに消え、キュウビは黒銀色の粒子になって消えていった。


 私はキュウビを貫いた姿勢のまま動かずにいた。

「桃ぉおおーーーー!」

 和叶が私にを呼びながら駆け寄ってきた。

 私は妙に落ち着いた気分で太刀を下ろし鞘に収めた。

 和叶が私に抱きついた。

「やったね、桃!」

 華耶と孤々乃も空中から降りてきて私に抱きついてきた。

「桃ぉおおーーーー!」

「よかった……桃達が無事で……!」


(そうか、勝ったんだ……私達)

 放心状態だった私の意識が、だんだんとはっきりしてきた。

「勝ったんだね、私達……」

 私が皆に向かって言うと、

「「「うん、うん!」」」

 涙混じりの元気いっぱい笑顔で、華耶と孤々乃と和叶が答えてくれた。


「ううう……」

 私は両手の拳を握り、

「勝ったぞぉおおおおーーーー!」

 と腕を高く上げ、元気笑顔を涙でグチャグチャにしながら雄叫びを上げた。

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