第16話 鬼の大王
鬼ヶ島は島と呼ばれてはいるが、実際は海を渡る細い道で
突端には城のような岩山があり、その前に開けた場所がある。
私達とベンケイ、ライコウと四天王が鬼ヶ島に着くと、城のような大きな岩山の麓の洞窟の前で、数十人の鬼たちを率いた大鬼が私達を待っていた。
私達が近づくと、
「これはこれは、桃太郎御一行様、ようこそおいでくださいました」
と、大鬼の横の従者のような者が、予想外に
「なんだか変な気分だね」
「だね……」
私と華耶がボソボソといっていると、それに続いて、
「クックックッ、よく来たな桃太郎ども。
ニヤリと笑う口元には鋭い牙が二本見える。
「鬼の大王だって……!」
「やっぱ強そう……」
和叶と孤々乃が小さな声で言った。
「大丈夫、私達も特訓したんだもん!」
私は、みんなに、そして何より自分に言い聞かせるように言った。
「うん、大江山の時みたいに私の妖術で……」
孤々乃が首から下げた
「大江山の連中は、そこにいる
と言った。
「孤々乃の妖術のことを知ってるのか……!」
華耶が言った。
「ふふふ、もちろんだ。そこでこっちも対抗措置を取ることにした」
鬼の大王が言うと、彼の後ろにズラッと並んでいた鬼たちが後ろに下がった。
その代わりに後方からは女性の鬼たちが進み出てきた。
「女性の鬼もいるんだね……!」
「しかもみんな……」
「体格というか体型というか……」
「ベンケイさんに負けないくらい……」
「ボン・キュッ・ボンだよね……」
そう、前に出た女性の鬼たちは皆、ナイスバディのお姉さん鬼だったのだ、
しかも着ているのは、獣の革や毛皮で作られているビキニのようなスタイルだ。
「たしかに孤々乃の【魅了】は効かなそうだね」
「うん、でも【金縛り】なら少しは……」
と話していると、
「どうやら、ここは僕たちの出番のようだね」
と、後ろから声が聞こえてきた。
「「「「え?」」」」
私達が振り返ると、ライコウと四天王がズラッと並んでいた。
「そこにいる、百戦錬磨の経験豊富なお姉さんたちのお相手は、君たちには少し荷が重いだろう」
そう言うライコウは自信満々である。
すると、
「あらあら、ライコウさんじゃないの」
「ここんとこ、顔を見せてくれないもんだから、どうしちゃったのかと思ってたのよ」
「ほんとに、ねえ」
と、女性の鬼たちがライコウに親しげに話しかけた。
「いやぁ、面目ない、色々と立て込んでいてねぇ……」
と頭を掻きながらライコウが歩み寄ると、女性の鬼たちは彼を素通りして、
「ライコウさんはともかく、あなたが来てくれないと」
「そうよ、ツナさん」
と、ライコウの後ろに控えていたツナに歩み寄った。
「いえ、拙者は……」
四天王一のイケメンもタジタジだ。
「キンちゃんもいらっしゃい」
「久しぶりだなぁ、ははは!」
うん、キンちゃんは嬉しそう。
「サダさんも、たまにはゆっくりしていって」
「い、いや……自分は御仏に仕える身ですから……」
サダさんは、女性の鬼の視線から逃れるようにしている。
「タケさんもしかめっ面してないで、ね?」
「私はライコウ様の参謀ですから、気を抜くわけにはいきません」
タケさんは、真面目を絵に書いたような人みたいだ。
一方、素通りされてボッチになってしまったライコウは、
「いいんだいいんだ……いつものことだし」
と、お決まりのしゃがんでのの字を描き始めた。
「それじゃ、皆さん奥へどうぞ
、ライコウさんも」
女性の鬼の首領と
そして、鬼の女性たちは、ライコウと四天王を城のような岩山の口へと
「一気に人がいなくなっちゃったね……」
私がぼそっと言った。
「我が女傑軍団をこうも軽くあしらうとは、お主等、中々やるのぉ」
鬼の大王が言うと、
「いや、何もしてないし、私達……」
華耶が小さくツッコミを入れた。
「だが、これで終わりだと思うなよ」
鬼の大王が凄んで言った。
「まあ、そうだよねぇ……」
そう私は言いつつも、次に何が来るのか楽しみでもあった。
「
鬼の大王が号令を発すると、岩の城の陰から次々と小柄な鬼たちが跳び出て来た。
ざっと十名前後、少女の鬼が横一線に並んだ。
着ているのは、大江山のくのいちと同じような着物だったが、色は地味な色で統一されていた。
「ええーーかっわいいーー!」
華耶が歓声を上げた。
「だねぇ、中学生くらいな感じかなぁ?」
私もつい頬が緩んでしまう。
「「「「「いざ、勝負!」」」」」
少女の鬼たちが声を合わせて、一斉に構えた。
「どうしよう、かわいすぎる……」
孤々乃が完全に魅了されている。
「ふふふ、こういう時は和叶だよね」
私が言うと、
「え、私?」
「そう!」
と、華耶が和叶を押し出した。
「もう……」
仕方ないといった様子で和叶が構えると、
「「「「「…………!」」」」」
和叶が警戒する。
そして、
「「「「「キャァアアーーーー♡」」」」」
と、鬼の少女たちは、黄色い歓声をあげて、持っていた小太刀を放り投げ、和叶に殺到した。
「うん、成功!」
「さすが和叶!」
私と華耶は大喜びだが、
「なんだか複雑……」
と、孤々乃は不満げである。
一方、和叶は。
「もう、やだ……」
と言いながら、自分よりも二つか三つ年下の少女たちに揉みくちゃにされている。
「ふむ、娘部隊も失敗に終わったか」
鬼の大王が渋い顔で言った。
(てか、成功すると思ってたの……?)
私は心の中でツッコミをいれた。
「どうなさいますか、大王様」
鬼の大王の脇に控えている従者が言った。
「ふむ……では、仕方あるまい」
そう言いながら鬼の大王は前に出て大きな刀を抜いて言った。
「やはり、ここは大将戦で決めるしかなかろうのぉ、桃太郎」
そう言う、鬼の大王の顔は悪役顔ではあるが、何か楽しそうでもあった。
「そうみたいだね」
私も
しかし、心の中は、
(ちょっと、これヤバくない?ヤバイよね?どうしようーーーー(泣))
という非常事態であった。
(ええい、ままよっ!)
そう、心に気合を入れて私は鬼の大王に向かって大刀を振るった。
ガキィイイーーーーン!
鋭い金属音が響き、火花が舞い散った。
「ほお、中々の
鬼の大王が、感心したように言った。
「ふっ……」
私は、なんとか笑いを返したが心臓はバクバクだった。
大江山では、ベンケイとも太刀を使った訓練もした。
「お前たちは、このお伽界に来た段階で、既に鬼を倒すだけの十分な身体能力を備えている」
ベンケイが説明してくれた。
「だが、力があるとは言っても、実際の闘いで強い衝撃を体に受けると、驚いて心に隙ができてしまう。だから衝撃に慣れておく必要があるんだ」
「はい、わかりました!」
実際にベンケイの剣戟を最初に太刀で受けた時には、痛みや
そして今、鬼の大王と剣戟を交わして、その剣戟の強さに心臓がドキドキしている。
(落ち着け、私……!大丈夫、きっと勝てる……!)
そう、自分の心を奮い立たせながら太刀を振るった。
そうして剣戟を交わすうちに、自分でも不思議なくらいにリズムよく太刀が振るえるようになってきた。
(いけるかも……)
そう思った時、絶好のチャンスと思えるような隙が鬼の大王に生じた。
(今だ……!)
キィイイーーーーン!
私の手に、まるで芯を食ったような手応えがあった。
私が太刀を振り抜くと、鬼の大王の太刀が真っ二つになるのが見えた。
鬼の大王は折れて短くなった太刀を見ながら、
「見事なものだのぉ」
と穏やかな顔で言った。
「で、どうするの?」
未だ、私の心臓はバクバク言っていたが、あらん限りの強がりを捻出してそう私が言うと、
「ふむ、太刀がこうなってはしまっては……これはもう降参……」
鬼の大王がそこまで言った時、
ザンッッ!
「え……?」
私は一番近くでそれを見ていた。
だがその瞬間、私は自分の眼の前で起こったことを理解できずに、呆然と立ち尽くしてしまった。
「貴様っ……!」
一瞬の後、ベンケイが唸るように言いながら、私を庇うように立ちふさがってくれた。
そして、私の数歩前の地面には、つい今しがたまで太刀を交わしていた鬼の大王の首が転がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます