第73話 魔剣ズィーガー
「侯爵様! それは?」
「分からない……が、誰の物か分からないし、いつからあったのかも分からない。村では使う用途にも困るし、これを持って運べる人間もいないので、ここに置きっ放しにしていたそうだ」
と侯爵が言った。
その大きな剣を私は見た事がある。
侯爵が大事にしていた剣、それも魔剣。危険指定魔獣αである一角ドラゴンの角を加工して生成した剣でこの世に二つとはない。侯爵自身は魔力を持っていないが魔剣の使用は可能で、この世に切れない物はないという魔剣「ズィーガー」
背中に背負うほどの大剣で刃は盾に出来るほどの太さだ。
元は真っ黒い光で禍々しいほどだったけど、今はなんか埃を被ってたせいか、錆びも浮いちゃってるし。
「これでなんとかあのアイスベアーと戦えないか」
え、ええ、そりゃもう、戦えますよ。
この世に切れない物はないっておっしゃってましたものね。
その魔剣とあなたの剣技で死神将軍の名を欲しいままにしていたのですから。
「魔剣ズィーガーやん。それにリリちゃんの炎爆を乗せたら切れ味抜群や」
とおっさんが顔だけ出して言った。
「どうすればいい?」
侯爵が私を見た。
私はおっさんを見た。
「やから、その剣でアイスベアーに斬りかかる寸前、りりちゃんが炎爆を魔剣に通したったらええねん。侯爵、アイスベアーの前で飛び上がりな。ワシがアイスベアーの上まで運んでやるさかいにな」
とおっさんが言った。
「分かった、二人とも頼むぞ!」
といい侯爵は剣をしっかり握り直して、アイスベアーの方へ向かった。
「え、魔剣に炎爆を当てたらいいの?」
「そうや、炎爆は魔剣の栄養になり、その威力を増大させるからな。きっちり魔剣にあてなあかんで、侯爵にあてたら黒焦げやで」
「う、うん」
と言った時には侯爵はアイスベアーの方へ走って行ってしまった。
「え、ちょっと気ぃ早っ」
私は慌てて炎爆を唱える。
アイスベアーは刃向かってきた侯爵にいらついたのか、両腕を振り回し近くの樹木を引っこ抜いて侯爵の方へ投げ捨てた。
「ガイラス様! 危ない!」
スパッ! と大木が真っ二つに切り裂かれ、その先を行く侯爵の速度は落ちない。
アイスベアーの目の前まで行き着いた侯爵は勢いよく飛び上がり、その侯爵の動きに合わせて、おっさんが何か叫んだ。
すると、侯爵の身体がふわっと浮いて何かの力にひっぱり上げられ、軽くアイスベアーの頭上まで飛び上がった。
「今や、りりちゃん!」
おっさんの声に私は狙いを定めて侯爵の魔剣に向かって炎爆を発動した。
炎爆は勢いよく発射され、侯爵の魔剣までするすると炎を発しながら伸びていき、その黒い刃に巻き付いた。黒い胴体が炎で熱せられて、赤黒くなった。
「今やで、侯爵!」
とおっさんが叫び、侯爵は魔剣を振り上げて、アイスベアーの頭上にその剣を叩き落とした。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!」
という咆吼がして、私はアイスベアーが頭から真っ二つに切り裂かれるのを見た。
この巨体がそれぞれに地面に倒れる! と思ったが、侯爵自身の身体が地面に着地するまでに魔剣が何度か動き、アイスベアーの巨体はいくつかの個別になってずどんずどんと地面に落ちた。
「さすが、死神将軍や! やったな」
とおっさんが言い、私はほっと息をついた。
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