第23話 言い訳
部屋に戻っても暖かい茶を入れてくれるサラはおらず、おっさんたちが魔法玉ー魔法玉ーと騒ぐのを睨みつけていると、やがてドアがノックされた。
「お入りなさい」
おずおずと顔を出したのは家令のレイモンドとクラリスだ。
「全て聞かせてもらいましょうか。あのノイルというガイラス様の弟が次期侯爵を名乗っているようだけど、どういう事なの? レイモンド、あなた侯爵家の家令なんでしょう。弟に表を入れるって事は裏切り者としてガイラス様からその首をはねられても構わないという覚悟なのね?」
「め、めっそうも……ごにょごにょ……」
レイモンドは青くなり、小声でもぞもぞと言った。
「確かにドラゴン討伐は危険な任務でしょうけど、主人の身体を心配するでもなく、次の侯爵に肩入れするのは裏切り以外にないわ。どういうつもりなの? とりあえず弁明は聞いてあげる。クラリス、あなたもよ。誰が侯爵を継ぐのかは置いておいても、私でなくサンドラをこの屋敷の女主人として認めるのならあなたは辞めてもらって結構。次の奉公先に紹介状は書いてあげられないけど、悪く思わないでね」
「奥様……」
クラリスは真っ青になっている。
侯爵家を追い出され、紹介状も書いて貰えないメイドなど今後、まともな身分の屋敷では到底雇ってもらえないのが現実だ。
「あなた達が何を画策していたのか知らないけど、私はガイラス様の正妻であり、ガイラス様はウエールズ領の統治者として国王に認められているの。ですから、もし万が一、今回ガイラス様がドラゴン討伐でそのお命を落とされたとしても、私は未亡人となってこのウエールズ領地を統治する立場なの。お分かり? サンドラとノイルに出番はないの」
未亡人になって領地の管理……というのはまっぴらご免だけど、夫に何かあれば私が侯爵未亡人となるのは違いない。うんうん、莫大な資産を相続して。うんうん、それもいいかも。
いやいや、私には冒険者になるという未来が。
クラリスは涙を浮かべているし、レイモンドも汗をたらたらとかいている。
「奥様……申し訳ありません……私どもは決してガイラス様に反旗をというつもりはないのです。ただ……家令である私さえガイラス様にはほぼお会いした事がなく、今までノイル様がずっとこちらでお暮らしになり……お亡くなりになった先代様、アモン様もノイル様を頼りになさっておりましたし、ガイラス様は王都で騎士団長という仕事がお忙しく、領地管理などの仕事は興味がないとお聞きしておりましたので、私どもは……次の侯爵様はノイル様だと思っておりました。……サンドラ様とも仲睦まじく……侯爵家を継ぐにあたってお二人が結婚をなさると……」
「あなた方の言い分はそういうわけなのね。そうね、ガイラス様は騎士団で任務についていたから、王都でお暮らしになっていたでしょう。それで? 前侯爵様がお元気な時にはこちらにはあまり顔を出さなかったの?」
私がため息をつくと、レイモンドは汗を拭きつつうなずいた。
「さようです。十の時に王都へお出になり剣術を学び、騎士団にお入りになったと聞いております。たまの休暇でこちらにお戻りになりましたが……その……いつも兜を被られておりまして、ここにはガイラス様のお顔を知る者はあまりいないのです」
「なるほど。確かに、他国にまで死神将軍と恐れられたガイラス様ですもの。領地管理の仕事など興味ないかもしれないわね。それにオークみたいに醜いお顔だと評判ですものね。そんな人が戻ってきて侯爵となるのは使用人にとっては迷惑な事でしょうね」
「い、いいえ、その……ですから……」
「それに悪魔の様なオーク面の夫でも結婚してもいいという女がいるなら完全に金目当てと判断したのね? まあうちの両親にとっては金蔓でしょうね。でもガイラス様はノイルと会って侯爵家の今度についてお話しはされなかったの? 先代が亡くなった時に会う機会もあったでしょう? お互いに勝手にするのはいつもの事なの? 兄弟の前くらいでは兜を取って話をしないの? お兄さんの死を嘆くつもりもないのだから、仲はあまりよくなかったの?」
「それは……その、私の口からは……」
「ふーん、で、その目障りな侯爵が迎えた花嫁が噂の伯爵家の役立たず、魔術師の家系でありながら魔力の発動がなく、じめじめしくしく泣いてばかりの女。そんな女、来たら皆でいじめて追い出そうって事? どうせ泣くだけしか出来ない無能な女、何をしても怖くないってっ? そうでしょ? クラリス」
「ひっ」
とクラリスが言った。
「この屋敷の中では、ガイラス様もよそ者なのね。ガイラス様がドラゴン討伐に行くまでは大人しく私を屋敷に迎える振りをして、いざ、討伐に旅立ったら、さっさと主寝室へ乗り込んで、もう死んでいるはずですって? ノイルもサンドラも末恐ろしい方々ね」
「も、申し訳……」
「謝らないでいいわ。許さないから」
クラリスはまた「ひっ」と叫んだ。
その時、誰かが廊下をドタバタと走る足音がして、
ドアのノックと共に若い執事の一人が顔を覗かせた。
「し、失礼します! 奥様、レイモンドさん! 大変です。侯爵家の馬車が……盗賊に襲われ、森の入り口で発見されたと知らせが!」
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