第16話 ドラゴンて
おっさんはうんしょうんしょと緑色の物を引っ張って部屋の中に姿を現したが、それは鱗のついた長い尾の部分で、全体が部屋の中に運び込まれると、それは小さなドラゴンだった。
「ドラゴンて」
その小さな緑色のドラゴンは前世では本や映画でお馴染みの姿だった。
長い尖った尾に胴体と手足、そして背中の部分にはコウモリのような羽がある。
「おっさん、そのドラゴンどうしたの?」
「うーん」
と言っておっさんが三人、しばらくはお前がお前が、どうぞどうぞ、みたいな事をやってたんだけど、やがて一人が口を開いた。
「このアイスドラゴン、親が病気でこの子の面倒みられへんのやて、赤ちゃんやから餌も自分でよう取れんから、あんたからもろた魔法玉分けててんやけどな、ちょっと弱ってきてん」
あんたって。
侯爵夫人の私に向かってあんたって。
おっさんがドラゴンをソファに寝かせたので、私はその身体に触れてみた。
私の感覚では小型犬くらいの大きさだと思う。
「つ、冷たい! 冷え切ってるじゃないの! 暖めないと!」
「あ、ちゃうねん。アイスドラゴンやから普段から冷たいねん」
「そうなの? 餌を取れないから空腹で弱ってるって事?」
「そうや」
「ドラゴンて何食べるの?」
「わしらみたいな妖精とは違うからな。魔法玉ではあんまし腹の足しにならん。肉食やからな、肉とか肉とか肉やな」
「そう、サラ」
「は、はい!」
ドラゴンが入って来た瞬間からサラは部屋の隅に飛んで行き、こわごわこちらを眺めている。
「厨房で何か貰ってきて貰えない? 肉とか肉とか肉とか」
「は、はい……」
「ドラゴンの事は内緒ね」
「はい!」
サラが部屋から出て行き、私は朝食に出されたパンケーキをドラゴンの口に入れてみた。
ドラゴンは口を開いてベロが出ていて、くたぁって感じで横たわっていたのだが、パンケーキの味を感じるとぱっと目を開き、ごっくんと飲んだ。
「丸呑みしたら喉につまるわよ」
ドラゴンは私を見て、そして首を傾げるような仕草をした。
「肉じゃなくても食べるんだ。紅茶も飲む?」
カップのお茶を差し出すと、ドラゴンはそれを長く分厚いベロでぺちゃぺちゃと舐めた。
「あー、良かったな。元気出たか?」
おっさんが三人、嬉しそうにドラゴンに話しかけて、ドラゴンはそれに対して「キュー」と鳴いた。
「ドラゴンとどこで知り合ったの?」
「最初は白爺が連れてきてん。ちょっとおやつを分けて欲しい言うてな」
「白爺の知り合いなの」
そこへ白爺が姿を現して、ぺこぺこと頭を下げた。
他にも少年や少女も一緒に来ていて、ドラゴンの側に寄り添った。
「申し訳ない……力を貸していただけないだろうか」
「え? ひもじいドラゴンに食べ物くらいはあげられるけど、育てるのは無理よ」
「いえ……親ドラゴンが治れば」
「あ、病気って、え? ドラゴンの病気なんか治せないでしょ。確かに治癒魔法もあるけど、普通、病気は無理でしょ?」
「いえ、親ドラゴンの病気は死霊王の刀傷、聖なる力しか治癒の方法はないのです」
「死霊王?」
「はい……貴方様の持つ聖なる力、神聖魔法しか」
「そんなん使えたっけ? ブック!」
私の手に一冊の本が現れる。。
この本の中には私の全てが書かれてあるのだ。
「ま……マ行。魔法一覧……あ、ほんとだ聖魔法ってあるわ。これで死霊王とやらの傷が治るの?」
「はい、死霊王の刀傷は呪い、穢れ、どんな薬草も回復薬も効きはしません」
「ふーん、一度も使ったことないから、使えるどうか……」
それにドラゴンだよ?
普通、討伐される側だよ?
治していいのかしら。
異世界には仲間になる人語も解すドラゴンもいるって設定もあるっちゃあるけど。
「うーん」
と考えていると、サラがバタバタと戻ってきて、
「リリアン様! 侯爵様がお戻りになられたようです!」
と言った。
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