第7話メンタル強男は時が止まる
「あれ海ちゃん、朝に続いて奇遇だね。」
声をかけてきたのは海ちゃんだった。
普段ならこんなところで出くわすようなことはないのだが、今日は俺が少し早くあがったせいか、ちょうど中学生の部活帰りくらいの時間だったようだ。
海ちゃんは小走りにとことこ近づいてきて、横に来ると笑みを浮かべた。
「うん!ちぃにいも、今日はいつもより早いんじゃない?最近はもっと遅い時間に帰ってきてたのに。」
「あぁ、今日は色々疲れてね。昨日も試合だったし少し疲れが残ってる感じだったから、ちょっと早く上がってきたんだ。」
「そうなんだ、部活お疲れ様!最近のちぃにい、ちょっと無理してる感じがあったから心配だったんだよ!」
「それ、みんなに言われるわ。あんまり自覚はなかったんだけど、結構追い詰められてたのかな?」
空、母さん、部活の後輩、そして海ちゃんにまで言われるとなると相当だったのだろう。
「最近のちぃにいの、部活の結果がよくないことは聞いてるけど…無茶して怪我なんてしたら、私だって悲しいよ!」
「うん、ごめん。反省する。可愛い妹に心配ばっかかけてられないからね!」
「か…かわいい…。」
海ちゃんの顔が真っ赤になっていく。ほら可愛い。
「海ちゃんはテニス部だったよね?調子はどうなの?」
恥ずかしがってうつむいてる海ちゃんに、俺から話題をふってみる。
「最近は調子いいんだー!ダブルスのペアの子とも、息がバッチリ!これなら最後の大会も、県大会くらいまではいけそうだよ!」
ペアと息がバッチリか、それは羨ましいな。方や俺のペアなんて、喧嘩売ってくるだけだぞ。粉砕したが。
先程の出来事を思い出すと、少し笑いがでてしまうな。
「あーちぃにい、信じてないでしょ!たしかに私は、お姉ちゃんと一緒で運動音痴だけど!でも2年間頑張ってきて、少しはマシになってるんだからね!」
俺の笑いをからかいの笑いと勘違いした海ちゃんが、今度はむっとした表情になる。
「あぁごめんごめん、今の笑いは思い出し笑いだよ。うん、海ちゃんは努力家だからね。ずっと頑張ってきてたのも知ってるし、信じてるよ!」
「ほんとお?じゃあ最後の大会、ちぃにいが暇だったら応援来てね!そしたら私、いつもの3倍は力出せそうだから!」
「うん、絶対応援行くよ。暇じゃなくても、無理やり空けて行くから!大会重なったら即効で試合終わらせてそっち行くからね!」
「そこまでしなくていいよぉ!暇だったら!暇だったらでいいからね!」
また笑顔に戻った海ちゃん、うん。やっぱり笑顔が一番似合うな。
すると海ちゃんが少し寒そうに体を震わせた。
「もう春とはいえ、この時間は結構寒いね。特に部活の後だと、汗が冷えてくるし。家に帰ったらまずシャワー浴びたほうが良いかもね。」
そういうと海ちゃんはハッとした表情をし、俺からすすすっと離れていった。
「…どうしたの海ちゃん?なんか怒った?」
「…そうだった…。部活で汗かいたんだった…。たぶん今汗臭いから、ちょっと離れて…。」
…妹も、いつの間にか乙女になっていたんだな。そうだよな、中3だもんな。もう恋とかもしてるのかも知れない。そんなことを思いながら俺は、鼻をすんすん鳴らした。
「いや、別に臭くないぞ?なんならちょっと甘い、いい匂いがするよ。」
「バカァ!!ちぃにいはデリカシーがないよ!!」
いかん、また怒らせてしまった。乙女心は難しい。
「ごめんごめん、悪気はないんだ。本当にいい匂いがするってだけなんだ!なんなら俺も部活帰りだから俺のほうが汗臭いし!」
「ふーん…どれどれ…」
そう言うと海ちゃんが俺の周りを嗅ぎ始めた。うん、たしかにこれは恥ずかしい。反省しよう。
「うーん…あんまりよくわからないね、もう少し近づいて良い?」
俺の返答を待つまでもなく、お腹のほうに近づいてきた。
「すんすん…すんすん…」
そしてそのまま、お腹に顔を埋めてきた。
すんすん…すんすん…すんすん…すんすん…
いや長くない!?流石に往来の場で、中学生にお腹に顔を埋められてる絵面は危険すぎるのでやめさせなきゃ!
「ちょいストップ!海ちゃん1回離れよ?」
そう言って肩を掴み、無理やり剥がした。
「すん…はっ!意識飛びかけてた!ごめんねちぃにい。つい…」
蕩けた表情からいつもの顔に戻った。
「うん!あんまり汗臭くなかったよ!部活終わった後、ちゃんと体ふいたでしょ?もう少し匂いがきつくても私はイケるよ!」
…うん、やっぱり姉妹だわ。空もたまに匂いかいできてはトリップしてたもん。
「イケるってなんだよ!わざわざ嗅がなくていいからね!?」
「えー、ちぃにいのケチ!偶にでいいから!ねっ?」
「可愛くおねだりしても駄目です。そんな子に育てた覚えはないぞ!」
「私もちぃにいに育てられた覚えはないもんっ!」
まぁちょっと変な性癖に育ってしまっているっぽいが、素直でいい子だ。きっと学校でもモテているんじゃないだろうか。
「将来彼氏でもできた時に匂いフェチなんてバレたら嫌われちゃうかも知れないぞ。」
「…ちぃにいは匂いフェチな女の子、嫌い?」
ちょっと俯き気味に質問してくる。
「いや、俺はまぁ…別に気にならないな。なんならちょっと嬉しいかも?」
「ほんと!?ちぃにいは、女の子にくんくんされて喜ぶ変態さんなの!?」
「いや俺が変態ではないだろ!どっちかっていうと匂い嗅いで喜ぶ女の子のほうが変態だろ!」
「ちぃにいはわかってないなぁ。結構匂いフェチの女の子、多いと思うよ?好きな人の匂いなんて、ずっと嗅いでたいものだよ!」
…本当かぁ?なんかこの姉妹に騙されてる気がする。女の子の知り合いなんて、この姉妹しかいたことがないから。このままだと俺の観念は涼木家に染められてしまうのかも知れない。
「まぁたしかに、空もよく匂い嗅いでたからなぁ…。参考が空だと、涼木家の特殊性癖の可能性も捨てきれないが…」
「…そうなんだ…お姉ちゃんも…。」
また元気がなくなってしまったが、ぐっとこらえるように笑顔に戻した。
「そういえば、帰りもお姉ちゃん一緒じゃないの?行きも帰りも一緒じゃないなんて、本当になにかあったの?」
海ちゃんの言葉に、苦笑いがでてしまう。
これから毎日別々で行くとなると、流石に家族には違和感を持たれてしまうだろう。
高校を卒業をすれば、自然と離れられると思うが。いくらなんでもそこまで隠し通せるものではないと思う。
こうなったら、海ちゃんには素直に伝えるべきか。それで、海ちゃんの協力を得られれば、おじさんおばさんに伝わってしまう可能性も減る気がする。
しかし、海ちゃんにとって俺は兄、空は姉、兄と姉の仲が悪くなったと聞いて、冷静でいてくれるだろうか。
もしかしたら、俺たちの仲を修復しようと躍起になってしまうかも知れない。正直、今回の出来事は結構きつかったので、空とまた恋人に。というのは流石にない。
でもまだ空から何も話を聞けていないというのもある。もしなにか理由があったとして、それを聞いて許せるようだったら、恋人は無理にしても幼馴染の仲に戻ることはあると思っている。
それを考えると、わざわざおじさんおばさんを悲しませるような情報を与えなくても良い気がする。別れた、でも仲違いはしてない、これからもずっと幼馴染である。そうなれば、多少は悲しんでしまうと思うがすぐに気持ちを切り替えられるだろう。
昔の幼馴染同士に戻るだけ、それならお互いの親同士も、気まずくなることもない。
「ちぃにい?どうしたの?」
俺が深く考え込んでしまったせいで、海ちゃんに心配されてしまった。
うん、海ちゃんはいつも俺たちを応援してくれていた。そんな海ちゃんを騙し、嘘をつき続けるのもやはり良くないと思う。
だから俺は意を決して、海ちゃんには正直に伝えることにした。
「あのさぁ海ちゃん、話があるんだ。」
「うん、どうしたの?」
「驚かないで聞いてほしんだけど…実は、俺と空は、別れたん
「好きっ!!!ちぃにい大好き!!!!私と恋人になって!!!!!」
「…え?」
俺のセリフを遮って叫ばれた言葉を聞いて、時が止まった。
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ざまぁって元々面白いから普通に書けば、面白くなると思うんですよ。
で、日常パートってもろ実力がでると思うんですよ。
これ以降面白く出来なかったらごめーーーーーん!
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