瓦礫の山

 瓦礫の中から細い腕が突き出てきた。他の瓦礫を掴みながら、ゆっくりとその姿を表す。

 隠であった。


「生きた心地、しなかったわ」


 人形の瓦礫の山まで戻って、朧に天井ごと破壊してもらったのだ。あとは建物に残った妖力と人形の残骸を使って、隠の体を保護してもらった。

 おかげで瓦礫に潰されずに生きていられた。

 外に出ると、村人たちが建物の残骸に集まってきていた。驚いた表情で、隠を見ている。


「あんた、旅人の」

「これはどうなっとるんじゃ」


 村人が口々に隠に尋ねる。

 隠は息を吸って、静かに告げた。


「ここに巣食う妖を討伐いたしました。残念ながら行方知れずの人たちを助けられませんでしたが、もう安心です」

「妖のせいでおらたちはこんな目にあったってえのか」

「そうです」


 瓦礫から飛び降りる。村人の合間を通り過ぎていった。


「待ってくれ、どこに行くんだ」


 男に呼び止められて振り返る。


「旅人ですので、どこへなりとも」


 頭を深く下げる。


「お世話になりました。失礼いたします」


 村人たちに背を向けて歩きだす。


 無論、その先に当てはない。

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