『笛吹けど踊らず』
======== この物語はあくまでもフィクションです =======
============== 主な登場人物 ================
中津敬一警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。
中津健二・・・中津興信所所長。中津警部の弟。
中津(西園寺)公子・・・中津健二の妻。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。元は所員の1人だった為、調査に参加することもある。
高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。
泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。
泊(根津)あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。同僚の泊と結婚した。
中津(本庄)尚子・・・弁護士。主に中津興信所、南部興信所関係の仕事を依頼している。事実婚だった、中津警部と結婚。通称で仕事をしている。
大文字学(高遠学)・・・小説家。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
午前9時。中津興信所。所長室兼会議室。
マルチディスプレイには、中津警部が映っている。
「昨日、緊急逮捕された男だがね。まだ、公表はされていないがビールスを注射針で刺して、自首したんだ。というか、警察呼んでくれと言った。」
中津警部は、徐ろに話し始めた。
「犯行の動機は怨恨。つまり、復讐だな。事件が起ったのは、下高井戸にあるテナントビルの2階。2階のテナントは、Web小説サイトの『ハーモニー』。Web小説サイトというのは、原稿用紙なんかじゃなく電子ファイルで小説等を書くサイトで、ハーモニーは小説専門だそうだ。Web小説サイトの利点は原稿用紙と違って何度でも簡単に修正した原稿を投稿出来ることだ。PCからもスマホからも、読み書きの為に利用出来る。若者はスマホが多いらしい。で、利用者の1人が乗り込んで来た。犯人は轟縁(とどろきえん)こと勝田貞次。怨恨と言ったが、本人は『名誉毀損』位の怒りだ。いきなり修正の手を入れた、と警告、いや、宣言メッセージが届いた。轟はすぐに返信しようとしたが、エラーが出て返信出来ない。『執筆報告』という、作者からの短い『後書き』文章を書き込む欄があって、それに愚痴ったら、利用者の1人が『運行情報』とかいうサブメニューの中にメールの送り先がある、と教えられた。轟は10のサイトに毎日投稿する小説家、いや、本人の弁によると、「ものかき」だったが、他のサイトでは、質問フォームがあって、それでやりとりする場合があるらしい。轟は、てっきり同じだと思い込んでいた。」
「サブメニュー?不親切ですね。まるで、『クーリングオフ』を避ける為の注意書きみたいだ。」と、泊が言った。
「そこで、初めてサイト側に確認出来た。疑問に思っていた『営業妨害』とは何か?と。すると、『木で鼻を括った返答』が来た。尚子も言っているが、犯罪の多くの起点は『些細な事』なんだ。『営業妨害とは書いていない。検査妨害行為と書いた』という文章に、怒りが増幅した。メッセージには、確かに『営業妨害』と書いていた。そこで、轟はネットで団体名を調べてみた。作中に登場する団体名に『似た』団体名があった。轟は、団体名を調べる前に、サイトの評判を『検索』したら、作中に登場する名前が現実の名前と同じだから、と制裁を受けた利用者の実例が出てきた。」
「それで、団体名がまずいのか、と思ったんだね、兄貴。」と、所長の中津健二は言った。
「何しろ、『営業妨害』なんて書かれていたから、その実名の会社がクレームを入れたのか、とも思ったらしい。そこで、この回答だ。轟は全ての作品の冒頭に『この物語はあくまでもフィクションです』と書いている。京都のアニメ会社のように、利用者が乗り込んで来るとは、想定していなかったんだろう。轟が推理したように、詭弁だったことが、社長の証言で判明した。このサイトの会社は、数名の社員と大勢のバイト君で『違反行為』をチェックしているらしい。それが、セキュリティーだとも、ほざき、いや、言っていた。バイト君は、団体名でネット検索したが、完全一致では無かった。そこで、メッセージを送った後で、そっと元の文章に戻した。」
警部の説明に待ちきれず、公子が言った。「お義兄さん。本題は?」
「失礼。何しろ、入り組んだ事情だ。ビールスは『MO3.0』。先日、EITO大阪支部が保護した宮田先生が解明、次に用意されていた人工ビールスだ。注射された副社長は、すぐに病院に搬送、治療中だ。東京の病院に移送された宮田先生に確認したところ、我々は既に『俯瞰株』のいずれかの変異株で免疫が出来ている。マスコミが騒ぐ予定だったビールスだが、毒性はあっても、回復は望める。3日間『経過観察』すればいい、ということで、副社長は死に向かっている訳ではない。そこで、君たちの使命だが、会社に出させた資料を基に、轟の『情状酌量』材料を利用者達から聞き出して来て欲しい。」
「なあんだ。」「こら、なあんだ、はないだろ。」と、高崎は根津を叱った。
中津警部の横から、本庄弁護士が顔を出した。
「本物の小説家の高遠さんに頼んで、アカウント作って利用者から、ある程度聞き出した。だから、聞き込みの対象の利用者は数名。出来るわよね、ベテラン探偵達。ラスボスからの命令よ。ああ、それから、高遠さんなら、別の方法で報復するそうよ。聞いてみる?」
マルチディスプレイの画面が切り替わり、高遠学こと大文字学が出た。
「え、とですね。」
―「大文字伝子が行く298」に続くー
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