第6話 朝日

きらきらと輝く朝日がのぼる


「朝・・・」


私は布団から這い出して台所にむかう。

モスグリーンで取っ手が木製のお気に入りのケトルに

水を入れて火にかけた。


お湯が沸くまで少し時間があるから、その間に流しで顔をバシャバシャ洗った。

冷たい水で顔全体隅々まで洗うと、起きたという実感がわいてくる。

私のお気に入りの瞬間だ。


「今朝のご飯は何にしようかな。たしかパンが残っていたし、

フルーツは、バナナがあったからたべよっかな。」


一人暮らしの朝は穏やかだけど少し寂しい。

その寂しさを紛らわせるために、独り言をつぶやきながら朝ご飯の準備をすすめる。


「そういえば、いつものモモンガそろそろ来る時間かなあ、ナッツを小皿に入れて」


私は棚からミックスナッツの缶を取り出し、小皿にもりつけた。


ガラガラ。流しの上にある小窓を開けて、そこにナッツをもった小皿を置く。


カタカタカタ

お湯が沸いて湯気がケトルの蓋が踊り始めた。


「お、お湯が沸いたしコーヒーいれよう」


ウキウキとドリップ式コーヒーのパックを破いてお気に入りのマグにドリップパックをセットする。


こぽこぽ


お湯をそそぐとコーヒー粉はふわりとふくらみそしてしぼんでいく。

同時にいい香りが漂い、少しずつ目がさえてくる。


「いい匂い!やっぱりコーヒーは粉で入れるのが最高!本当は豆をひきたいけどなかなか気に入る豆挽きがみつからないんだよねえ」


そんなことをつぶやきながらコーヒー粉の上に糸状に湯を回しかける。

香ばしく頭の芯にしみこんでいくようなコーヒーの香り。


「ふふ、この香りがないと朝とはいえないよね。」


その時だ、かたんと音がして、流しの上の窓に可愛いお客様がやってきた。


「きたきた。きょうも可愛いな、ふんわりしてておめめがクリクリ。いつか懐いてくれたらなでさせてくれるかな?」


驚かせるとかわいそうだから、少し離れた場所にある冷蔵庫にもたれかかってコーヒーをすする。


口に広がる苦み。


「こんなに美味しいのに、飲めないなんてかわいそう」


言っていて、疑問符が浮かぶ。


(誰がコーヒーを飲めないんだっけ?)


考えると頭のなかに砂嵐のようなノイズが広がる。

頭がズキズキ痛むので、考えるのをやめた。カリカリカリ 


静かな台所にモモンガがナッツをかじる音が響く。

風がふわりと吹くと柔らかい栗色の毛が揺れる。


「ももんがくん、美味しい?」


そっと問いかけるとモモンガは私をみつめて鼻をヒクヒクさせた。

まるで「美味しいでしゅ千鳥しゃん」と言っているみたいに。


「そうかそうか。君はマカダミアナッツが好きだもんね。マカダミア多めのナッツ缶見つけられてよかった。」


このモモンガは好物は先に食べるタイプみたいで、

どんなミックスナッツを与えても、先にマカダミアナッツを食べてしまうのだ。

だから、喜んでほしくていろいろなお店を回って、

マカダミアナッツが沢山入っているナッツ缶を見つけ出したのだ。


「ララララ 貴方と一緒ならば何もこわくない

ララララ 愛を貴方に」


モモンガをながめながら口ずさむ。

きゅうと胸がくるしくなるのはなんでだろう。


(変なの、初恋もまだなのに)


それなのに、この胸の苦しさは、恋のせいだと分かるのはなぜだろう。


「貴方は誰?」


ぽつりとつぶやく。朝だ。

いつもの朝。


これからパソコンを起動して、私は絵本作家としての仕事を始める。

日常。

そうだ、これがいつもの私。


なのに違和感が消えない。


「だめだめ、今日は気分が乗らないから、人間観察ついでに街にでてみようかな。」

私はモモンガが飛び去った窓を閉めようと、ナッツを盛っていた小皿を流しにおき、

ガラガラと窓を閉めた。


「さてと、でかけますか」


私はスケッチブックや小型ノートパソコンを鞄に詰めて家をでた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る