仏蘭西菊洋装店

白蛇

 自殺するのなら首吊りが一番確実で楽だって聞いたけれど、どうなんだろう。


 わたしは白いロープが掛かっている樫の木の枝を見上げた。

 どこかの誰かが—— きっと神様か妖精だ—— 用意してくれたんだ。とっとと首でも吊って、この忌まわしい世界からおさらばしろと。

 うまい具合に樫の木の前にベンチがある。

 常緑樹が生い茂る平日の公園の奥。あたりに人影はない。

 靴を脱いで、ベンチに上がる。ベンチの背に足を乗せ、枝に手を伸ばすと、いきなりロープが動き出した。

 心臓が止まるほど驚いて、ベンチから転げ落ち、尻餅をついた。わたしの下で雑草カタバミがぐしゃっと潰れる。

 ロープと見えたのは白蛇で、すぐに枝の間に姿を消した。

 風がさわさわと樫の枝を渡って行く。その音を聞きながら、どれだけの間、ぼんやりとカタバミの花の上に座っていただろう。


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