第205話 あなたに贈る歌


 梓に宇良さんへの日頃の感謝を込めたお礼について相談した。


 まあ、俺達が出来る事って言ったらやっぱり歌でしょと、宇良さんソングを作ろうかと思った訳よ。


 宇良さんってか、友達向けた歌って感じだけど。


 「良いんじゃないかしら?」


 梓からもゴーサインが出たって事で、早速楽曲制作に取り掛かる。毎月やってる事だから、かなり慣れたもんだけど、今回はいつも以上に気合いを入れた。


 仕事が終わって、宇良さんか帰った後に、二人でスタジオにこもって、せかせかと曲作りに励む。


 いつもはスキルさんお願いしますって感じで、思い浮かんでくる事を書き殴って音楽を作ってるけど、今回は俺と梓の二人の気持ちなんかも混ぜたりして。


 感謝を贈る歌なのに、なんでもスキル任せは良くないかなって思って。正直この俺達の気持ちを乗せた歌に、スキルの力がどれだけ乗っかってるか分からないけど、それでも精一杯気持ちは込めたはずだ。


 いつもと比べてもしかしたら出来が良くないかもしれない。


 それでも宇良さんが少しでも喜んでくれたら嬉しい。


 そして完成した『あなたに贈る歌』をなんの予告もなく俺達のチャンネルにアップした。





 「おおぉ…。ちょっと凄いな…」


 「私達の思った以上の反響ね…」


 夜中になんの予告もなくアップした宇良ソング。最初の方はやっぱり、再生数がいつもよりは伸び悩んでたっぽいが、朝起きて確認するとえらい事になっていた。


 今の俺達は月初めに歌をアップして、大体1週間〜2週間、遅くても1ヶ月あれば1億再生を超える。


 まあ、1億を超えた辺りから伸びが緩やかになるんだが。


 で、大体初日は1000万再生行けば、今回は調子良いぞとニヤニヤする訳だ。


 これって普通に凄いと思うんだよね。まあ、映画を作った辺りで海外の登録者がドカンと増えたからその影響もあるんだけど。


 後は海外版の歌を出したり。趣味で色んな言語を覚えた甲斐があったってもんだ。


 「もう2000万再生を超えてるじゃん。マジで何があったよ」


 「分からないわ」


 ま、まあ、理由はよく分からんが、再生数が伸びてるのは良い事だ。ニヤニヤしがいがあるってもんよ。


 でも俺達が一番気になるのは、宇良さんの反応なんだよね。


 いつもは、9時から10時くらいに家に来るから、そろそろだと思うんだけど。


 そんな事を思ってたら、10時過ぎに愛車のミニクーパーに乗って、宇良さんがやって来た。


 目をぱんぱんに腫らして泣きまくったのが良く分かる。安全運転で来れたのかちょっと心配になるな…。


 「ぶえーんっ! 二人どもー! あの歌はなにー!?」


 家に入って来て早々に泣き始める宇良さん。宇良さんに懐いてるロイとレオが今日も来たなとばかりに戯れようとして、びっくりして離れて行ったぐらいには大泣きだ。


 「喜んでくれてるって事で良いのかな?」


 「多分…」


 「当たり前だよー! 朝から情緒がおかじくなっで大変だったんだからー!!」


 びえんびえん泣いてる宇良さんを見て、俺と梓は大満足。感情が迷子になってえらい事になってるみたいだけど、とりあえず喜んでくれてるなら良かった。


 「はい、じゃあこれ」


 「ふぇ?」


 「アップした歌をCDにしたんだ。世界に一枚しかない超レア物だぜ」


 パッケージなんかも、三人で撮った写真なんかを使って、結構凝って作りました。


 「ぶえーんっ!!」


 これは今日仕事になんないな。

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