閑話 120億


 2015年宝塚記念。

 とうとうこの日がやって来た。

 未来でも長く長く擦られ続ける120億事件。


 今日の白いあいつには色々記録がかかっていた。


 JRA同一平地G1競走三連覇。

 G17勝(当時最多タイ)

 重賞12勝(最多タイ)

 勝てば獲得賞金が15億超え(当時4位)


 そして直近の白いあいつは絶好調だった。

 阪神大賞典を3連覇、三度目の正直で挑んだ春の天皇賞も勝利。


 更に大得意の阪神競馬場。

 ここまで7走全て重賞で6勝、2着1回。連対率は100%。


 更に更に、宝塚記念はヤツらしからぬ好走っぷりを見せている。白いあいつは、大体のレースで最後方からレースを進めて、終盤のロングスパートでどっかんする戦法が有名だった。


 だが、宝塚記念に関しては前年、前々年とレース序盤でサッと好位置につけて逃げ馬を見据え、第4コーナーから最終直線で悠々抜け出しての横綱相撲っぷりを見せている。


 こうした情報も相まって、白いあいつはファン投票で1位を獲得して、現在単勝1.9倍の1番人気に推されている訳だ。


 「ここまで来ると壮大なフラグ建築をしてるとしか思えないよな」


 「当時はテレビでお腹を抱えて笑ったわよね」


 回帰前はこのレースの馬券を買わなかった。記念すべきレースになるかもしれなかったが、当時は本当にフラグにしか思えなかったのだ。


 ゴルシは馬券を買ったら来ないし、買わなかったら来るのである。当時は競馬ファンの間で良く言われてた事だな。それが約120億も集めるほど人気する訳だ。来る訳がない。あいつはそういう奴なのだ。


 今は昔ほど動画サイトで、競馬情報を発信していなかったが、未来ではYeahTubeShortsとかで、これでもかってぐらいヤツの所業が流されまくった。


 競馬を知らなくてもヤツは知ってる。そういう人もたくさんいたぐらいだ。


 「それでもアイツは愛されてるんだよなぁ」


 「あの子なら仕方ないって思えるのよ。そういう意味でも凄い人気だったわ」


 俺達は今日、歴史的事件を見るために現地に来ている。当たらないと分かってるのに、記念として馬券を買ってるぐらいだ。


 ラブリーデ◯が勝つって分かってても、今日は馬券を買ってない。もう少ししたら競馬場中で悲鳴が響き渡る。それの鑑賞料みたいなもんだな。


 腹を抱えて笑う準備は出来てるぜ。


 「目隠ししてるとはいえ、すんなりゲートに収まるのも芸術点が高いよな」


 「そうね。ダ、ダメだわ…。既に笑いが堪えられないわよ」


 ここまで徹底してフリが効いてる。梓は既に限界なのか、体を震わせて笑うのを我慢してるくらいだ。


 「あ、立った!」


 そして一度目のおっきである。まだゲートは開いてないが、場内に悲鳴が響き渡る。ゲートが開く前に一旦落ち着いたように見えたが…。


 ゲートが開いた途端にまた立ち上がった。


 「ぶわっははははっ!」


 「あははははは!」


 レースが始まったら俺と梓は大爆笑である。これこれ。これを生で見たかったのだ。あーお腹痛い。本当に見事なまでの立ち上がりである。


 両隣の馬が逃げるように好スタートを切ったのも面白い。


 「やる気なくなってますねぇ」


 「外から見ても走る気ないのが丸分かりだものね」


 あー良いもんを見せてもらった。分かってても笑っちゃうんだもんな。


 

 

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