第138話 バレる
「面白かったねー!」
曽川君と映画を観にきました。
梓は家で配信してるんじゃないかな? この前の単独配信がわりかし好評だったので。
別に家で梓の配信を見てても良かったんだけど、曽川君から映画を観に行きたいってお誘いがあったから、ちょうど良かった。
映画が終わった後。近くのファミレスでご飯でも食べるかってなって入店。
ここのミラノ風ドリアが美味しいんです。安いし。
で、店に入ったは良いものの、何故かずっとソワソワしてる曽川君。どうしたのかな?
「トイレはあそこだぞ」
「え? うん、知ってるよ?」
トイレじゃなかったらしい。なら、俺に何か言い辛い事でもあるのだろうか? 本人は隠してるつもりみたいだが、中々に挙動不審である。
「えっとね。ちょっと聞きたい事があるというか…」
「うん」
やはり俺に何か物申したい事があるらしい。恋愛相談とかは俺は役に立たないぞ? 生まれてこの方梓しか知らないので。回帰前も今世も。梓ほど素晴らしい女性はいないから仕方ないんだが。
まさか子供が出来たとか? 確かにそれなら一大事だ。
「その、谷君と中村さんって………。ルトゥールだよね?」
「え? あっ、うん」
なんて言ったら良いのかと思案してると、全然関係ない話だった。子供のこの字も出てきてない。
予想外すぎて普通に肯定しちゃったよ。
「え? やっぱりそうなの?」
「う、うん」
俺が普通に肯定したもんだから、曽川君がきょとんとした顔でびっくりしてる。この顔、彩綾さんが見たらやばい事になりそう。中々にあざとい顔をしてやがる。
「えっと…。聞いた僕が言うのもなんだけど、そんな簡単に言っちゃって良かったのかな?」
「うーん…。まあ、仲が良い人にはいずれバレるかなぁとは思ってたし」
「そ、そうなんだ」
滅茶苦茶ホッとした様子の曽川君。これがあんまり仲良くない人なら、普通に誤魔化してたけど、曽川君だし。もう3年以上の付き合いになるし、人となりは分かってるつもりだ。
むしろ、分かってくれて嬉しいまである。こう、なんて言うか知る人ぞ知るみたいな。
「いつ気付いたの?」
「高校三年生の時にはうっすらとそうじゃないかなって思ってたんだけど、ほぼそうだろうなって思ったのは、旅行の話をしてた時かな? 僕達のエピソードと一緒だったし」
「なるほど」
言われてみればそうか。行った場所とかはぼかしても、一緒に行った人には分かるよね。それでも高三時点でうっすらバレてたみたいだけど。
「うわぁ。本当に二人がルトゥールなんだ」
携帯で編集前のメイキング動画とかを見せてあげると、曽川君のテンションは爆上がりである。
むふふ。こういう生の反応を見れるのは嬉しいな。視聴者さんからチヤホヤされる以上の優越感がある。
「高校に通いながらこんな事をやってたんだね…。二人って本当に人間? とても二人で出来る作業量じゃないよ?」
「失礼な」
多分人間である。ステータスボードを持ってる人を普通の人間と定義して良いのかは分からないけど、俺達は人間だと思ってる。
「だって、普通は現役で東大に合格して、作詞作曲までやって、動画投稿もしてるんだよ? 普通は信じられないよ」
「まあ、それを言われると弱いんだが」
ステータスボードに甘えっきりですからね。俺達が努力で成した事なんてほとんどありませんよ。
いつか一曲出来るまで耐久生配信とかしてみたら面白そうだな。視聴者さんからお題をもらって、その場で歌を作る的な。それをしたら信じてもらえるでしょ。顔出ししてからの話になるだろうが。
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