第3話 ステータスボード


 「たっけぇ」


 「とても中学生に払える額じゃないわね」


 俺達二人の家はどちらかと言うと貧乏寄りだ。

 両方共母子家庭で、生活に余裕がある訳ではない。お互いの母は俺達を養う為に必死に働いてくれている。

 しかしその無理が祟ったせいか、俺の母は大学在籍中に、梓の母は大学を卒業してすぐに亡くなってしまった。それもあって働くのが嫌になったってのもある。

 せっかく過去に戻ってこれたんだし、このバッドエンドは回避したいところ。


 「ふむ。容姿とか学力を上げるのですら、こんなにお金がかかるのか」


 例えば容姿は今50だけど、1上げるのに50万かかる。

 運は20で1上げるのに20万。


 「二桁の所の数字で金額が変わるみたいね」


 「全部MAXにしようと思ったらどれだけお金がかかるんだよ」


 スキルはもっと酷い。

 歌はLv2で3に上げるのに200万。

 競馬なんで6に上げるのに500万だぞ。


 「あら? 新しくスキルを覚えられるのね? 一つ覚えるのに…ひえっ! 1000万!?」


 たまんねぇなおい。

 どれだけお金を取れば気が済むんだよ。


 「いや、お金を払えば努力不要って事だろ? そう考えるとかなりお得なのか?」


 「それでもよ。現状はどうしようもないじゃない」


 俺達はまだ中学生。

 バイトも出来ないし親にお金を無心する事も出来ない。しかしである。


 「株なら出来るんだよな。母さんにお願いして、口座開設やらはしないとだけど」


 「あら? そうなの?」


 けど、ハードルがある。

 まずはパソコンがない。ノートでもいいからとりあえず必要。その購入資金がない。


 次にさっきも言ったけど親の説得。

 株取引とかは、良く知らない人からしたらギャンブルと変わらないからな。

 それを中学生の俺にやらせてくれるのか。


 「これ、なんかお金の投入口みたいなのがあるから、ここに入れれば良いんだろうけど」


 領収書とかくれるのかな? 無ければかなり面倒な事になるよね。

 主に税金関係で。大金をこのステータスに注ぎ込む訳だしさ。


 「とまぁ、軽く考えるだけで問題がいくつもある訳よ」


 「私達の家は貧乏だものねぇ」


 俺と梓は両方ともボロアパート住みだ。

 必死に働いてくれている母さん達にお金を無心するのは気が引ける。


 「でもせっかく戻って来れたんだぜ? 早く稼いで母さん達を仕事から離さないと」


 「そうね。今回は長生きして欲しいわ」


 困ったな。ここは奥の手を使うしかないのでは。

 あんまり褒められた事ではないけども。


 「仕方ない。法を犯すか」


 「何する気? 捕まるのはやめてよね」


 バレなきゃ良いんだ、バレなきゃ。

 気を付けてやればバレる事はあるまい。

 

 「いや、普通に競馬に行こうかなと」


 「良かったわ。銀行強盗とか言い出すのかと思ったわ」


 流石にそれはやばいだろ。

 成功する確率もほぼ0じゃん。


 「競馬なら100円から出来るし、大人っぽい格好をしていけば、大勢人が居るしバレる事はないだろ」


 マスクをしてればちょっとガキっぽい今の顔も誤魔化せる筈。

 幸い身長は既に成人男性の平均以上はあるし。


 「けど大丈夫? かなり昔の着順なんて覚えてるかしら?」


 「G1なら出走表を見れば思いだす筈。多分」


 昔のレースとかも良く研究してたし大丈夫な筈。

 一着は絶対に分かるし、最悪それにぶっ込めば良いだけだ。


 「払い出しは高額の所に呼び出されないように気を付けないとな」


 払い出し機に払える額にしないと。

 あれなら税金も誤魔化せる。


 「後ですぐにあるレースについては調べるとして…」


 「その後をどうするかね」


 出来れば競馬資金を元手に株を始めたい所だけど、それは高校に入るまで我慢かな。

 パソコンとかどこから買ってきたのかとか、誤魔化せないし。高校に入ってバイトしたとでも言えば良いだろう。


 「って事で俺がやる事は、高校入学までに元手を貯めておく事だな。それも高額になりすぎたら税務署に引っかかるから不審に思われない額にしないとだけど」


 小さい頃からお年玉を貯めてましたぐらいの額なら見逃される筈。

 最初は高額じゃなければそんなに調べられないし。


 「だから競馬で余ったお金はこのステータスに投資しよう。どれだけ競馬で稼げるかは分からないけど」


 「私はどうしようかしら? 圭太のやる事は多いけど、私はそんなにないのよね」


 「いや、梓には是非お願いしたい事がある」


 それはもう。

 直近で1番のピンチがあるんだよね。


 「中学生の同級生とか詳しく覚えてる? 俺、仲の良い数人しかまともに覚えてないんだけど」


 「あ、あぁー…」


 俺も梓も友達は多かったんだけどさ。

 いかんせん広く浅くだったから、思い出すのにかなりの時間がかかる。

 親友と呼べる数人ぐらいしか、まともに話せる自信がない。


 「それに40間近の人間だったのに、いきなり中学生の会話に混ざれるのか…」


 「中々厳しいわね」


 更に更にだ。


 「俺達中学三年生って言ったよな? 高校受験あるじゃん」


 「う、うわぁ」


 ほんと、うわぁだよ。

 授業内容とか覚えてる訳ないじゃん。

 因数分解とか今更出来る気しないんだけど。


 「なんで高校入学時とかに戻してくれなかったのか」


 「ほんとねぇ」


 それなら交友関係とかも最初から始めれたし、入試の苦しみを味あわずにすんだのに。

 回帰させてくれた人は悪戯好きなのかな。


 


 

 

 

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