目標

 カナザワシティを出てから20分。


「そろそろ武蔵むさしか?」

「思った以上に順調ですね」


 現在地はカナザワシティとダンジョンとの中間地点だ。


「巫女のカリンを初めて見たが、なにが出来るんだ?」

「えっとですね、かんなぎってスキルで魔法を習得しました」

「ほぉ! どんな魔法?」


 よくよく考えたら、この世界ゲームでまともに魔法を見るのは初めてだ。


 使うのは俺じゃないのに、気持ちが昂ぶる。


「えっとですね、今使える魔法は2つありまして……1つが【敵意察知】です」

「ほぉ」

「効果は半径100メートル圏内の敵意を察知することができます」

「簡単に言うと、半径100メートル以内にいる敵の位置がわかるってこと?」

「はい。説明が下手でごめんなさい……。調べた情報によると、パッシブで常に気配を察知できる狩人のスキルの下位互換みたいです」

「仮に下位互換だとしても、ないよりあるほうが百倍ましだろ。期待してるよ」


 カリンが申し訳なさそうに申告した。


「もう1つはコチラです――【陣・活力】!」


 片手で印を組んだカリンが魔法を唱えると、カリンを中心に半径2メートルほどの円型えんけいの魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣上にいた俺の身体がポカポカと温まる。


 メティ、効果は?


(【陣・活力】には自然治癒力を高める効果があります)


 継続的に回復タイプの魔法か。


 タンクの耐久性によりけりだが……カリンは、ヒーラーになることも可能なのか。


「後ですね……えい! ――【陣・活力】!」

「おぉ!」


 カリンが天に放った矢が地面に突き刺さると、突き刺さった矢を中心に先程より一回り小さな魔法陣が出現した。


「私の祝福ギフト【一射入魂】を利用すれば、こういう形でも発動できますが、効果は減少しちゃうみたいです」

「効果は減少か……ちなみに、普通に【陣・活力】を唱えたときは動けるのか?」

「動けますが、動くと陣は消失してしまいます」

「ちなみに、【一射入魂】で陣を張ったときは?」

「動けます」

「なるほど、なるほど……。ってことは、カリンの祝福ギフトと巫女はかなり相性がいいみたいだな」


 効果は落ちるが、動けるし、遠くに陣を張れる……と、普通の巫女と比べ、かなり強烈なアドバンテージだ。


「ありがとうございます! 戦士になったアオイ君もすごく、すごく強いですね」


 クラスアップによるステータスアップの影響はかなり大きいようだ。


「ありがとう。カリンのように目に見えての効果はないけど、満足してるよ。この調子なら予定よりも早く着きそうだな」

「ですね」


 周囲を見渡すと、経験値稼ぎなのだろうか? ギィギィと騒ぐゴブリンを積極的に狩っているプレイヤーの姿が散見される。


 オンラインゲームならではと言うか、彼らがゴブリンを積極的に倒しているので、こちらが足止めをくらわないというのもペースが予定よりも早くなっている理由だった。


「そういえば、今の私とアオイ君は……他のプレイヤーと比べると、どのくらいなのでしょう?」


 カリンはチラッとゴブリンと戦闘しているプレイヤーに視線を向け、質問してくる。


「んー、どうだろうな? 感覚だけど、レベルとクエストの進捗は平均よりも少し早いペースじゃないか?」

「ですよね! ですよね!」

「お、おう……。どうした?」


 急に激しく同意を求めてくるカリンに俺は後ずさる。


「いえ、あの……実は……前に話した白山市にいる私の友人なのですが……」

「あぁ……リヒトさんだっけ?」

「あれ? 私リーちゃんのこと言いましたっけ?」

「どうだっけ? ミランとカリンが話しているのを聞いただけかも」

「話の腰を折ってごめんなさい。そのリーちゃんなのですが、一昨日の時点でダンジョンに挑んでると言っていたので……私たちは遅れてるのかなぁ……と……」

「随分ハイペースな友達だな」

「ですよね! 私たちが遅いんじゃなくて、リーちゃんが早いだけですよね!」

「まぁ、俺の友人もダンジョンに初めて挑んだのは一昨日と言ってたけどな」


 虎太郎はプロだし、ビジネスが絡んでなくてもガチ寄りのゲーマーだ。その虎太郎と同じペースとは……カリンの友人もかなりのガチ寄りのゲーマーのようだ。


「――! ということは……やはり……私たちは……いえ! 私なんかに合わせてしまったアオイ君も……」

「おーい! カリンさんやー、帰っておいでー」


 よろしくない方向へ向かいそうだったカリンを制止。


「でも……」

「俺、さっき言ったよね?」

「――?」

「俺とカリンは平均よりも少し早いペースだって」

「で、でも……」

「俺の言ってる友人ってやつは少し特殊だし、そのリヒト氏だっけ? カリンの友人も特殊な部類なんだと思うよ」

「そうですか……?」

「周囲を見渡してみ。あそこでゴブリンと戦ってるソロプレイヤー、あそこでパーティーを組んでゴブリンと戦ってるプレイヤー……あそこにもパーティーを組んで戦っているプレイヤーがいるね」


 俺は周囲でゴブリンと戦っているプレイヤーたちに視線を向け、カリンに尋ねる。


「……はい」

「彼らと俺たちはどっちのほうが進んでると思う?」

「多分……私たちでしょうか?」

「見た感じ、彼らはレベル10未満。つまり、俺たちの方が進んでる」

「はい」

「感覚的で申し訳ないが……カナザワシティを拠点としているプレイヤーはまだレベル10未満のほうが多い。その時点で俺とカリンは平均よりも早いペースってことになる」

「はい」

「とは言え、下を見るより上を見たほうが向上心は満たされる」

「――?」


 唐突にも感じる俺の言葉にカリンが首を傾げる。


「ダンジョンアプリで香林坊にあるカナザワダンジョンコアの数を見てみ」

「はい……162個です」

「162個……その意味は!」

「――?」


 会話って難しい……俺がコミュ障なのか、予定通りに会話が進まない。


「えっと、ダンジョンコアって何時間に1つ出来る?」

「3時間……」

「そそ。現実の時間に直すと1時間に1つだね。さて、問題です。βテストが開始された直後からダンジョンが存在していた場合、現在のダンジョンコアの数はいくつでしょうか」

「え……え……?」

「βテストが開始されたのは、1月26日の午後8時ね」


 そして、今は2月2日の16時30分。


「……164個です」

「正解。と言うことは?」

「ダンジョンコアは2つ破壊されている……?」

「ピンポン、ピンポン……と、上を見るとこの世界ゲームで最先端にいるプレイヤーは、ダンジョンコアを破壊しているプレイヤーとなる」

「はい」

「ちなみに、俺の友人はまだダンジョンコアを破壊していないが、リヒト氏は?」


 これで破壊済みだったらお手上げだ。


「まだだと思います」

「よし! 俺の友人もリヒト氏もガチ寄りの特殊なプレイヤーっぽいけど、とりあえずクエストの進捗で言えば、今は並んでる」

「……はい」

「とりあえず、それを追い越すことを目標に頑張ってみようか」


 すでにダンジョンコアを破壊しているプレイヤーがいるならば、俺とカリンも頑張り次第で破壊は出来る……はず。


「はい! がんばります……アオイ君と一緒に頑張ります!」


 新たな目標を掲げた俺とカリンはダンジョンを目指して、再び足を進めるのであった。

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