情報交換③

「そういえば、ダンジョンってソロで挑める程度の難易度なのか?」

「んー、どうだろうな? 稼ぐだけなら余裕じゃねーかな?」

「そうなのか」


 ソロで余裕なら、カリンとミランを誘って様子を見に行くのはありだな。


 ソロ、もしくは身内パーティーの最大のメリットは自由であることだ。好きなタイミングで挑めて、好きなタイミングで帰還できるメリットは大きい。


「奥まで進めばレッドキャップとか厄介なのもいたけど……手前で稼ぐ分には安全だと思うぞ」

「レッドキャップ?」

「赤い帽子を被ったゴブリン」

「ダンジョンの中に入っても敵はゴブリンなのか……」


 ライブオンラインのコンセプトは人類vsゴブリンとか?


「いや、ピクシーとかいうゴブリン以外の敵とも遭遇したな」

「ピクシー?」


 名称的に羽根の生えた小さな妖精か?


「弱いけど経験値は美味しいから出会えたらラッキーな敵だな」

「弱いんだ」

「弱いってか……脆い? まぁ、蒼空なら楽勝だと思うぞ」

「ほぉ。遭遇するのを楽しみにしておくよ」

「そうそう、出現する敵といえば面白い記事を見つけたぞ」

「面白い記事?」

「出現する敵はエリアによって変わるらしい。口で説明するのは面倒だな……今リンクを送るからこのサイト見てみ」


 俺は虎太郎から送られたきたリンクを開くと、8つに色分けされた日本地図と出現する敵の一覧が表示された。


 地方  よく出る敵  種族

 北海道 ハーフリング ハーフリング種? 亜人?

 東北  ガキ     鬼種?

 関東  キューピット 天使?

 中部  ゴブリン   ゴブリン種? 妖精?

 関西  インプ    悪魔?

 中国  コボルト   コボルト種? 獣族?

 四国  スケルトン  死霊種?

 九州  リザード   リザード種? 龍種?


「俺たちがいるのは……中部? 北陸じゃないのか」

「中部地方と言われてもピンと来ないが、ライオンの中だとそうなるみたいだな」

「ところで、種族の後ろに付いてる『?』は?」

「あぁ、それね。まだ未定……推測って意味だな」

「推測?」

「そそ。例えば……中部が一番分かりやすいか。フィールドだと敵はゴブリンしかいないだろ?」

「ポムスラは?」

「アレはノーカン。どこにでも出現するらしいからな」

「ポムスラがノーカンなら、ゴブリンしか見たことがないな」


 ポムスラ以外だと、遭遇したことがある敵はゴブリンとゴブリンファイターのみだ。


「他の地方も同じで、フィールドだと同一種、もしくはその派生の敵しか存在しないらしい」

「へぇ」

「ライオンって面白いけど……出現する敵のバリエーションが少なすぎじゃね、なんて愚痴がネットに溢れていたが――一昨日あたりからその愚痴は一掃されたのよ」

「一昨日あたり? 何かあったか?」

「ダンジョン。一昨日あたりから、最前線を突っ走るプレイヤーたちが基本職にクラスアップし、ダンジョンに挑み始めたんだよ」


 ログイン時間に制限がある以上、最前線を突っ走るプレイヤーたちの進行速度は似通うのも無理はないか。


「んで、ダンジョンに入ったら敵のバリエーションが増えたと」

「イエス! しかも、出現する敵にはとある傾向があるぞ……と、気付いたわけよ」

「そのとある傾向が種族と?」

「イエス!」

「虎太郎がダンジョンで遭遇したピクシーが妖精なのはわかるが……ゴブリンって妖精なのか?」


 何かのゲームや小説でゴブリンを小鬼と表していた記憶もあるが……。


「ヨーロッパの伝承によると妖精らしい」

「へぇ」

「まぁ、提供された情報が少ないから……中部はゴブリン種と妖精と2パターン記載されているんだけどな」

「なるほどね……しかし、曖昧な推測ならわざわざ種族なんて項目いらなくね?」


 曖昧な情報である種族を知ったところで何も活かせない。普通に出現する敵をリスト化するだけでいいと思う。


「ふっふっふ……甘いな! 甘すぎるぞ高橋蒼空!」


 何が琴線に触れたのだろうか? 虎太郎のテンションが昂ぶり始める。


「急に、どうした?」

「何故、このサイトは種族というカテゴリーを追加したと思う? それにはとある推測が影響している」

「とある推測?」

「蒼空もあのしちめんどくさい講習受けたよな?」

「守護者協会が主催している攻略講習のことか?」

「そそ。それじゃ、復習だ。この世界を侵蝕する異世界の数は?」


 この世界を侵蝕する異世界の数? 確か……


「……8だったか?」

「正解! 最近、8って数字に聞き覚えは?」

「――! 色分けされた地方の数か!」

「ピンポン、ピンポン! つまり、俺たちのいる中部は妖精が支配する異世界から侵蝕されている……かも知れないって訳だ」

「なるほどね。侵蝕してくる異世界の正体を種族ってカテゴリーで掲載しているってことか」

「だな。ライオンは日本をモチーフにした世界やダンジョンを冒険するMMORPGでありながら、ストラテジー要素の強い戦争ゲームの局面もあるのかもな」

「まぁ、俺たちの青春時代を捧げるに相応しいゲームであることを祈るばかりだな」


 このペースで行くと、俺の残りの高校生活は学校とライブオンラインの日々であっさりと消費されるだろう。


 数年後……大人になったときに、『俺の高校時代も楽しかった』と誇れる時代を送りたいものだ。


「あ! そういえば、蒼空」

「ん? どうした?」

「うちのチームに所属する気はないか?」

「前も言ったが……親から学校に通ってる間は学生らしく勉学に集中しろ……と言われてるから、無理かな」

「やっぱり、そうか……」

「ってか、親がどうこうは置いといても、今はライブオンラインが楽しいから他のことをする余裕はないかな」


 ライブオンラインは非常に高カロリーのゲームだ。他のゲームを並行してプレイするのは、厳しいと言わざる得ない。


「お! なら、問題ないな」

「俺の話を聞いていたか?」

「聞いてた、聞いてた。監督が言うには……現在、うちのチームが求めているのは――ライオンのプレイヤーなんだよ」

「は? ライブオンラインはβテストだぞ? しかも、今のところ対人要素も無さそうだし……プロゲーマーの運営が食らいつくようなゲームではないだろ?」


 プロチームが欲しがる人材は、格ゲー、FPS、バトルロイヤル、レースにスポーツなど様々なジャンルはあれど、PVP――対人に優れた能力を持つ人材だろう。


「んー、専務案件? とりま、金に汚いことで有名な専務がやたらライオンに前のめりらしいのよ」

「え? なにそれ……めちゃ怪しいだろ。配信部門でも設立するのか?」

「仮にそうだとしたら、蒼空に声はかけねーよ」

「それは……それで傷つくな」


 虎太郎の返事に俺は苦笑する。


「まぁ、チームのことは頭の片隅に置いといてくれ。条件面に関しては、俺が精一杯援護射撃してやるから」

「へいへい。春休みに、アルバイトとして『正体不明アンノウン』を復活させる……くらいなら、考えとくよ」

「まぁ、何にせよ向こうでさっさと合流したいものだな」

「それに関しては同意だ」


 気付けば、昼休みを終えるチャイムが鳴り響く。退屈な午後の授業を迎えるのであった。

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