ダンジョン

 講習会場から出た俺は端末を操作し、新たに出現した『初心者クエストⅥ』の内容を確認することにした。


『ダンジョンコアを破壊しよう。こちらのクエストは難易度の高くなっております。当協会の作成したガイドを閲覧することを推奨します。

 ☆☆ダンジョン攻略ガイド☆☆』


 ダンジョン攻略ガイド?


 俺は画面に表示されたダンジョン攻略ガイドの文字をタップ。


『☆☆ダンジョン攻略ガイド☆☆


 ① ダンジョン攻略はパーティーで挑もう!


 ダンジョンコアを破壊した成果はパーティー単位で認定されます。パーティーの仲間と役割を分担することがスムーズなダンジョン攻略が実現します。



 ② 最初は浸度しんどの低いダンジョンを狙おう!


 ダンジョンは新たなダンジョンを創出すると浸度が1上昇し、内部の敵が強くなります。浸度を上昇させないためにもこまめなダンジョンコアの破壊を心がけて下さい。



 ③ ダンジョンの位置を確認しよう!


 端末に導入された『ダンジョンアプリ』を開くことで、領域内のダンジョンの位置と浸度を確認することができます。



 ④ お帰りは帰還石で!


 ダンジョンには入口はありますが出口はありません。脱出方法はダンジョンコアの破壊か、『帰還石』の使用となります。また、『帰還石』1つでパーティーメンバー全員が帰還出来ます。『帰還石』はダンジョン内で入手できる鉱石を用いて錬金術師が作成できます』


 なるほど。


 ライブオンラインのパーティーって上限何人よ?


(4人です。特別なスキルを所有している守護者がリーダーになることで、6人まで同時にパーティーを組むことが可能となります)


 特別なスキル?


(一部の上級職が習得する【指揮】スキルなどが該当します)


 その一部の上級職はなに?


(申し訳ございません。その情報は蓄積されておりません)


 そこはシークレットなのか。


 上級職ならまだまだ先の話か。


 んー、ってことは、今俺が組めるパーティー人数は4人か。


 攻略ガイドにも記載されていたが、パーティーを組むときにもっとも重要なのは役割だ。


 4人パーティーならば、オーソドックスな役割はタンク、アタッカー、バッファーorアタッカー、ヒーラーあたりか。


 俺はアタッカー、カリンはバッファー。ミランは……自前の装備の影響もあり耐久力は高いが、如何せんヘイトコントロールするスキルを持っていないので……役割はやはりアタッカーとなってしまう。


 タンクを募集したとしても、ヒーラーがいないパーティーでタンクを引き受けるバカはいないだろう。巫女って名前的にはヒーラーもいけそうな気がするけど、どうなのだろう?


 巫女がヒーラーならば、タンクを募集するのが最適解なのか?


「アオイ君、アオイ君!」


 ――!


 思考の海にダイブしていた俺の耳にカリンの声が届く。


「ん? どうした?」

「えっと、これからどうします? いつも通りの時間に落ちるなら……まだ1時間ちょっとありますが……」


 端末で現実の時間を確認すると、時刻は0:55。定刻までは残り1時間ちょっと。


「新しいクラスの試運転も兼ねて、少し稼ごうかな」

「私も……と言いたいところですが、少し疲れが……」

「無理しなくていいよ。俺も今日は早めに切り上げるから」

「ごめんなさい」

「気にするなって! それじゃ、また明日」

「はい! また明日、お願いします」


 俺は戦士という新たなクラスを試運転するため、シティの外へ出るのであった。



  ◇



 翌日。


 いつも通り学校に登校し、いつも通り席に着くと同時に机に突っ伏すと……、


「高橋君、おはよう!」

「三浦さん、おはよう」


 いつも通り・・・・・三浦さんが俺に朝の挨拶を投げかけてくれる。


「まいかっち、おはよー!」

「みーちゃん、おはよう!」

「まいか、ちょっといい?」

「ひかる? おはよー、どうしたの?」


 三浦さんは男女問わず人を惹きつける魅力があるのか、あっという間に女子たちの輪の中心に取り込まれてしまった。


 大人になったとき、『貴方の青春時代は?』と聞かれたら、三浦さんは学校生活を……キラキラとした友人たちとはしゃぐ写真と共に語るのだろうか。


 そうなると、俺の青春時代は……ライブオンラインになるのか? キラキラした友人たちとの写真の代わりは、フレンドたちとのスクリーンショット? ライブオンラインほどリアリティのある世界なら現実の写真のクォリティとそこまで差はないか。


 なんて、くだらないことを考えていたら……


「蒼空、おはよう」


 三浦さんと同じくキラキラした青春時代を送れるだけのスペックがあるのに、好き好んで俺と同じ青春時代を選択した悪友が眠そうな声で挨拶を投げかけてきた。


「虎太郎、おはよう。相変わらず、寝不足なのか?」

「ログイン制限があるお陰で寝落ちするまで……って無茶はなくなったが、ライオンは調べれば調べるほど面白いというか変わったゲームシステムだから、寝る前に軽くネットを見始めたら……って感じだな」

「んで、昨日寝たのは?」

「4時」

「せめて、後1時間早く寝ようぜ……」

「ふわぁ〜善処する」


 虎太郎は俺の優しき忠告に、善処する気を欠片も感じさせない声で空返事をする。


「ってか、珍しいな」


 虎太郎の視線の先を目で追うと、三浦さんの隣に立つショートカットの女性の姿が目に入った。


青山あおやまさん? 虎太郎、面識あったっけ?」


 青山あおやまひかるさんは違うクラスの同級生で、学内ではちょっとした有名人だ。顔立ちが整っているだけでなく、頭が良く、スポーツ――特に卓球の技術が卓越しており、将来日本代表間違いなしと言われている才女なのだが……虎太郎が興味を持つのは意外だ。


「んー、それはだな・・・・・・後で昼休みに飯を食いながら説明する」

「――? 了解」


 実は付き合ってるとか?


 俺は歯切れの悪い虎太郎の反応に首を傾げるのであった。

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