アップグレード

 ログアウトした俺はすぐさまスマホを操作し、情報を集め始める。


 書物を読んだり、特定の人物――例えば師範などと会話を交わすとナビゲーターがアップグレードされると、いくつかの攻略サイトに掲載されていた。


 アップグレードによって得られる情報の内容も攻略サイトに掲載はされているが……自分でナビゲーターをアップグレードさせて、質問したほうが必要な情報を正確に知ることが出来るはずだ。


 ってことは、調べるべき内容はアップグレードさせることが出来る人物と書物の場所だな。


 俺はライブオンラインと関連のありそうな様々なキーワードを組み合わせて検索し、情報を収集した。


「……なるほどね。スタート地点がプレイヤーによってバラバラなんだから、具体的な人物名や場所が掲載される訳がないか」


 ある程度情報を収集した俺は1人部屋で呟く。


 とりあえず、基本クラスの情報は各師範に話を聞いてから書物を読むのがいいっぽいな。後は、出来るだけNPCと会話を交わすと……。


 進化し過ぎたAIってのは、凄いけど――厄介だな。


 一昔前のRPGの様に『話す』なんてコマンドは【ライブオンライン】には存在しない。情報を仕入れるためには、会話を交わさなくてはいけない。


 何かのキーワードがフラグとして組み込まれている可能性もあるが……色々なサイトな掲載されていた情報を信じるなら、ポイントは――コミュニケーション。高度なAIを有するNPCとの情報伝達や意思疎通のようだ。


 言葉だけではなく、仕草といった表現力や、言葉遣いや態度にも注意を払う必要があるみたいだ。


 とあるサイトには、ゲームとはまったく関係がないように思える、コミュニケーションのハウツーが掲載されていた。


 隠しステータスで友好度でも設定されてんのか?


 っと、ログアウトしてから10分経ったか……。


 俺は急いで『ノア』に横たわり、ライブオンラインの世界にログインするのであった。



  ◆



「すまん!」


 俺はログインしたと同時に開口一番、カリンに頭を下げた。


 たかが10分……ではなく、カリンの体感的には30分待たせたことになる。。


「大丈夫ですよー」


 カリンはパタパタと手を振って、優しい笑顔を浮かべる。


「それと、提案があるんだけど……」

「なんでしょうか?」

「シティに戻って情報集めをしないか?」

「いいですよ」

「その理由なんだが……え? いいの?」

「はい!」


 なんで? くらいは聞かれると思ったが……カリンはあっさりと俺の提案を受け入れてくれる。


「とりあえず、戻りながら理由を説明するよ」

「はい、お願いします」


 俺とカリンは10分ほどでカナザワシティに帰還。


「つまり、レベル10になる前に基本クラスの詳細な情報を入手したくて……その為にはナビゲーターのアップグレードが必要で……その手段としてカナザワシティの人たちから話を聞いたり、書物を読む必要があるということですね?」


 道中で説明した俺の説明をカリンが確認してくる。


「まぁ、そんな感じだな。というわけで、まずは各師範に尋ねるか」


 カナザワシティには攻撃師範、防御師範、冒険師範、回復師範、魔法師範、鍛冶師範、錬金師範と、7人の師範が存在している。


「師事していない師範でも教えてくれるのでしょうか?」


 ネットに落ちていた情報によると、【ライブオンライン】はゲームであってゲームでない。情報収集のポイントは、相手をプログラムされたAI――NPCと思わないで、人と同じように対応することらしい。


 教えてくれるかどうかは、聞き方次第なのかもしれない。


「どうだろうな。ダメ元でもいいから聞いてみよう」

「はい!」


 こうして、俺はカリンと共にナビゲーターをアップグレードすべく、カナザワシティ内を駆け巡ぐるのであった。



  ◆



 6時間後。


「思った以上に時間がかかったな」


 現実世界リアルの時間を確認すると……丁度0時。


「師範の皆さんは思ったよりもお話好きでしたね」

「話好きというか……スカウトに感じたけどな」


 クスッと笑うカリンに対して、俺は苦笑を浮かべる。


「あはは、アオイ君は戦闘系の師範から人気でしたね」

「師範たちとの会話はアレだったが……書物は手に取るだけで、ナビゲーターが記録できる仕様なのは助かった」

「そうですね。本を読むのは嫌いじゃないですけど、あれだけの量を読むとなると……数日は缶詰めでしたね」

「さてと……ナビゲーターのアップグレードは完了したけど、どうする?」

「んー、アオイ君はどうするのですか?」

「とりあえずは、アップグレードした情報を一旦整理だな」

「了解しました! それじゃ、私はこの辺で失礼しますね」

「了解。カリン、今日もありがとう。おやすみ」

「――! は、はい! アオイ君、おやすみなさい!」


 俺はログアウトするカリンの姿を見送るのであった。 

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