強化
カンッ! カンッ! カンッ! と金属同士が打ち合う音が響き渡る。
現在、ミランはカリンの装備品を製作中。俺は汗を垂らしながら必死にハンマーを打ち下ろすミランを1時間近く眺めていた。
んー、ヒマだ。こんなにも待たされるとは・・・・・・。
経験値稼ぎにでも行きたいが・・・・・・必死に装備を作っているミランを置いて自分だけ稼ぐのは、さすがに人としてダメだろう。
しっかし、凄い技術だな。汗まで表現するのか。この仮想世界と現実を比べてみても、どのくらい違いはあるのだろうか?
正式サービスが開始されたら、ライブオンラインをプレイする媒体――ノアの価格はいくらになるのだろう? 今のところ課金要素はないが、無料ということはあり得ない。仮に月額課金だとしたらいくらくらいになるのだろう?
一度、これだけのクオリティのゲームを体験したら、今までの――旧時代のゲームには戻れないだろう。
んー、リアルの金策も考えないとダメなのか・・・・・・憂鬱になるな。
などと考え事をしていたら、
「アオイ君、お待たせしました!」
新しい鎧を身に纏ったカリンが声を掛けてきた。
「おぉ! いい感じに見違えたな」
「ありがとうございます!」
「ん? その鎧は・・・・・・鉄の鎧?」
「いえ、この鎧は『獣皮の鎧』です」
「正確には『獣皮の鎧+1』ね」
首に掛けたタオルで額の汗を拭いながら現れたミランが、カリンの答えに補足した。
「金属系以外の装備品の作れるのか」
「簡単なモノなら、レシピがあればね」
「ほぉ」
「カリンは後衛だから、動きを阻害する鉄の鎧より獣皮の鎧がいいと思ったんだよね」
「動きを阻害?」
「そそ。んー、説明するより体験したほうが早いかな。ちょっと待ってて」
1分後。
「お待たせー! 師匠から借りてきたー」
「師匠?」
「師匠は鍛冶を教えてくれるNPCだね。んで、これがうちが作れる防具かな」
ミランはそう言うと、大量の防具を目の前に並べ始めた。
「装備してもいいのか?」
「うん。でも、装備したまま工房から出たらお尋ね者になるかもだから、気を付けてね」
「え? マジ?」
「んー、たぶん? 師匠から、工房の外に出したら守護者協会に叩き出すって言われてるよー」
「怖っ」
「あはは」
「とりあえず、装備してみるか」
俺は黒ずんだ銀色の鎧――鉄の鎧を手に取り、装備した。
うぉ・・・・・・思ったよりも重いな。動けなくはないが・・・・・・トレースした自前のステップをするのは厳しいな。
続いて、カリンの装備していた『獣皮の鎧』を手に取り、装備。
なるほど。コレと比べると先ほどの『鉄の鎧』は動きを阻害していると言える。
その後も次々と目の前に並べられた防具を試着した。
「なるほどね。無駄にリアルというか・・・・・・試着の大切さが実感できるな」
特にキツかったのが『鉄の兜』だ。頭が重すぎて重心は崩れるし、正面以外の視界も狭まった。
「で、決まったー?」
「そうだな。胴は『鉄の胸当て』、足は『獣皮のレガース』、頭は『鉄の額当て』で頼む」
『鉄の胸当て』は胴体の上部分のみを覆う簡易的な鎧だ。若干の重さは感じるが、動きを阻害することはなかった。『獣皮のレガース』は獣皮製の脛当て。『鉄の額当て』は鉄製の鉢巻きのような防具だった。
「かなり軽装備だね」
「俺のプレイスタイル的に、受けるダメージを減らすよりも、ダメージを受ける回数を減らしたいからな」
「なるほど、なるほど。それじゃ、作業に入るね」
「頼む」
「えーっと、カリンの残りの装備も仕上げないとだから・・・・・・完成は6時間後かな?」
「そんなにかかるのか?」
「そりゃそうだよ! 普通のゲームみたいに材料を揃えてボタンをポチポチーで完成はしないからね」
「・・・・・・なるほど」
「そんな露骨に嫌そうな顔をしない!」
「すまん・・・・・・」
どうやら感情が表に出てしまっていたようだ。
「ほら、最初に仕上げといたコレを渡すから、カリンと二人でクエストの報告に行ってきな」
ミランはそう言って、強化された『鉄の籠手』を差し出してくれた。
「いいのか?」
「良いも悪いも、見てても暇でしょ? とりあえず、すべての装備品が完成するのに6時間は必要だから・・・・・・クエストを報告したら、二人で適当に経験値でも稼いで来なよ」
「・・・・・・いいのか?」
「『いいのか?』なーんて言いながらも、頬が緩んでるよ? これだけの装備品を作ったら、うちも結構な経験値を稼げるからね。気にしないで、二人で狩りデートでもしといで」
「ちょ! ミ、ミーちゃん!?」
「あはは。ごめん、ごめん。言葉の綾だよ。それとも、二人でずーっとうちを見てる? うちはそれでも構わないけど?」
ミランはこちらをからかうような笑みを浮かべる。
「ミラン、ありがとう! お言葉に甘えさせてもらうよ。カリン、行くか」
「は、はひ!」
俺はカリンと共に初心者クエストⅣの達成を報告すべく、守護者協会へと向かうのであった。
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