フレンド
フレンドを作れとは無茶苦茶だな……。
運営の気持ち……いや、狙いもよく分かる。
毎日一緒に遊べる――生活リズムや波長が合ったフレンドに出会うことが叶ったオンラインゲームは長続きする。
だからこそ、マッチングアプリじゃないが、フレンドを作りやすい環境を整えたつもりなのだろう……。
しかし、フレンドとは作るものじゃなく、自然と築かれる関係性なのだ。
んー、これはなかなかに難易度の高いクエストだ……。せめて、トラがいればいいのだが、残念ながらココにはいない。コマツシティにいるトラとは、いつ会えるのか不明だ。
別に、俺は孤高のソロプレイヤーを目指していた訳ではないのだが、いざフレンドを作れと言われると……ハードルはかなり高いぞ。
さてと、クエストは受けるしかないから受けるけど……どうすっかな?
俺の経験してきたフレンドになるシチュエーションは――
① パーティー募集などの野良パーティーで気の合ったプレイヤーとフレンド登録。
② ギルドなどのコミュニティ内で知り合ったプレイヤーとフレンド登録。
③ フレンドのフレンドを紹介されてフレンド登録。
圧倒的に多いシチュエーションは①だ。他に、俺は経験ないがフレンド募集掲示板などを通じてフレンドになるケースも聞いたことがある。
③はそもそもフレンドがまだいないから不可。②に関しても、そういうコミュニティにまだ参加してないから不可。
となると、可能な選択肢は①のみになるが……。
どんなパーティー募集に参加すればいいんだ? そもそもパーティー募集ってあるのか……?
と、悩んでいると――
「フレンド交換してパーティーを組んでくれる人いませんかー?」
大声でパーティー募集……否、『初心者クエストⅡ』を達成するための募集をしているプレイヤーの声が聞こえた。
ライブオンラインは今日が初日。ならば、進行状況が似たようなプレイヤーが多くなるのは必然だ。
VRではないオンラインゲームでも、俗に『周囲チャット』と呼ばれる一部のコミュ強のみが使用できる不特定多数に向けたチャットは存在したが、VRだとシンプルに大声で叫ぶ感じになるようだ。
ふむ……コレは周囲チャットよりも勇気が必要だな。
しかし、あの募集に乗れば目の前の難関――『初心者クエストⅡ』を達成できる。
俺が勇気を振り絞り、行動に移そうとするが――
「あ、あ、あ……」
あっという間に他のプレイヤーに先を越され募集は打ち切られてしまう。その後も定期的に募集はされるが、秒で埋まる状態が続いた。
募集に参加するのは難しい。しかし、逆に考えれば……俺から募集すれば即埋まって解決!
しかし、この大衆の中で大声で叫ぶのは厳しいな……。
心が折れかけたその時――
「あ、あ、あの……よ、良かったら……わ、わ、私と……と、とも……じゃなくてフレンドになりませんか?」
奇跡が舞い降りた。
振り返ると明るい栗色の髪を短く切り揃えた少女が立っていた。
「は、は――」
「喜んで!」
え?
隣に顔を向けると俺と同じく目の前にいる少女の呼び声に応える男のプレイヤーが満面の笑みを浮かべていた。
え? ウソ……俺にじゃないのに反応しちゃった?
むちゃくちゃ恥ずかしいやつじゃん……。
「あ、あ……え、えっと……ど、どうしよう……」
予期せず2人のプレイヤーに反応された少女が戸惑う。
そして、周囲のプレイヤーたちの視線も自然とこちらに集まり始める。
んー、これは気まずい雰囲気だ。
とりあえず、立ち去るか……。フレンドの募集は……アレだ! 一旦ログアウトして外部サイトの掲示板とかで探すとしよう。
「失礼し――」
頭を下げこの場から立ち去ろうとしたが、
「あ! 待って! こっち!」
――!?
少女は俺の手を取って、その場から駆け抜けたのであった。
◆
俺の手を引いたまま走り出した少女は、やがて人通りの少ない通路で足を止めた。
「ハァハァ……えっと……コホンッ。改めまして、私の名前はカリンです。フレンドになりませんか?」
肩で息をしていた少女は仕切り直しとばかりな咳払いをすると、ニコッと微笑んで右手を差し出してきた。
こ、これは……新手の詐欺とかじゃないよな?
フレンドになった瞬間、怪しい壺を買わされたりしないよな?
目の前の少女――カリンの無垢な笑顔が怖くみえる。
「……だ、ダメですか……。ダメ……ですよね……。ご、ごめんなさい……」
カリンは差し出していた右手を降ろすと、下を向いてか細い声で謝罪してきた。
「あ、え、ち、違う! そういう訳じゃなくて!」
俺は気まずい雰囲気をかき消すかのように手を振り、言い訳をする。
「え? それじゃ……」
カリンは上目遣いにこちらの目を覗き込む。
「え、えっと……フレンドになる理由は『初心者クエストⅡ』をクリアしたいから……でいいよな?」
「……え?」
「え?」
「……あ! は、はい! そうです!」
カリンは妙な間を挟んだが、取り繕うような笑みを浮かべ首を縦に振る。
「ちなみに……俺とは初対面だよな?」
カリンとは初対面のはずだが……何故だろう? 初対面の気がしない。
「え? は、はい! そうです!」
「本当に……?」
んー、この顔……どこかで見た記憶があるんだよな。
「アオイ君とは初対面です!」
何故俺の名前を――とは言わない。右眼を瞑って、目の前のプレイヤーに視線を合わせれば、名前は表示される。
んー、なにか引っかかるんだよな……。
「協会の周りにはたくさんのプレイヤーが居たけど……その中から俺に声を掛けた理由は? ……偶然なのか?」
俺はストレートに質問をぶつけた。
「えっと、フレンドって友達のことですよね?」
俺の質問に対しカリンは首を捻りながら、質問で返答してくる。
フレンド――直訳すれば友達だ。
しかし、オンラインゲームにおけるフレンドはどうだろう?
友達というには関係性が希薄な気もする。知り合いくらいの関係性だろうか? しかし、中には親友とも言えるほど関係性の深いプレイヤーが存在することも多々ある。
難しい質問だけど、カリンの質問に答えるなら――
「そうだな。友達だ」
フレンドを交換するプレイヤーは一緒に遊んだことのあるプレイヤーがほとんどだ。ならば、友達と表現するのが一番近いだろう。
「友達ならちゃんと選ばないとダメじゃないですか?」
「……そうだな」
ゲーム的な意味合いのフレンドなら後で整理が可能だ。しかし、友達なら……ちゃんと選ぶ必要はあるだろう。
って、俺は何の話をしてるんだ?
「だから、私はフレンド――友達としてアオイ君を選びました」
「あ、ありがとう」
カリンのあまりにも魅力的な笑顔に俺は思わずお礼を口にする。
「えっと、改めて……コホンッ。私の名前はカリン! フレンドになりませんか?」
カリンはとびっきりの笑顔を浮かべ、再び俺へと右手を差し出した。
この笑顔は――断れないな。
「俺の名前はアオイ。よろしくな!」
俺は差し出した手を握り返した。
紆余曲折はあったものの、『初心者クエストⅡ』はこれで達成だ。
「んじゃ、冒険者ギルドに報告に行こうか」
「はい!」
俺はカリンと共に冒険者ギルドへと向かうのであった。
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