コマツシテイ

 クッ……ログアウト出来ない……なんて、ロマンチックな展開を少し予想したが、そんなわけがあるはずもなく、すんなりとログアウトした俺は『ノア』から出てスマホを操作し虎太郎に連絡。


 ワンコールも鳴らないうちに虎太郎が応答した。


『お! 蒼空そら! 早いな!』


「メッセージを見てすぐにログアウトしたからな。んで、どうした?」


『蒼空……じゃなくてアオイ・・・は今どこにいる?』


「守護者協会の前にある通路でログアウトしたな」


『じゃなくて……えっと地名!』


「地名? カナザワシティ……ってことか?」


『そんな気はしていたが……やっぱりカナザワシティか』


 虎太郎の言い方に引っかかりを覚える。


「ん? トラはどこにいるんだ?」


コマツシティ・・・・・・・だな』


「は?」


 予想外の返事に俺は間の抜けた声をあげてしまう。


『いやいや、だからコマツシティだよ』


「まじかよ……」


 コマツシティ――小松市。金沢市から白山市を超えた南にある市で虎太郎が現在住んでいる市だ。


『かぁー! これだから金沢人は! 石川県と言えばすべてが金沢市だと思ってるだろ』


「いやいや、んなことは思ってねーよ。ってことは、アレか? あっちの世界は市町村ごとに町が存在するってことか?」


 日本に市町村っていくつあるんだ? 1,000以上はあるよな?


『多分、そういうことだろうな。しっかし、あっちの世界は電車もバスもねーよな?』


「んー、まだ外に出ていないからなんとも言えないが……どうなんだろうな」


『チャリもないだろ? こっからカナザワシティ……つーか金沢まで何キロあるんだ? 道中にモンスターもいるだろうから、今日明日で合流ってのは厳しそうだな』


「線路沿いを歩いたとして……どのくらいだ? 28.4kmか。意外に近いな」


 俺は、通話をしながらマルチタスクで金沢駅から小松駅の距離を調べた。


『線路沿い? 8号まで出て向かう予定だったが……小松駅を目指してから・・・・・・・・・・線路沿いを歩いたほうが近いのか?』


「ん? コマツシテイって小松駅だろ?」


『いや、小松空港・・・・だな』


「は? そうなのか?」


 シティは市町村にある駅が指定されるのかと思っていたが、違うようだ。


『そういえば、金沢には空港はねーな。カナザワシティはどこにあるんだ?』


「カナザワシティの場所は金沢駅だな」


『ってことは、ハクサンシティはどこなんだ? 白山駅はねーから、美川駅とかか?』


「そこらへんは後で調べるとして……とりあえず、虎太郎はどこまで進めた?」


 推測を重ねる雑談も楽しいが……今はお互いの状況確認をささっと済ませて、ライブオンラインの世界に戻りたかった。


『【初心者クエストⅠ】を受けたところだな』


「ってことは同じか」


『まぁ、一緒に遊ぶのはしばらくお預けか。こんなことなら小松市に引っ越すんじゃなかった』


「いやいや、親父さんからみたら憧れのマイホームだろ? そうは言ってやるなよ」


 虎太郎は昨年、金沢市から小松市に引っ越していた。


『ったく、親父は職場が近くなったかもしれないけど、こっちは学校に通うのも一苦労だっつーの! せっかく蒼空とスタートダッシュを決めようと思ってたのに!』


「仕方ないだろ」


『しゃーない。俺と蒼空がハクサンシティに行ける目処が立つまでは、互いに頑張るか』


「だな。まぁ、なんかあったらメッセージを飛ばしてくれ」


『同じく。んじゃ、またな』


「おう、またな」


 んー、計画が大幅に狂うな。


 オンラインゲームは何でも相談できて、時間を合わせられる友人の有無で効率がかなり変わる。


 トラと合流するまでソロメインで行くべきか……一期一会を割り切った仲間を見つけるべきか……。


 虎太郎トラ以外でもLIVEオンラインをプレイするという友人や知り合いは何人かいるが……すべてオンラインゲーム上の友人や知り合いで……恐らく、金沢市在住はいない。


 探せば、プレイしている小中時代の友達もいるとは思うが……高校に入ってからは虎太郎と遊んでばかりで疎遠なんだよなぁ。


 まぁ、必要に迫られたときに考えればいいか。


 俺は再び『ノア』の中で横たわり、ログインした。



  ◆



 あ! トラの祝福ギフトがどんなのかを聞くの忘れた……。まぁ、明日学校で会ったときに聞けばいいか。


(マスター、おかえりなさい)


 メティ、ただいま。早速だけど、攻撃師範の元まで案内を頼む。


(了解しました。それではナビゲートを開始します)


 腕に装着したスマホからホログラムの地図が浮かび上がり、目的地までの道のりを示してくれた。


 場所的には金沢駅にある商業施設――百番街のアパレル売り場か。


 元の世界では、開放された形の様々なショップが並ぶデパートのような商業施設だったが、こちらの世界では区画ごとに壁で覆われた建物のような造りになっていた。


 メティのナビゲートに従い辿り着いた先は、一言で言えば道場だった。


 道場の中には沢山の木の人形が設置されており、プレイヤーが各々の武器でその人形を攻撃していた。


「新たな守護者たちよ、よくぞ参られた! 儂はカナザワシティの攻撃師範を任されているガロン! その方、入門を希望する者か?」


 道場の中央で仁王立ちしていた強面の男が、こちらに視線を向けて威厳あるの声を発した。


 入門……? えっと、クエスト内容が見習い許可証を受け取るだから……入門すればいいんだよな?


「はい。入門を希望します」


 俺はガロンの近くに寄り、返事をした。


「うむ。ならば、入門試験を受けてもらおう」


「入門試験……ですか?」


「うむ。あちらの倉庫から好きな武器を選び……むむ? すでに武器を持っておるか。ならば、その武器でモンスターを10体討伐して参れ!」


「モンスターの討伐……?」


 オーソドックスなクエスト内容だが……道場っぽい建物に師範の肩書がある人物がいるのに、戦闘のやり方を教えてくれるわけじゃないのか?


「うむ。不安があるようなら、道場内の木偶デクを好きに使うがよい。珍しい武器を所有しておるが、20も木偶を攻撃すれば自ずと使い方が見えてくるじゃろう」


 まずは、道場のあちこちに設置してある木の人形――木偶を20回攻撃しろってことか?


 ここの道場は随分と放任主義のようだ。


 俺は道場の中を見回して、空いている木偶の元へと向かったのであった。

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