ナビゲーター
(……同期を完了しました。これよりチュートリアルモードを起動します)
――!
急に耳元から女性の声が聞こえた。
慌てて周囲を見渡すが、そのような人影は見当たらず、自分の耳を触れてみるが何も感じない。
「だ、誰かいるのか……」
小さな声で呟くと、
(マスター、驚かせて申し訳ございません。私はこの世界でマスターをサポートさせていただくナビゲーターです)
ん? 幻聴じゃないよな?
(はい、マスターは正常な状態です。私の声はマスターの骨を伝って届けております)
骨伝導……?
(はい。骨伝導イヤホンと同等のシステムと認識して頂いて構いません)
耳にもこめかみにも何も付けて……って俺の本当の身体は『ノア』の中だったな……。
(ご理解頂けたら、幸いです)
ってか、ナチュラルに俺の心の中を覗いてる?
(規約に同意した上でオンを選択して下さいと注意書きがあり、マスターはその規約に同意しております)
そういえば、そんな文言あったな……。
えっと、その……えっと……
俺が言葉に詰まると、
(私のことは『ナビゲーター』でも『ナビ』でも『システム』でも好きなようにお呼び下さい)
俺の心を読んで的確な答えが返ってきた。
「『ナビゲーター』、『ナビ』、『システム』……」
一通り口に出してみるが……ここまで高度な会話が成立する相手に付ける名前としては味気ない。
(ちなみに、女性でも男性でも、子供でも大人でも老人でも、話し方に付いても、ご指示頂ければ、マスターの好みに合わせて変更が可能だにゃん)
ナビゲーターは様々な声音で語りかけてきた。
何故、最後に老人の声でにゃんと付けた……。
名前……名前か……。
「そうだな……例えば、『メティ』とかどうだ?」
(なるほど。由来は知識の女神『メーティス』ですか。何だか、少し照れますね。マスターがよろしければ、今後私のことは『メティ』とお呼び下さい)
「んじゃ、メティ、改めてよろしくな」
(はい! よろしくお願いします!)
凄いな……感情まで表現出来るのか……。
(ありがとうございます)
っと、人によっては
(それでは、この世界で『端末』を入手したばかりの守護者に推奨される機能をご紹介してもよろしいでしょうか?)
頼む。
(はい。まずはすべての機能を同期することをオススメします)
すべての機能を同期?
(はい。【ゲームモード】を同期することで、『端末』の画面を見なくてもゲーム画面のように、マスターの目を通して様々な情報が確認できるようになります)
――?
(【ゲームモード】は初期化も可能となっております。一度お試しになりますか?)
……頼む。
よく分からないので、とりあえず試してみることにした。
(【ゲームモード】との同期を開始します。リラックスした状態で『端末』を装着している腕を制止した状態にしてお待ち下さいませ)
リラックスした状態で待つこと1分。
(……同期を完了しました。右目を瞑ることで左目から各種情報にアクセスすることが出来ます)
俺は言われた通りに右目を瞑ると、
――!?
まるでゲーム画面のように人の頭の上に名前が出てきた。
名前の色が青で表示されているのがプレイヤーで、白で表示されているのがNPCか?
(はい。青で表示されているのがマスターと同じ世界から来た守護者。白で表示されているのがこちらの世界の住人。赤で表示されているのが敵対者となります。他にもございますが、都度説明します)
なるほどね。一気にゲーム感が出てきたな。
(また、パーティーを組んだ仲間に限りHPを示すバーが表示されます)
了解。
(【ゲームモード】はこのまま同期してよろしいでしょうか?)
問題ない。
(了解しました。続きまして、マスターの世界にあるスマートフォンとこちらの『端末』を同期しますか? 同期することで着信及び各種通知をお伝えすることが可能となります)
電話を取ることも出来るのか?
(申し訳ございません。無理です。メールなどの内容をお伝えすることは可能ですが、受電及び発信は不可能となっております)
了解。
(ありがとうございます。『端末』に規約を送信しました。確認後、同意して頂けるならスマートフォンとの同期をオンにして下さい)
『端末』を操作し、規定をホログラム状で表示。こんなの全部読むやついるのか……というような、よくみるテンプレートな長文だった。
俺は一番下にスクロールすると書いてある同意のところをタッチし、スマートフォンとの同期をオンにした。
(ありがとうございます。スマートフォンとの同期を開始しました。これで『端末』の初期設定は一通り完了となります)
次は何をすればいい?
(何をするのも自由! というのが大前提ですが、守護者協会で【初心者クエスト】を受けることを提案致します)
初心者クエスト?
(はい。守護者協会のカウンターで受けることが可能です。混み合っている場合は、守護者協会のカウンター横にある掲示板に近付き、クエストアプリ内の更新を押して下さい)
もう一度並ばなくていいのか?
(はい)
そいつはラッキーだ。
俺はみどりの窓口もとい守護者協会のカウンターの横にある掲示板へ向かったのであった。
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