第15話 私、せんぱいのことが

 今日は優芽の誕生日。麻音さんが選んだ指輪を渡す日でもある。

 私が麻音さんとプレゼントを選んでから一か月。長いようで短い日々だった。すでに学校には慣れ、中間テストも終わった。結果は中の上くらい。それに対し、麻音さんと優芽さんはトップ2。麻音さんが一番だった。

 この高校から出て大学へ進学するにしても、就職するにしても、勉強をしておいて損はないのだとわかっているのだが、勉強はどうにもやる気が出なかった。


 本当に人生って不公平だと思う。あの二人は天に何物与えられれば気が済むのか。





 昼休み、目の前で二人が誕生日パーティー(?)の話をしている。


「今日私の誕生日なんだけど、放課後家に来ない?」


「もちろん行くわ」


 麻音さんのプレゼントを選んだ張本人としては、優芽さんがどんな反応をするのかぜひ見てみたい。


「私も行っていい?」


「もちろん!!」


 食い気味に私の言葉に反応する優芽さん。かなり顔も近いし、もう少し離れてほしい。いい匂いとか麻音さんの目とかがつらい。


「それじゃあ、今日の放課後に私の家に集合ね!!」


「あの、私優芽さんの家知らないんだけど……」


「なら、私が連れて行くわ。優芽はパーティーの準備をしておいて」


 そんな風にパーティーの話が進んでいく。しかし、私たち三人の会話を変えたのは、突然の来訪者だった。


「せんぱ~い。いますか~?」


 よく聞きなれた声。最近まで少し微妙な空気になっていた人の声。

 振り返るといたのは杏子。こちらに気づくと、なんか不敵な笑みを浮かべる。また私を襲うんじゃないんだろうな。


「せんぱい、今日放課後、屋上に来てくださいね。では!!」


 言い終えると、ものすごい速度で去って行ってしまう。はぁ、放課後どうしようかな。パーティーにも行きたいし、杏子からのお願いも無下にしたくない。

 私の様子から、悩んでいることが分かったのだろうか。麻音さんが私へ提案をしてきた。


「あの子の話を聞きに行ったら?その後からでも、パーティーは遅くないと思うわ」


「なるほど、わかった。じゃあお言葉に甘えて」


 私と杏子の話が終わり次第、麻音さんと優芽さんの家にいくことになった。


 何の話があるんだろう。ちょっと前に襲われそうになったことがあったけど、あの件はもう解決しているだろうし。もしかして、告白でもされるのかな。いや、だとしても、なんで今なのかわからないし。まぁ、放課後になったらわかるだろう。






 放課後になり、杏子に呼ばれるのかと少し教室で待ってみるが、そんなことはないらしい。一人でとぼとぼ屋上へ向かうことになる。あれ、そもそも屋上って立ち入り禁止じゃなかったっけ。


 ドアノブをひねる。鍵はかかっておらず、簡単にドアが開く。開いた先には、風で髪が打ちなびいている。こうして見ると、少し露出のある美少女にしか見えない。まさか、私を襲うような人には見えない。


「あ、せんぱい」


 ふふ、と笑うその姿は、見た者の人の心を奪うであろう。私も例外ではなかったらしい。

 少し心臓がうるさい。まるで私が恋をしているような感覚を覚えるが、これはあくまでも杏子の容姿にドギマギしているだけである。それを自覚しているが、それでも音が止む様子はない。


「それで、どうしたの?こんな場所にまで呼び出して」


「ちょっと人前では話にくいことがありまして」


 少し顔を赤らめ、恋する乙女のような雰囲気を醸し出す。

 本当に、告白をする気なのだろうか。私の心の準備はまだできていないのだが。まぁ、告白と決まったわけではない。もう少し話を聞いてみよう。


「なるほど。じゃあ話してくれない?」


「とりあえず、こっちへ来てくれませんか?あんまり遠くで話したくないんです」


 杏子は屋上の縁に立っている。少しバランスを崩したら落ちてしまいそうだ。高所恐怖症ではないけど、わざわざそんな場所に行きたいとは思わない。


「えっと、それならこっちに来てくれない?そこ危なそうだし」


「いえ、こっちへ来てください」


 杏子の語気が強くなった。つまりは、話したいならこっちへ来いということだろう。何かあるんじゃないかと、杏子を疑う気持ちがあったが、思考をするより先に杏子の方へと近づいてしまった。

 私が近くにいることが嬉しいのか、杏子が抱き着いてきた。甘い匂いとともに、胸の柔らかさを感じる。話なんて忘れて、この至福を味わいたいが、そういうわけにもいかない。


「それで、話って?」


 私が聞くと、少し期待したような目が見えた。これからの未来を見るような、過去を見たような目。そしてそれと同時に、少し諦めたような目をしていた。

 やはり、過去のことを思い出したのだろうか。私へ襲い掛かったことで何かを諦めているのなら、そんな必要はないと声を大にして言いたい。

 ただ、その諦めたような目から一転して、急に頬を赤く染める。そして、話し始めてくれたのだった。


「私、せんぱいのことが好きなんです」

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