第13話 料理対決の日

 あれから杏子と共に過ごしたが、特に何事もなく休日が終わった。別に襲われることもなく、普通に遊んだり話したりして土日を過ごした。

 しかし、さすがに杏子と私が同じ部屋で寝るのはやめておいた方がいいと氷雨さんから助言され、時雨の部屋で寝ることになった。ちなみに、むしろ時雨の方が今にも襲いそうにな目をしていたのは内緒だ。


 そして、あっという間に料理対決の日が来た。正直、休日にいろいろありすぎて忘れかけていたが、前日に優芽さんの発言によって思い出した。ナイス優芽さん。




 昼休み。自信満々の二人と、冷静沈着な委員長。そしてまだ開かれていないお弁当箱が三つ。さて、これから運命の戦いが始まる。まぁといっても、ここまで来たらあとは祈るくらいしかできないが。


「では優芽さんから見せてください」


 委員長の声とともに、優芽さんが自信満々に開く。そこにはレタスやハンバーグ、卵などが綺麗に盛り付けられており、冷めているとはいえ、おいしそうと思わせるような弁当であった。


「では一つずつ、いただきますね」


 具材を一つ一つ味わうように食べていく。食べている間の沈黙が、なんとももどかしい。いきなり100点のような感想を言われたら、正直勝てる気が失せるだろう。しかし、委員長は食べた後感想も言わずこちらを向いてきた。


「では月島さん。お願いします」


 感想は?という発言を飲み込み、中身を見せる。中身は優芽さんの弁当より少し肉が多いだろう。しかし、大事なのはバランスではなく味。この対決では味がすべてを決める……と、思い込んでいる。実際はバランスなんてまったくわからないから、味で勝負するしかないのだ。最も、その味も本当においしいか定かではないが。


 さっきよりも長く咀嚼する委員長。1秒1秒が本当に長く感じる。この緊張した時の時間の流れというものは、非常に残酷だ。楽しくもないことに、なぜこんなに緊張と苦痛を長く味合わせるのだろうか。

 相変わらず感想はないようで、暇を持て余した私は、無言で食べる委員長をただ見つめることしかできなかった。


 そして私の弁当を食べ終わり、麻音さんの番となる。しかし、麻音さんの顔には暗い影が。なぜかは知らないが、弁当の中身を見せたくなさそうにしている。しかし、優芽さんにせがまれて、抵抗もむなしく弁当を差し出す。


 開いた中身には……ダークマターがあった。


 思わず「え」と声を漏らしてしまう。いつもの弁当はどこへ行ったのだろうか。

 私が呆けていると、横から箸が伸びてきた。そして委員長は、顔色一つ変えずに弁当の中身を食べた。が、無理だと判断したのか、途中で食べるのをやめた。

 ちらりと麻音さんに目をやると、明らかに落ち込んでいる。いや、本当にどうしたのだろうか。調子が悪かったではすまされないほど悲惨な中身をしている。


「それでは、総評に移りたいと思います」


 私たちの視線が委員長に集まる。皆結果に待ち望みに……してない人もいるが、私と優芽さんのどちらが勝ったか気になる。


「まず、優芽さんですが、非常にバランスのよい中身であり、味つけも非の打ち所がありません」


 うん、終わった。実質100点宣言じゃん。いやまぁわかるよ、うん。でも、最下位にはならないと思うし、結果的には何もなし。よかったよかった。


「次に月島さんですが、少し肉類が多いです。また、濃い味付けのため、味のリセットができるミニトマトや葉物を多く入れるといいでしょう。ですが、男子受けする中身であると思うので、もし意中の人がいる場合は、こちらの弁当でも問題ないかと思います」


 めっちゃ的確なアドバイス。まぁ、これから弁当を作ることはほぼないだろうが、機会があればぜひ参考にしよう。


「さて、麻音さんの評価はいったん置いておきます。では順位ですが」


 もはや誰も緊張はしない。個人個人の評価をされた時点で、すでに順位が分かったようなものだ。さて、それじゃあ私は優芽に2位を取るとしよう。




「3位、月島さん。2位、優芽さん。1位、麻音さん。おめでとうございます。麻音さんの優勝です」




 ……え、え


「ええええええええええええええええ!!!??」


 優芽さんの叫ぶ声を聞くと、私も叫びたくなる。というか、え。なんでこんな順位に。

 優芽さんはなぜか麻音さんをにらんでいるし、麻音さんは勝ち誇っている。いや、計画が成功したような悪い顔をしている。


「麻音さんの弁当ですが、正直に言って私好みの味付けです。しかし、私の好きな味付けを偶然あてたとも考えづらいです。つまり、誰かに私の味の好みを聞きましたね?」


「えぇ、もちろん。勝つためならなんだってするのが、勝負というものよ」


 そんなことしてたのかよ!!いや、ずるいとは思わない。そもそも自分の味付けで勝とうとして、そこまで頭の回らなかった私が悪い。


「見た目こそ最悪。いえ、、味は最高です。あえてよろしくない見た目にすることにより、感情の急降下を狙ったということでしょうか。大変素晴らしいです」


「違うわ」


「違う、と言いますと?」


「私は優芽に言われたのよ。『勝利を譲ってほしい』とね。けど、そんな八百長つまらないじゃない?だから、その場では了承したけれど、私は全力を尽くした。それだけよ」


 勝利を譲ってほしい?だからあんなに驚いていたのだろうか。というか、そこまでして勝ちたい理由は何なのだろうか。

 私が事態を簡単に飲み込めず、少しうなっていると、委員長がまとめに入った。


「ではこれにて料理対決を終わりたいと思います。みなさん、ありがとうございました」


 委員長が席を立ち、自席へ戻っていく。残ったのは、勝ち誇った麻音さんと、よくわかっていない私、そして驚いたまま固まっている優芽さんだった。

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